第18話 月と太陽

 ㅤ終業式も帰りの会も終わって、陽太が早速ぼくのもとへ話しかけに来る。席を立つ生徒たちの中で、ひそひそ話。


「さぁ、どうする?」

「急にどうするって言われてもな」

「願は誰かに捕まってるかもしれないぞ。助けないと」


 ㅤそれはそうかもしれない。それに手がかりもある。カメラだ。もし願がチカラを使った瞬間を見た者がいるとすれば、一番怪しいのはカメラで監視していた者。他の生徒がたまたま小屋の前を通りかかった可能性もあるけど、ぼくが先生を呼びに行ったときは、時間的に下校時刻より少し後で人通りも少なかった。


 ㅤつまり、犯人はヨームイン。まだ決定打には欠けるかもしれないけど、こいつを取っ捕まえれば何かわかるかもしれない。だけど。


「なぁ、陽太」

「なに」

「怪しいヤツの目星はついてる」

「やったじゃんか」

「でも、勝手にそいつをやっつけるなんてこと、してもいいのか」


 ㅤそんなことを、真面目に聞いていた。陽太はズルッとコケる仕草をした。


「まぁまず、願が本当にそいつの元にいるか確かめてだな。いるなら連れて帰る。そのときそいつが邪魔するなら倒せばいいさ」


 ㅤ単純明快な答えを陽太はくれた。でもそれに対して、少し複雑な考えが自分の頭の中に浮かんでいた。


「もし、願に本当に特別なチカラがあるとしたら。それはすべての常識を変えるチカラだ。そんなものをぼくらの手で自由にしていいのか」


 ㅤ今思うと、バカげたことを口にしたなと思う。それでも陽太はこのとき、怒りもせず、バカにもせず、目を見て真剣に答えてくれた。


「オレには見えてたんだよ。後ろの方から、席替えで隣になった満と願が。願がいなくなった後の満が」


 ㅤそう言って陽太はぼくの肩に後ろから手を回し、教室の出口に向かうよう、うながしながら、続けてこう話してくれた。


「お前がどうしたいかが大事だ」


 ㅤぼくがどうしたいか。わからない。そんなはずはない。このまま何もなかったみたいに過ごすこともできるかもしれないけど、ぼくは願に会いたい。それから色々考えればいいのかもしれない。

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