第23話 ひとつのステラ

 ㅤあの桜はやっぱりもう咲いていた。始業式を終え、帰りの会を終えてすぐに陽太と図書館へ向かう。その道中、桜を見た。


「もうすぐ会えるんだよな」

「きっと」


 ㅤ陽太の問いかけに答えるぼく。大した根拠はないはずなのに、会える予感は強くなっている。


 ㅤそして図書館に向かって走り出す。どこかの研究者が書いた「ひとつのステラ」を探しに。


 ㅤ開館中の札を見て、ふたりしてホッと肩をなでおろす。でも当たり前だけど、ここがゴールじゃない。まず本があるか。本を見つけたとして、そこに何か願に繋がるヒントはあるのか。星のチカラについてわかるのか……。


 ㅤ本のタイトルやおよそのジャンルを元に棚から探す。あった。「ひとつのステラ」。


 ㅤ読み始めると早速、校長先生や死の授業で引用された、あの文章が出てくる。


 ——すべては、星のように生まれ、星のように死ぬ。


 ㅤ以下要約すると。もしも突然おとずれる死を待たせて、誰かの願いを叶えるチカラがあったら。人はそれを守護する道を選ぶ。ただそんなチカラは存在しない。そう書かれた文章なのに、ページを開いていくと、不思議なチカラへの考察が次々出てくる。


 ㅤ今思えば冒頭の文章も、あるかもわからない星のチカラへの憧れが強く感じられる文章だ。校長先生の話を聞いたときも、死の授業を受けたときも、適当に聞き流していたけど。


 ㅤ願が持つそのチカラを意識してから読むと、文章に現実味が増す。この本の作者はどうしてそんなチカラがあると想像できたのか。


 ㅤ研究者にも色々なタイプがあるんだろうけど、不老不死みたいなものに興味があることはおかしくないかもしれない。そうなると、もし願のチカラを知った場合、興味を持ってもおかしくない。


「おいコレ」

「あ」


 ㅤ本の最後に、住所が載っていた。出版社の宛先ではなく、研究所の住所。ここに行けと言わんばかり。そう感じたのは、ぼくだけだろうか。


「ここに行けと言わんばかりだな」

「そうだよな」


 ㅤぼくだけじゃなかった。この本の作者に会えば、何かわかるかもしれない。それどころか、願がいる可能性もある。


「行けない距離じゃねぇな」

「まだ昼だしね」


 ㅤ待たせる時間はもう充分だ。

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