第30話 論功行賞

 パーティ討伐戦の場合、名簿狩猟者以外は、ほぼ公平に賞金が与えられる。

 今回も、皆公平に報奨金が与えられ、討伐証明書がマリオリから発行された。これを認定所に持っていけば記録され、上位百人に入れば名簿狩猟者になれる。今回トロール 十二体なので、意外と百人に入った狩人もいるかも知れない。


「マリオリ殿の作戦は素晴らしかった。流石、ソイ村のマリオリ殿」

と私はマリオリに話しかけた。


「いや私など、後ろから、あれこれ言っただけです。それより、ダベンポート殿の剣さばきも、なかなか」

と他愛のない話から始めたが、


「マリオリ殿、私の論功行賞をお聞き頂けませんか?」


 私は仲間になってくれと頼むつもりで言った。マリオリはすでに察している。


「いえ、私はすでに引退した身。王業について行くことすら危ういです。どうか他の報奨でご勘弁いただけませんでしょうか」

と、やんわりと断ってきた。


 他の狩猟者たちは宴会に夢中で、こちらは気にしてない。私とマリオリは少し離れて静かなところに移った。レオナだけが目で私達を追っている。


「今、ローデシアは、九カ国を併呑しました。そこの民衆は徴兵、重税、搾取と塗炭の苦しみに喘いでいます」

私は、拳をにぎり、訴えた。


「それに、この魔物の異常発生と繰り返される各国王都の襲撃、そして知的魔族のはぐれの多さ。どれをとっても、おかしいとマリオリ殿は思いませんか?」

私は、マリオリの目を真っ直ぐに見た。


マリオリは、まだ黙っている。


「私は、これで終わる気がしません。さらに大きな不幸がこの大陸に齎されるのではないかと危惧するところです」


するとマリオリは、

「ダベンポート殿は、ミソルバ国の動乱をご存知でしょうか? ドラゴンが三体、王都を襲撃してきたそうです。恐らくは誰かが仕組んだことでしょう」

マリオリは、ちょっと景色を見るような感じで、視線を反らして言った。


「ローデシア筋は表立って声明を発していませんが、魔物驚異説を流布しています」


 マリオリは錬金術師の協力があって被害が食い止められたことは言わなかった。ヘンリーは弟に対して、まだ、負い目を持っていると感じたからだ。弟に会っていないその一点で。もし会っていれば、こんな場末の小さい村に人探しには来ないだろうと。


「いえ、今はただの魔物狩猟者の身ゆえ、情報にはトンと疎いのが現状です」

「しかし、先程の大きな不幸についての推測は、私と同じです」

私はマリオリの横顔を見つめた。


 少し沈黙が続いた。


 マリオリの体が私に向き直り、跪いて、


「解りました。不才の身でありますが、王業のお供させていただきます。陛下の王気には抗えません」

私は、すぐに、立つことを促すよう、マリオリの手を取って、


「ありがとう。ただ、陛下はやめて欲しい。今の私は一介の魔物狩猟者、他の誰かに警戒されたくもない。レオナが呼んでいるようにヘンリーで結構。私もマリオリと呼びたい」

「解りました。ヘンリー様。それから、もう二人仲間に誘った方が良い者たちがいるかと思います」


 私は考えたが、あの二人しか思い当たらない。


「ユアンジア兄弟か?」

「そうです。特にケイ殿」

マリオリは間髪入れずに答えた。


 私は頭を掻きながら、苦笑いをした。


「戦場で不謹慎がバレましたか」

「いえ、手合わせの時からです。良いかと思います。王道は人の道ですから」


 そして、私はサンとケイに事情を打ち明けて同士となってもらった。両名とも、同行することを望んでいたらしく、喜んでくれた。


 私が元王であることも打ち明けると、平伏しそうになったので、同じ魔物狩猟者として接してくれと頼んだ。


 そして、獲物は魔物だけではないことも。


 ただ、ケイへの思いは打ち明けなかった。

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