ロッソ村の惨事

第21話 惨劇

あるじ、あちいな」

 アーノルドは、暑さでダレていた。僕たちはミソルバ王国を離れて、シン王国の国境近くの村に行く途中である。辺りは夏の様相になり、緑が濃く、道の先はゆらゆらと揺れて、陽炎が立っている。太陽の光は刺すような強さだ。


 ミソルバ国には、数週間滞在したが、あれ以来魔物の襲撃はなかった。僕は、兵たちの武器の修理や強化を行い、魔物が来ても対処できるようにしてきた。ドラゴン級でなければ大丈夫だろう。それと今度開業する支店第一号の準備を行い、ヒーナには来年、賢者の石を作るのを手伝うという条件で一号店の店長をお願いした。


 僕は、コロン車の上にパラソルを開いて、儲かることはないかと考えながら、景色を楽しんでいる。その横には、熱さにも負けないお喋りな相棒が、上半身裸で寝そべりながら喋ってきた。


あるじ夏だから、暑いのは仕方ねぇとして、何で子供ばばぁーずが一緒なんだ?」


 ミソルバ国を出発する時、双子の聖霊師がやって来て、オクタエダルに会いたいから連れて行けと言った。


「か弱い女性の旅は物騒だからと言うことだそうです。ステレオで」

あるじ、か弱いか? あれが」

とアーノルドが言ったら、下からドンと突き上げてくる音がした。ステレオで


「下なら涼しいと思うけど」


 コロン車の中は涼しくなるように、チョットした装置がついている。


「いぁーなこった。だってよ、シェリーは朝のミーティングとか言って、目開いたまま、一言も喋らねえし、子供ばばぁーずも瞑想だとかでしゃべらないだぞ」

とアーノルドは、瞑想している聖霊師のマネをした。


 続けて、

「三人顔を突き合わせているのにシーーーンとしているだぞ。それで、俺があくびしたら、『これ、粗忽者、少しはお前も瞑想でもしたらどうだ』とか言って説教たれる始末。俺には耐えられなぇな」

と言っているが、研究室用のコロン車だって涼しいから、そっちに行ったっていい。


 要するにアーノルドは暑さより、喋りたいのだ。

 ちなみにそんな彼だが、実は新月の夜、剣を構えて身じろぎもせず、長い時間瞑想していることを僕は知っている。

 

 などと過ごしているうちに目的のロッソ村に着いた。


 この村の近くの洞穴にヒカリゴケが生えており、定期的に買い付けている。今日はその挨拶にやって来た。先に魔法便で送っておいたので連絡はついていると思ったのだが門番がいない。声を大きくする呪文をかけて、


「こんにちは、ダベンポート雑貨のダベンポートです。どなたかいらっしゃいませんか?できれば、入れて欲しいのですが……」

「…………」

あるじ、反応ねぇぜ」


 シェリーも出てきて、顔を向けてきたので僕は頷き返した。シェリーは瞬間移動で櫓に移動した。


“誰もいませんね。あっ、子供が……”

と言っている間にシェリーの髪が怒りに逆立った。


 そして瞬間移動で消えていった。僕は紐付き矢を射て、反動で櫓に登り、門を開け、コロン車が入れるようにした。そしてシェリーが移動していった方に向かった。

 子供を含む村人数人が斬り殺されていた。母親が子供を庇うように倒れていたり、父親が賊から守ろうとした死体もあった。すでに殺されて時間が経っており、この炎天下で腐敗が進んだ状態である。

 シェリーは次々に瞬間移動し、生存者を探し回っている。僕たちも手分けして探し回った。双子の聖霊師は、村の真ん中辺りに行き、向かい合って祈り言葉を唱えた。生命の声を聞いているのだろう。


“ジェームズ、シェリー、アーノルド、西の教会の地下から僅かに生命の声が聞こえる。まずそこに行け”

と聖霊師から魔法通信が入ってきた。


 僕とシェリーは屋根に移動し、屋根伝いで教会に向かった。


“酷い”


 それしか出なかった。子供も大人も手を縛られ、内臓を抜かれている。シェリーは泣きながら、移動して、子供たちの生死を確かめていった。


 僕は教会の中に入り、術で耳の感度を上げた。祭壇の下辺りか。

 神父が守って倒れている場所の下。僕は小さく、八芒星を描き、重さを軽くしながら、慎重に瓦礫をどかしていった。すると祭壇の下に入り口があった。


「誰かいるのか? 助けに来た。ここを開けるよ。大丈夫だからね」

僕は声を大きくして下に向けて話しかけた。


 扉に八芒星を描き、扉を開けた。ムッとした臭いとともに、うめき声が聞こえてきた。一人の女性が、剣を向けてきたが、アーノルドがすばやく払い、気絶させた。


 僕は清浄の空気を錬金術で作り出し、中を浄化した。


 そこには、子供が五人、先程の気絶した女性を含めて三人。聖霊師たちに来てもらい、癒やしの魔術をかけ、ゆっくりと話しながら何とか出てもらった。


 村の比較的、被害のない場所に移り、生存者たちの回復を聖霊師とシェリーにまかせて、僕とアーノルドは怒りを抑えながら調査した。

 自警団や魔物狩猟者と思われる人たちは、真っ先に殺されたようだ。魔法使いも混ざっている。死因は、刀傷、魔法、棍棒による打撲だろう。


「ちっ、許さねえ」

別の広場でアーノルドは一言だけ発した。その時、一瞬、怒気を発したのが判った。


 一般の村人は、集められて拷問、虐殺されている。女性は乱暴されているものが多い。内臓が抜かれている遺体もおおい。特に子供は。

 家の中は荒らされ目思しいものは残っていなかった。これらから、魔獣の類ではない。このような行為をやるのは、残念なことにある程度の知的生命体なのだ。確かこの村の規模は大きく数百人はいたはずだが、遺体は百体前後だ。僕らが入ってきた門の反対側を見てなんとなく判った。ここは門が破られ、足跡は一列に足を引きずった形跡がある。拉致されたと考えられる。


 小ゴレームたちを放ち追跡させ、先ほどの生存者の元に戻った。

 

 剣を持っていた女性は話すことができるようになったが、後の二人と子供たちは当分無理な状況だった。剣を持っていたその女性は魔物狩猟者だった。

 魔物狩猟者の女性によると、三日前、盗賊と見られる連中が村を襲ってきた。人数は八十人程度だが、半分はゴブリンだった。実におぞましいが、人属は奴隷、金品目当て、ゴブリンは女性と子供目当てだろう。彼女たちは、教会前の虐殺が始まる直前に神父が教会の下に入れてくれて、瓦礫で塞いだようだ。


 ゴブリンがいると聞いて、遺体の内臓が抜かれている理由が判った。多少知恵がある魔族にとって、僕たち聖素を生命エネルギーにしている人属は、そのままでは不味いのだ。聖素抜き液体に付けて、聖素を抜いてから食べる。移動のために聖素抜きが簡単な内臓だけを持っていったのだ。拉致された人は、全身食べられてしまう。


 もう夜になってきたが、一刻の猶予もない

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