第27話 ライバル

「よーあるじ、久しぶりだなぁ、ちょっと帰ってきたぜ」

アーノルドは、すでに騎士課程を卒業し、剣術を極めたいとレン老師の大老師に元に修行に行っていた。


 口調は相変わらずである。

「ホモンクルス作っただって? どこにいるんだ?」

と興味津々で聞いてきた。


 アーノルドのことだから、きっと女性のシェリーをみると、


あるじあるじの趣味ってこんなだったのか?』


とか


あるじ、やるじゃねぇか。まさか女のホモンクルスを作るとは思ってなかったぜ。』

とか言うと思っていた。


 今シェリーは僕の後ろにいるので、僕が横に避けてシェリーを紹介しようとしたら、


「おめぇ、なんて名だ?」

とアーノルドは、シェリーを睨みつける。


「えっ」

僕は予想と違う始まり方にちょっと戸惑った。


「シェリーです。ご主人様に向かって、護衛がぞんざいな口を聞くのは感心しませんね」

と言いながら長い銀髪を紐で纏め始めた。


 げっ、なんで、いきなり戦闘モードなのか?


「おめぇ、俺と手合わせしろ!」

「望むところです。その口の聞き方、叩き直して差し上げます」

「あん? 上等じゃねぇーか。やってみろ。吠え面書くのは、おめぇだぜ」

とロングソードを構えた。


 僕は二人の間に割って入って


「ちょっと、ちょっと。なんでそうなるの? 二人共、今はじめて会ったのでしょう?」

あるじ、こいつとは、勝負しなきゃならねぇんだ」

「そうです。ご主人様、こればかりはご主人様の命令でも聞き入れられません。両雄並び立たず。この無法者には一度痛い目にあわせておく必要がります」


‘母上、アーノルドですよ。僕と一緒に育ててくれたじゃないですか’

と心の中で叫んだ。


「ジェームズ君、その二人は手合わせしないと収まりませんよ。お互いを今生のライバルと感じたのでしょう。武を志すもの定めですね」

とレン老師が話をしてきた。闘気を感じて出てきたらしい。


 武とは、面倒なことだと感じた。


「さて、二人共、致命傷を与えてはいけません。致命傷を与えた側は力の制御ができない未熟者とみなします。ジェームズ、一応回復薬はありますね」

えー、やるの……と言ってる間に、アーノルドとシェリーは間合いを取り初めた。


「ほー、なかなかやるじゃねぇか、だが」

と最初に仕掛けたのはアーノルドだ。


 ロングソードを右側後ろに引き、剣先をシェリーに向けたまま、大きく回しながら左足を前にだし、右足の歩幅をとって剣を突き出す。


 そして、左手を剣の柄から離し右手だけで剣を支え、更に半身を開いて剣を突き出した。瞬間移動ではないのに信じられない距離の間合いを詰めたのだ。


「甘いわね」

とシェリーは一言。


 玄武結界で軌道を反らし、体を捻って前に詰めてアーノルドの右腕に掌を当てて、気を打ち込もうとした時、アーノルドは剣を左に引いて掌をかわした。


 そして左下からシェリーの体を切り上げる形で剣を回した。


 それもシェリーはかわして、瞬間移動でアーノルドに左側に出て、肩に掌を打ち込もうとした時、アーノルドはロングソードの剣先をその掌が向かう場所に向けた。


 シェリーがそのまま掌を打ち込んでしうと、剣が刺さる。シェリーは咄嗟に左側に体を回転させ避ける。


 こんな感じで打ち合っている。一進一退で勝負は全く見えない。


 時々

「そんな、へなちょこ、当たるかよ」


 とか


「何、その無駄な動きは、見ていて呆れるわ」

とか言い合っている。


 でも、よく見ると二人共、真剣だが楽しそうだ。レン老師は感心しながら見ている。


 僕は空気を固めて椅子にし、老師に椅子を勧めた。いつの間にかヒーナも見物に来て、拍手している始末。


 かれこれ、一時間たった。流石に二人共息が荒くなってきた。


「はい、それまで。今日は引き分けです。いい勝負を見させてもらいました。アーノルド、双手剣の腕前なかなかのものになりましたね。シェリー、私の弟子の中で最も秀でっていると思います。二人共これからも精進しなさい」

とレン老師は言って、今日のところは引き分けで終わらせた。


 二人は武術家がやる礼を老師に向けた。


 僕は内心、‘これからもやるのか? やれやれだな’ と思ったが、母上のアーノルドへの愛情の現れかもしれないとも思った。


 でも

「今日のところは、止めといてやるぜ、次は覚悟しろよ」

「あら、それはこっちのセリフよ。息があがって、肩で息しているじゃないの。まだまだね」

「なんだと……」


 と二人の舌戦はしばらく続いた。



   ◇ ◇ ◇


あるじ、また考えごとか? 禿げるぞ」

「ああ、君がシェリーを見て、母上のようだって言ったから、シェリーを創造したときの事をね。ちょっと思い出していたのさ。さあ、そろそろ、出発の準備を始めようか」

と僕たちは、シン王国の次の目的地、アルバ海運都市に行く準備を始めた。

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