最終章 みんなの星

第24話 研究所

 ㅤ本の著者の元を訪ねるため、陽太と二人で電車に乗った。静かな車内に、わずかな緊張の心音が聴こえる。陽太ともあまり話せなかった。


 ㅤそうして着いた研究所。アポなしで大丈夫かって思ったけど、聞きたい話の中身を受付の人に少し伝えると、本の著者に会えることになった。


 ㅤロビーのソファに二人で腰掛けると、それらしい白衣を着た人物が歩いてきて、ぼくらは自然と立ち上がった。


「チカラについて、何か知っているのかね」


 ㅤそう聞かれると、陽太は逆に聞き返す。


「そのチカラについて知っていることを教えてください」


 ㅤこのお願いは、知っていると答えることとイコールかもしれないけど、あまり知っていることを明け透けに語りたくないぼくらにとっては、巧い言い方だと思った。


 ㅤそして「ひとつのステラ」の著者は答える。


「わたしは昔、そんなチカラを持った子に出会ったことがある」


 ㅤ願以外にも、そんな子がいたんですか!?ㅤそう漏らしてしまいそうな心を抑えて、息を呑んだ。


「じゃあ、チカラというのが実在することを知っていたのですか」

 ㅤ再び陽太が尋ねる。ぼくも同じことを聞きたい。


「幼いときのことだが……しかしその子は死んでしまってね。チカラをろくに使わずに」


 ㅤ驚きの連続。星のチカラというのは、簡単に言えば人が願いを叶えるまで生き長らえさせる力。それなのに若くして死んでしまうなんて、すでに何か願いが叶っていたんだろうか?


「だからわたしは研究している。あの幻のようなチカラを求めて。あのチカラがあれば、きっと多くの者が幸福になれる……」


 ㅤこれ以上のことを聞くのは、恐怖に感じた。願のことを伝えていいものか。けれど、願があのチカラに気づいてからすぐいなくなったのは事実。何者かにさらわれたであろうことも。


 ㅤそれが、この人にだとしたら。ぼくは、願を取り戻したい。もし、願のチカラで多くの人が幸せになれるとしても、願自身の自由は必要なはず。それに、会いたい。けど、どうするべきか。


「今日はありがとうございました。オレたちは帰ります」

「えっ」


 ㅤ陽太がキリのいいところで言い出した。ぼくは戸惑う。だからってどうすることもできず、頭を下げる。去る研究者の足音が遠ざかる。それから陽太が呟く。


「明日は忙しくなるぞ」

「どういう意味?」

「アイツだとしたら。オレたちは邪魔な存在と認知された」

「あぁ、確かに」


 ㅤ震える拳をキュッと握る。陽太みたいに強くないから、何ができるかわからないけど。もう振り返るわけにはいかなくなった。

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