第29話 トロール討伐戦

 結局、集まったのは八十人くらいだ。


 マリオリとユアンジア兄弟以外は、あまり、ぱっとしない。

 それでも、マリオリは扱う武器と熟練度に合わせて、弓手隊、魔法隊、タンク隊、アタッカー隊と分けて、隊を編成した。見極めと交渉術は流石といえる。

 私はタンク隊、レオナとユアンジア兄弟は、アタッカー隊になった。今回は私も盾を使う。

 指揮官はマリオリで後方から指示し、一名聖霊師が横に付き臨機応変に回復を行っていく。


 例の谷に近づいた時、マリオリが作戦を説明した。


「まず、弓手隊は二手に分かれて谷の両側、魔法隊は谷の更に少し上川まで行ってください」

と谷と、地図を示しながら、説明する。


「私が谷の入口に魔除け結界を張ります。狼煙を上げますので、魔法隊は、トロールより上流側の山を火か土魔法で崩して川をせき止めてください。夏は水が少ないので簡単にせき止められます」

地図の谷の上流側に杖を使って、バツ印を書いて、せき止めることを示唆した。


「同時に弓手隊は持っている油矢をすべて、トロールに射込んで、そして火矢でトロールに火をつけてください。火を見た後、魔法隊は火系の攻撃を行ってください。範囲が絞れるならメテオフォールでも良いでしょう。ただし、弓手隊損害を与えないように。なるべく上流側に魔法を発してください」

マリオリは一旦区切り、魔法使いたちを見渡した後、タンク隊とアタッカー隊に向き、


「トロールたちは火のない下流側に出てくるでしょう。最初は私の魔除けの結界で少し戸惑うでしょうが、後ろの火のために魔除けの結界を突破しようとします」

杖を使って、地図の上で上流側から下流側に、指している場所を移動させた。


「タンク隊は、魔除けの結果の中で待機し、突破しようとするトロールを足止めします。奴らは、結界による感覚不全で動きが鈍くなりますので、タンクが持っている盾でも止めることができると思います」

マリオリは、ヘンリーを見ながら説明する。


「そこをアタッカーが仕留めに入ります。奴らの頭から肩、背中は、非常に硬いので、狙うのは顎の下、股の間、脇の下です。棍棒を振り回して来るので、タンク目掛けてに振り下ろした時を狙ってください」

マリオリは、杖を使って、アッタカーに攻撃する場所を示した。


「ここで重要なのは、結界の外では戦わないことです。また、弓手、魔法隊は、結界の外にいるトロールだけを狙うこと。結界では同士討ちになります為」

最後に魔法隊と弓手隊に顔を向けて注意をした。


 いくつか質疑応答の後、それぞれの持場に散っていった。


 しばらくして、マリオリは魔除け結界を谷の出口を全体を覆うように張った。そして狼煙を上げる。狩りが始まった。


 少し遠くから、ドン、ドンと山を崩す音が聞こえる。魔法隊による山崩しだろう。山の上空に魔法陣が現れ、小型のメテオフォールも出てきた。煙が上がっている。


「ウオー、ウオー」と悲鳴がこちらに近づいてくる。


 トロールたちが火だるまになりながらも、自分で懸命に火を消しながらこちらに来る。


 結界の近くで、一旦止まった。しかし後ろからくる炎にいたたまれず、数体が結界に入ってきた。


 動きが明らかに遅くなるのが見て取れる。


 私は、盾を構え棍棒を防ぐ。


 結界を突破しようとトロールがタンク隊を越えようとするが、タンク隊の盾が邪魔をし、足をあげると股間を剣でさした。


 一体が私を盾ごと踏もうとしたが、地に付いている側に足の甲にエルメルシアをつきたて、‘氷の加護’と念じるた。


 エルメルシアが青くひかり、トロールの足が氷で固まり、そして折れた。トロールは、ドッタと倒れ、そこにレオナが槍をトロールの喉元に突き立った。


 結界の外では入るのをためらっているトロールに対して土の槍や、ファイアフレームが浴びせられ、倒れていく。上手い弓手は喉を狙って弓を射ていた。


 周囲を見回すと、


 ケイがタンク隊無しに対峙しているのが見えて、私は駆け出した。


 トロールは、縦に二回棍棒を打ち付けたがケイは右へ左へと避けた。


 それで今度は、横殴りに棍棒を振り回す。


‘不味い、当たった‘


 ケイに横殴りの棍棒が当たった様にみえた。


 軽傷である事を祈りながら、さらに近ずく。


 しかしケイは棍棒を紙一重で躱し、棍棒にダガーを引っ掛け、トロールの肩のあたりで、振り上げられた棍棒からトロールの頭に移り、喉を掻っ切った。


「なんと身軽な!」

 感嘆の声をつい発してしまった。


 ケイに聞こえたらしく、こちらを見て恥ずかしそうにしていた。


 うっ。私も女を知らないわけではないが、今の仕草はトロールの一撃より効いた。

 いかん、今は戦場だと気合を入れ直し、タンクが苦戦しているトロールに向かっていった。


 サンは、タンクが耐えたトロールの一撃の腕を、猫のように身軽に伝わり、喉笛を切っていく。そして倒れる前にさっと飛び降りて、次の現場に飛んでいった。


 レオナは、姿勢を低くしたトロールに電撃の速さで、やはり首に一撃を加え倒していく。


 他のアタッカーも何匹かのトロールを倒した。


 そして最後一体を倒し、狩が終わった。十二体のトロールを全て退治し、こちらは軽傷者数人である。


「皆さん、大成功です。どなたかトロールの部位で欲しい所はありますか?」

とマリオリが、全員に聞いたが誰も答えなかった。


 トロールの部位は余り価値ががないのである。持っていっても臭いだけで二束三文にしかならない。

 しかし残しておくと他の魔物を呼んでしまうので、マリオリは腐肉草の種を、トロールに振りかけた。すると見る見るうちに発芽し、トロールの死骸全体を覆った。


 ――――腐肉草は、魔物の死肉を分解し、魔素にして、空気中に放出してしまう草である。成長が早く、魔物に振掛けると見る見る間に発芽して、トロールでも、一晩で骨だけにしてしまう。広い場所なら、魔素が貯まることもなく、魔獣、魔物を処理するのによく使われる―――


「サー皆さん、凱旋です。村に戻りましょう!」

「おーっ」

とマリオリの掛け声に皆で答えた。

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