vol.13 ~「Rise」(1979) Herb Alpert

 あまりにも有名なトランペッター、ということを長い間、知らなかった。

 

「Rise」by Herb Alpert

 曲名とアーティスト名が一致した初めての曲がこの曲であって、まさか、このトランペッターが『オールナイト・ニッポン』のテーマソングの曲を奏でていたとは全然わからなかったし、デパートや、果ては学校の運動会のBGMにもよく使われるような曲をも奏でていたとは知らなかった。


 以前のレビューでも散々取り上げたNHK-FMの『クロスオーバーイレブン』でも、どれだけの回数選曲されたことか。おそらく、インストゥルメンタルの曲の中では、最多の選曲を数えるのではないか。

 あまりに、多く選曲されるので、FM週刊誌の番組表に“ライズ/ハーブ・アルパート”の文字を確認するだけで、憂鬱な気分になったものだ。

 というのは、当時、この曲を好まなかった、ということなのである。


 シンセサイザーの音から入り、間もなく、規則的なコード進行のベース音が流れ始める。そのあとに、規則的な手拍子の音が重なり、時折、バンドのメンバーの合いの手の声が入る中、アドリブがほとんどない、あのメロディが永遠に変わらないベース音に支えられながら奏でられる。

 シングル・バージョンのほかに、ロング・バージョンもあったかと思うが、基本的に変わらない。最初から、最後まで、手に取るようにわかりきっているリズムとメロディが繰り返されるだけ・・・

 だけど、聴き始めると、最後まで聴いてしまう、のだ。

 それが、とっても、嫌、に思えた。


 それが、今、聴いてみると、そう、思わないから不思議だ。

 聴いているうちに、リズムやメロディが脈の中に入り込んでいく感じがする。“永遠に変わらない”と思えたリズムやメロディが、音声レベルが上がっていくわけでもないのに、時間と共に自分の中で増幅していく感じがする。


 自分が抱えていた悩み、自分が負った傷に染み入っていく感じ。

 自分が到底、達することはできないまま触れずにそっとしまっておいたものがやわらかい液体で満たされる感じ。

 うまく言えないけど、そういった自分の隙間をこの曲が埋めてくれる感じがする。

 1979年に大ヒット(グラミーも受賞)した当時、僕は、中学校3年生。

 その年頃では、当時、どんなに悩んでいても、この曲で癒されるほどのものじゃなかったってことだろうか。


 このPVのように、僕は、海岸線を宛ても無く歩く自分を想像しながら、夕陽に照らされ始めた日本海をなぞる田舎道をひた走った。



♪「Rise」/ Herb Alpert

https://www.youtube.com/watch?v=ennMD1fPtXA



現在地:秋田県秋田市下浜桂根境川付近を走行中

https://www.google.co.jp/maps/@39.6971926,139.950471,12.25z?hl=ja&authuser=0

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