第23話 聖素慈雨の祈り

“申し訳ないですが、コロン車でこちらに来ていただけませんでしょうか、ゴーレムが御者しますので”

僕は崖から空気壁の檻の中に降りて、聖霊師に魔法通信でお願いした。


 そして、出られずあたふたしている二十人位の賊共に近づき、素直に投降するか? と聞いたが、賊共は数を頼んで、戦うことを選んだようだ。


「相手は三人だ、殺っちまえ」


 しかし、僕に飛びかかろうとした賊の頭には、矢が生えて死んでいく。そうやって、賊は半分に減った。賊の頭と残った手下は、武器を投げ出し許しを請うてきた。


 アーノルドが僕の横に来て

「殺っちまった方が、世のためだぜ、あるじ。シェリーもそう思っている」


 それを聞いた賊たちは悲鳴を上げている。しかし、僕は、


「否」

と一言だけ言って、賊の周りに八本の弓を立てて、賊の足元の土を水のように流動化して、首まで埋めた後、再び固めた。この程度なら無提唱の錬金術でできる。


「お前らには、そう簡単に死んでもらうわけには行かない。お前ら、教会を破壊し、神父を殺したろ? 異端審問官に引き渡すから、覚悟しておけ」

「お願いだ、ここで殺してくれ……」

と賊たちは、わめき出した。


―――異端審問で教会への反逆とされた場合、過酷な責め苦が待っている。聖霊魔法で死ぬことも、気が狂うこともできず、延々と苦痛を味合うことになる。しかも族誅で一族郎党処分される。―――


 暫くして、聖霊師が空気壁の外に着たので一部を消して中に入れた。そして、保護した子供と女性は、村人たちが集まっているところへ、シェリーに連れて行かせた。


 僕は聖霊師に

「まだ、ゴブリンがこの近くに潜んでいるかもしれません。聖素慈雨の祈りを発して、この辺り一帯を浄化してほしいのですが」

と頼んだ。


 双子の聖霊師は頷き、向き合いって座り、杖を立てて瞑想した後、歌のような祈りを唱え始めた。


 非常に複雑な術式で、この双子の聖霊師でも、数十分の祈りが必要であった。普通の聖霊師なら、数時間かかるだろう。森の木々、大地、天、空気から聖素をもらい、それを集めて、広範囲に渡って聖素を雨のように降らせる。体力と時間がかかり、術者の周りにしか降らすことができない。しかし、魔物に対して威力は絶大であり、浄化力が非常に強い。よって、この辺りにいる魔素を生命エネルギーとしている魔物は消滅してしまうだろう。


 空に巨大な魔法陣が現れ、ゆらゆらと聖素が上空に集まり、そして降り出した。


 光の雨にあったゴブリンの死体は消えていく。同時に人属の遺体は浄化されていく。生きている人属には回復を与え、癒やしを与えた。

 錬金術師や魔術師の魔法では、物理的に物、敵、味方関係なく壊してしまうが聖霊師の魔法は聖素を生命エネルギーとしている生命体には祝福を与えるのである。


 聖素慈雨が降り出して間もなくすると、案の定、森の其処彼処から、不気味な悲鳴が聞こえてきた。


 村人をロッソ村に返し、聖霊師の回復のために暫く滞在した。村の人口は半分に減ってしまい、全員の心に深い傷を残してしまった。それでも商談の話は男たちとして、いつもより多くの手付金を渡した。村の復興には必要だろう。


 賊たちは異端審問官に引き渡した。余罪も多くあるらしく有罪確定だ。彼等はシン王国の教会聖都に連れて行かれた。二度と太陽を拝めることはない。


 それから数日が過ぎ、生き残った子供たちは一時よりは良くなってきた。シェリーは、昼間は一緒に遊んだり、食事をさせたり、ちょっと勉強させたり、夜は恐怖を思い出して泣く子達に添い寝してやったりしていた。そんなシェリーに子供たちもなついていた。


あるじよ、シェリーを見ていると王妃様を思い出すなぁ」

 アーノルドの言う通り、母上は庶民、貴族、王族別け隔てなく子供がとても好きで良く面倒を見ていた。早くに母親をなくしたアーノルドも我が子のように育てていた。


「そうだな……」

 ジェームズはシェリーを創造したときのことを思い出していた。

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