第6話 魔寄せの呪い
「なぁ、
「いや、でもステータスは動いていることを示しているだよね」
その時、
ドーン、ドーン
―――二発の爆発音、突然森の奥の方で大きな煙が上がっている―――
ドーン
―――更にもう一発―――
あれは、小ゴーレムのフレイムボールだ。ファイヤボールの数千倍以上の力がある。
「おいおい、
「多分そうだ。何かと戦っている?」
とりあえず行ってみないことには判らない。
「シェリー、ちょっとコロン車を守っていてくれ。何かあったら魔法通信で連絡する。一応すぐに動ける様にして置いてくれ」
シェリーはちょっと、不安げに
「解りました。ご主人様、お気を付けください。アーノルド、ご主人様を頼みましたよ」
「解ってらい。任せとけ」
とアーノルドは、竜牙重力大剣を担いで言った。
煙の方に向かって森の中を暫く歩く。
ドーン
―――さっきよりも大きく、近い―――
かなり多い魔物の唸り声。なにか異常だ。僕は結界を強くした。
少し広いところに出た。右にコロン車、モックは死んでいるようだ。左側に魔獣も群れ。種類がまちまちだ。コロン車の前に28号がいる。どうも、コロン車を守っているようだ。
サーベルタイガー数体が28号とコロン車に飛びかかろうとしている。するとコロン車と28号の間に木が生え始めて、コロン車を守ろうとしている。どうも聖霊師がいる様だ。
「アーノルド、魔寄せの呪いだ。どこか高いところに術者がいるはずだ。魔物たちは気が狂っているから結界が効かない。術者を探すから、少し僕を守ってくれ」
「おう。任せとけ」
僕は意識を集中し、呪いのキッカケの発信源を探った。何かのキッカケを出し続けている術者がいるはずだ。
「いた、コロン車の後ろの丘の上。犬笛を吹いている様だ」
僕はアルケミックコンパウンドボーを顕現し、時空矢を構えた。
風の影響を受けず、時空を超えて飛ぶ矢だ。スコープで目標をロックし、弓を引き絞る。
その間も、アーノルドは狂った魔獣を次々切り伏せていく。
放つ。ブス。
―――ジェームズの放った矢は、魔術師の眉間にあたり、向う側に吹っ飛んだ。矢は、軌跡もなく、放物線も描くことなく、突然、術者の眉間に生えたように刺さった。サーベルタイガーたちは、頭のハエを払う様な仕草をしながらゴロゴロし、他の魔獣たちも悲鳴の様な鳴き声でパニックになった。しばらくすると我に返ったかの様にその場から去った―――
28号は僕の方を向き、お辞儀をしてそのまま固まって、頭から倒れた。魔素切れだろ。
僕たちが28号に向かって歩き始めると、コロン車から小さい人属が出てきて28号に駆け寄っていく。小さい人属を追いかけて、さらに二人、小さいのがでてきた。身なりからすると二人は聖霊師のようだ。
「姫様、いけません」「ません」
女の子の声、子供が三人?
「アーノルド周辺を警戒してくれ」
「おう」
“シェリー、悪いがキャンプを片付けて、コロン車で来てくれ。目印を地図に付けておいたけど、コロン車だとちょっと遠回りになると思う”
“解りました、なるべく急いでそちらにいきます”
と僕はシェリーに魔法通信で指示した。
僕達三人は魔法通信での会話の他に、思念で共有できる魔法の情報箱がある。その中の地図に目印を書き込んでおいたのだ。もちろん思念で。アーノルドは魔法使いではないので魔法通信と情報箱アクセス用のブレスレットを渡してある。
僕はゆっくり28号と女の子達に近ずく。
「ポコちゃん、ポコちゃん、ダメ、死なないで….」
女の子が、必死に28号を揺すって起こそうとしている。
僕達の悲劇のあの日が脳裏をよぎる。
「下がれ、それ以上近づくと、容赦しないぞ」「しないぞ」
小さい双子の聖霊師が女の子と僕の間に割って入ってきた。
聖霊師が持っている長い杖を上げたり下げたりして、術を唱えている。光が大地から出てきて木が生え始めた。
「待った。僕たちは敵じゃないよ。ほら魔物を追っ払ったでしょう」
と手を上げて、攻撃の意思がないことを示した。
「うーん、ちょっと待たれよ」「待たれよ」
何やら二人は相談を始めた。
「ポコちゃん‥‥‥」
女の子の方は、28号を揺すって、泣き顔になっている。
僕は女の子に語りかける。
「大丈夫だよ。ちょっと魔素切れただけだよ。少しすると起き上がると思うけど、壊れてないかちょっと見てみようね」
女の子は、僕の声に気づき身構えた。硬く口を結んで睨んできた。
「僕は、28号、えーっとポコちゃんを作ったお兄さんだよ。ちょっとポコちゃんを見ていいかな」
女の子は、僕を睨んだまま、頷いた。
見てみると大分キズが付いている。でもこの位なら中までは影響ないだろう。そのうち空気中の魔素を吸収して動き出すと思うけど、女の子のために魔素を収集して、28号に補充した。
「ピコ、ポコ」
動き出した。
28号は僕を見てお辞儀した後、顔をこちらに向けて指示を待っている。女の子は涙目で28号に抱きつくけど、僕がいるから、指示待ちで僕の方しか見ない。
「これこれ、そこな若者、我等をいないかのように振舞ってないか?」「ないか」
二人の聖霊師が、杖で僕を突きながら言ってきた。
外見はどうも見ても少女だが、喋り方は、まるで師匠のようだ。耳が長く小さい背格好からすると、小人エルフか。森の妖精とか言われることもある。それに二人はそっくりで双子のようだ。しゃべりもハモっている。
「いっやー、お話中、お邪魔してはマズイかと思いまして」
聖霊師たちは、僕をじっと見て、
「お主、エルフの血が少し入っておるな。それにその賢者の石は」「石は」
と言って、また、二人で会議を始めた。
二人は忙しそうなので、僕は、人属の女の子に話しかけた。
「ねえ、お嬢さんは、何てお名前なの?」
「エレーナ。エレーナ・ソーラル・ミソルバ」
大図書館でちょっと調べると、国王イレイグ・ソーラル・ミソルバと王妃カッシーナ・ソーラル・ミソルバの娘か。そしてミソルバ王国は、巨大淡水湖である、ミソルバ湖のほとりにある小国か。湖の漁業のほか、アルカディアへの街道の宿場、交易場、商業都市として栄えているとある。しかしローデシア皇国と緊張関係にあるか ……。ここで僕は非常に嫌な気分になったが、小さい目が下から不安そうに見つめていたので気を取り直して、
「エレーナちゃん、髪の毛 一本くれる? 痛くしないからね」
エレーナは、硬く口を結んで、頷いた。
少し派手にやるか。
「我は、汝小ゴーレム28号の創造主なり、我は汝に命ずる。ここにいるエレーナ・ミソルバを第二主人に追加し、そのものに指示を仰ぎ、そのものの指示を最大限全うし、そのものを守護せよ。また、汝の名をポコと改名する」
そしてエレーナの髪の毛を28号の口に入れた。少し胸のあたりが赤く光ったと、エレーナと僕の両方を見るようになった。
「これでポコは、エレーナちゃんが何か命令すると、応えてくれるよ」
エレーナは、目をキラキラして、28号、いやポコに向き合って、
「こんにちは、昨日と今日はありがとう」
とスカートを持って片膝をちょっと折る貴族のお辞儀をした。
するとポコも深々とお辞儀した。
なんとも微笑ましい光景である。しかし状況は厳しい様だ。アーノルドが難しい顔をして戻ってきた。
「周りには、メイドの死体が数人、騎士の死体が数十人。騎士は魔獣に殺されていたぜ。全員ミソルバ国の騎士だ。
「僕たちのあの悲劇の日と、よく似ている」
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