第26話 武術習得

 それから、数日後、アルカディアの師匠達、教授陣、老師たちにシェリーを紹介して回った。


 オクタエダルは、

「おーこれはこれは、マリーよ、新しい依り代を得たのじゃな。じゃがな、もうジェームズも分別がつくようになってきておる。いつまでも子供扱いはせぬようにな」

と丸メガネの上から、覗き込むように言っていた。


 部屋を出た後、

「ご主人様、オクタエダル様は、なぜ、あんなことを仰ったのでしょうか?」

とシェリーは聞いてきた。シェリー自身は自覚がないらしい。


「いや、多分、師匠も年でボケただよ」

と言ったら、


 ゴツ


「痛っ」

空気が硬い何かに変わって、僕の頭に降ってきた。


 最後にレン老師のところに行った。

「老師、シェリーの武術特性を見てほしいのですが。一応瞬間移動の能力は持っています」

とお願いした。すると老師はシェリーを一目見るなり


「むむ」

と唸り、さっと手刀をシェリーに入れた。


 しかしシェリーは、紙一重で避けて、何もなかったのように佇んでいた。


「ジェームズ君、このホモンクルス、いやシェリーを暫く私に預けなさい」

と有無を言わさぬ威圧を込めて言った。


「どのくらいでしょうか?」

と恐る恐る聞いた。


「まずは、一ヶ月。見学に来るのは許可します」

と言った。


    ◇ ◇ ◇

 

 僕は、一週間ほどして道場にやって来た。


 シェリーと老師は、目にも留まらぬ速さで手合わせを行っていた。


 老師が拳を打つと、シェリーは掌を軽く添えて、方向をいなし、突然バンと音がする。


 老師はその直撃前に躱して、後ろ蹴りを入れる。


 シェリーはそれを靭やかにしゃがんで、足を払う、されにそれを老師は後に跳んで避ける。


 暫くこんな感じで闘っていた。


 そして、さらに一週間後見に来ると、二人は座ったまま微動だにせず、瞑想をしていた。

 そして更に一週間後来てみると、向き合って睨み合っているだけだった。

 そんな感じで一ヶ月が過ぎた。


「武に特化したホモンクルスは強いけど、貴方は特別ね。もう教えることはないわ」

と腰に両手を当てて言った。


 シェリーは黙って、武術家が行う礼を老師に向けていた。


 老師は続けた。

「貴方の瞬間移動と私が伝授した八相掌があれば大概の敵に対処できるでしょう。武器は、体重に見合う物なら何でも使えるけども、軽めの片手剣が使いやすいと思うわ」


 道場にあるシン王国式の剣を見せてくれた。


 さらに老師は続けて、

「それと玄武結界があるから。ところで、シェリーは玄武結界を最初から使えました。これは何処から教わったのかしら?」

と聞いてきた。玄武結界は魔法のような術式は必要ない。気を使って、丁度掌で相手の力をいなすように軌道のある攻撃を避けることができるもの。これを母が使ったのをあの日、見ていた。


「オクタエダル師匠は、僕の母、マリーがシェリーに宿っていると言っていました。母はその結界を使えたようです」

と言うと頷きながら、

「あなたのお母様はマリーでしたね。そうですか。マリーに玄武結界を授けたのは私です」


 レン老師によれば、母は気が魔法かどうかの研究をしていたらしく、老師のところにしばしば来ていた。そこで、気の運用の仕方を教えたら、相手を打つほど濃密ではないが、気の流れを制御することはできたらしい。

 ただ、魔術師である母には、聖素を元とする気は相性は悪く、どちらか一方しか使えい。また、武功が少ないため、集中しなければならず、打ち合いのときには使えなかったそうだ。


 あの丘のときの母の動きがなんとなく理解できた。


 しかし、シェリーは、非常に高い武功の持ち主で意識せずに玄武結界を張ることができるらしい。

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