第13話 距離

 ㅤ雨。傘をさして学校へ向かう。その途中、トラックが水たまりをはねて、シャツが汚れて気持ち悪くなった。傘があっても、構えてない向きから来たらよけれない。シャツのはしをしぼる。


 ㅤ晴れた日より暗い朝の教室。空が曇ってるんだから当たり前かもしれないけど、晴れの日に慣れてるせいか誰も電気をつけようとせず。チャイムが鳴って担任の先生が来て、ようやくついた。


 ㅤ隣の席は空いたまま。今度は本当に遅刻か、また風邪でもひいたのか。前と違ってたいして気に留めないまま、先生の言葉を聞いた。


「急な話ですが、願さんが退学しました」


 ㅤ一瞬、先生が何を言ったかわからなかった。


 ㅤ続けて、お別れを言うのはなんたらかんたらって話があった気がする。適性がどうのこうのって話も。ただ信じられない。よく意味がわからない。


 ㅤ次の話題に移ってく。何も動じないような教室の空気とぼくの吸い込む空気が別物みたいに感じる。息をむ。言葉にならない。


 ㅤ思い返せば、あの子と過ごした時間は短かった。選択授業でも一緒だったけど、共にできない組。何かきっかけがないと話さなかった。


 ㅤ席が近くにならなければ、もしかしたら一言の会話もなかったかもしれない。窓に映るあの子を見るだけで、変に思うだけで。


 ㅤ幸いにも、願の家は知ってる。引っ越したりしてなければ会えるかも。ただ、そこまでしていい仲だっけ?ㅤ やめたのに知り合いに来られたら困るんじゃないか。


 ㅤ距離感がわからなくなる。昨日までは教室の中で、一番近くにいたはず。一緒に日直をしてたはず。なのに急に、わからない。物理的な距離も、心の距離も、急に開いたような。


 ㅤ閉じた窓の向こう、降り続ける雨を見て。汚れたシャツが乾いてっても、ぼんやりと浮かぶ「また会いたい」っていう願いは止まらない気がした。

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