アルバでの襲撃

第33話 シェリーの剣

「最近、シェリーとの対練で、シェリーに剣を持たせることが多いよね。なぜだい?」


 まだまだ、残暑が残るアルバ海運都市までの道すがら、僕はアーノルドに聞いてみた。


「この間のロッソ村での戦い方を見ていて思っただがな。シェリーの八相掌と瞬間移動は確かに凄いけどよぉ、間合いが近すぎるのが仇になる場合があるわけよ。ゴブリンが集団で襲ってくるときとかよ」

と、ちょっとシェリーの形を真似ながら、アーノルドが答えた。


続けて、

「後は、あれだ、俺も剣を相手に対練したいときもあるわけよ。だから俺も時々、こぶしで勝負してやってるぜ。こっちは全く勝てねぇけどな」

ミソルバ国で、ドラゴンを開放した後、シェリーの蹴りを力を抜くことで致命傷を回避したのが面白くなり、体術もやっているらしい。

シェリーが手ならぬ気を抜いたことは黙っておこう。


「シェリーの剣筋はどうなの?」

「もともと、八相掌には剣の套路もあるから、俺と互角以上だな。ただなぁ」


 アーノルドが言葉を切って、何やら、箱を取りに言った。


「シェリーは、剣に気を纏わせるだけではなく、時々剣に気を通そうとするだよ。するとな、こんなふうになる」

と箱に入った、剣の残骸を見せてくれた。


 皆、途中で折れているというか、引き裂かれた感じだ。


「流石にあるじの作った、竜牙重力短剣では試したことはねぜが、普通の剣じゃだめなんだよなぁ」

「なんで僕に相談してくれないだい?」

「シェリーは、まだ、練習だから良いと言って、あるじに頼むのを嫌がるんだよ。でも、あれだなだ、今、言っちゃったから、また怒るだろうな。こいつは楽しみだぜ」

と言いながら、顎に手を当てながら、ニヤっと笑った。


 剣に気を纏わせるとか、通すとか、錬金術師の僕には良くわからない感覚だが、それ以上にアーノルドの感覚は理解できない。


「もう一つ教えて。気を纏わせるのでは駄目なのか?」

「そうさな、シェリーが言うには、纏わせると確かに剣も丈夫になって、それなりの力を伝達できるだが、素手から出る気の力に遠く及ばなぇって言ってやがるだよ。俺は、この剣に纏わせることしかできねぇけどな」

と竜牙重力大剣の柄に手を当ててながら言った。


 シェリーを創造するとき、気の運用について、調べていくうちに、体内の気が巡るというのは、特別な通路があるわけではなく、細胞と細胞で聖素を受け渡して行く流れではないかと思った。それを元にシェリーを創造したが、剣にも同じような構造が必要なのだろうか。


 オリハルコン、ミスリル、ヒヒイロカネ、アダマンタイトなどの鉱物も武器としては最適とされているけど、それらで作っても『気を通す剣』などと言うのは聞いたことがない。


‘気を通す、剣か’

などと考えつつ、僕はコロン車の後ろの狭いバルコニーに出た。


―――長い昼のむっとするような、夏の匂い。光が刺し、目に染みる。木々は、あまりの暑さに力がない。それでもセミの音は、うるさいくらいに降り注ぎ、其の短き生を精一杯謳歌している―――

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