第20話 魔物狩猟者の王
聖剣エルメルシアを手にする経緯を、親友のレオナは私の後ろから見ていた。そして、剣を手にして振り返ると、レオナは片膝を付き、
「王よ、どうか拙者めの臣従を、陛下の騎士となることをお許しください」
と臣下の礼をとってきた。
「私はもう、王ではない」
と言って、立たせようとしたが、レオナは固辞し、立とうとはしなかった。
「解った、でも、君は私の唯一の親友なのだ。親友を失って家臣を得ても何も嬉しいことはない。どうか今までどおり親友として付き合ってくれ。であるならば、私の騎士を許しても構わない」
と言って、納得してくれた。
私は剣を彼の肩に当てて騎士として叙任した。
自分の家に目立たぬようにレオナと帰り、そして、今後のことを話し合った。
「信のおける者を増やす必要がるのではないでしょうか? 今はローデシアに反発して、野に下った志士がいると聞いております」
十三年間は、ただ、私だけが空回りしていた感じだった。親友の言葉は染みる。
そこで、私は、
「魔物狩猟者をするか。少し各国事情を見ておきたいところもある。私も君も狩猟者証を得るのはそう難しくはないと思う」
私もそれなりに腕に自身があるし、レオナの槍にかなう者など、そういないだろう。本当なら、レオナのためにもっと良い槍を用意してあげたいところなのだが。
―――魔物狩猟者とはエルメルシアの一件以降、魔物対策は統治者の責任という考えが一般化したためできた制度である。魔物狩猟者の証明書発行は各国独自だが、協定で証明書を持っている狩猟者は、比較的簡単にどの国でも入国できる。また、依頼内容をこなした後、討伐証明書を認定所に持っていけば記録される。その討伐実績が狩猟者の名声となる。特に討伐実績上位百名が各国の名簿に乗せられる。この百名は名簿狩猟者と言われ、依頼料も高額になる。
ちなみに、ジェームズ、アーノルド、シェリーも狩猟者証明を持っているが、錬金術の材料確保を円滑に行うために持っているだけである。自己申告しないので記録されている討伐実績は少なく名前も知られていない―――
数日後、馬を乗り継ぎながら、ファル王国王都にやって来た。
そこでダベンポート雑貨というの店を見かけた。ファル王国は元々、エルメルシアの本家筋にあたりダベンポートを名乗る人など、庶民から貴族まで数多くいる。
ちょっと気になったが、とりあえず、狩猟者認定所に行くことにした。認定所で、魔犬を十頭ほど狩れば認定される。後は討伐実績が物を言う世界である。
まず、レオナから受験した。軽く槍を構え、試験官に合図を送った。
魔犬の檻が一斉に開けられる。魔犬たちは唸りながら、遠巻きにレオナの周りをゆっくりと回っていた。
レオナの後ろに回った魔犬数頭が飛びかかったが、槍を一閃して、絶命させ、前の魔犬が飛びかかる前に数頭を電光石火の速さで刺殺し、飛びかかってきた一頭を叩き落とした。
その時間、数秒で終わった。
試験官は、唖然とした顔で突っ立っていた。
次は私の番だ。口を開けて突っ立てる試験官に声をかけて、試験をお願いした。
私は聖剣を構えて、魔犬が一斉に襲ってきた時、ちょっと気を入れた。すると波動が出て魔犬たちは吹っ飛んで終わった。
父の王の気魄のような感じである。父上の加護が剣に宿ったのかもしれない。
やはり、試験官は唖然とした顔で突っ立っていた。
今度は、声をかけずに放っといた。
認定所の受付に行って、終了したことを告げたが、戻ってくるのが早すぎたようで訝しがられた。
奥からさっきの試験官が、あたふたとやって来て、事務員に耳打ちして、やっと、私達二人は狩猟者になった。
その間、そこに有った上位者名簿をそれとなく見ながら、めぼしい名前と拠点にしている場所を覚えておいた。
そして宿代稼ぎにと思い、討伐募集の掲示板を見るとジャイアントベアの討伐依頼が有ったので、受注しその日の宿代は確保した。
こんな感じで依頼をこなしているうちに聖剣の加護が判ってきた。
まず、王の気魄のほかに、気を乗せて一閃すると、氷の剣を数本飛ばすことができ、突き刺した物体や魔物を凍らせることもできる。これらは母の魔術に類似している。
そして、軌道のある攻撃が来た時、聖剣エルメルシアを動かすと、軌道が変えられるようだ。これは母が習得していた玄武結界に似ている。
聖剣エルメルシアには、父と母の加護が宿っていると私は確信した。
私達は、こうして暫く魔物狩猟者になり、依頼をこなしながら、信のおける同士を探す旅にでた。
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