第12話 また明日
ㅤ休みを
ㅤ帰りごろ。二人で忘れずにエサを持ってウサギの飼育小屋へ向かう。そこまでは何も特別なことはなかった。
「食べないね」
ㅤウサギの前にエサを置いても、食べる気配がない。満腹なのか、おねむなのか。どこかグッタリして見える。願はしゃがみ込み、そのふわっとした体を撫でながら、ウサギの顔を覗き見る。ぼくは突然のことに一言呟いて、見守ることしかできずにいた。
「そだ、こんなときのカメラ。誰か来てくれないかな」
ㅤそんな呟きにも願は返事せず、大きい独り言になりながら、構わずカメラに向かい両手を大きく振った。振ってみてわかったことは、向こうからこちらが見えてたとしても、こっちからしたら何も手応えがないこと。
「先生呼んでくる」
ㅤすぐにそうすればよかった。駆け出すと願が何か一声出した気がしたけど、振り向くと何もなかったようで、変わらず体を撫でてた。ぼくは緊急のため廊下も走って職員室に向かった。
「アレ?」
ㅤ
「先生は、君たちみたいな生徒がいて嬉しいよ」
ㅤ先生に頭を撫でられた。願も撫でられたけど、どこか浮かない表情に見えた。
「願、どうした?」
「え」
「もう心配しなくていいんじゃない、先生も来てくれたし」
ㅤ励ましたつもりだったけど、それでも願の返事はなかった。ただでさえ心配性みたいだし、無理もないか。確かにあのときグッタリして見えたのは事実。でも今は元気に跳ねてる。
「そういえば先生はこのカメラ見てたんですか」
ㅤぼくとしてはこの先生に対して、フン以来の質問な気がする。
「あまり言わない方がいいかもしれないけど、私は見てません。用務員の方が見てくださってると思うわ」
ㅤなんだそれ。あてにならないなぁ。それにヨームイン?ㅤ の人なんていたっけ。わかんないし見覚えない。ここに来てくれる様子もないね。
ㅤとりあえずは一件落着。願は教室に忘れ物をしたみたいで取りに行くと言って別れた。こちとら勉強道具も教室に置きまくってるし忘れ物って何って感じ。
ㅤ別れるとき、願は歩む足を止め、こちら向きに立ち。丁寧に手を振った。こんなふうに願とちゃんと別れたのは初めてだったかもしれない。だからこちらも丁寧に手を振り返した。
ㅤまた明日。言葉にしなかったのは、とっさだったから?ㅤ それとも会えることが当たり前だったから?ㅤ 心で唱えた呪文に効果がないことを明日知る。これまでの日々が特別だったことを知ってく。
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