vol.06 ~「The Old Landmark」(1980) James Brown~

 国道345号線もここまで走ると、車のボディも僕の心もしっくり来る。

「もう、ここまで来れば引き返すことはない」という変な覚悟みたいなものも自覚できるし、車窓からのロケーションを見渡せる余裕もできる。



 この辺りの海岸を“笹川流れ”といって、佐渡を除けば“新潟屈指のきれいな海”として有名な海岸である。

 狭い砂浜海岸もあるが、そのほとんどは岩石海岸である。海岸のすぐ近くまで山が迫ってきていて、山のすぐふもとに国道345号線と羽越本線、そのすぐ側に日本海、というロケーションである。夏場は、充分な駐車スペースがないにもかかわらず、県内外からの多くの海水浴客でにぎわう。

 日本海の荒波が作った多くの奇岩が立ち並ぶ中、車はそこを縫うように走り、いくつかの岩のトンネルをくぐる。その途中では、いくつかの漁村を確認できるけど、きっと、どこの漁村でも、立ち寄れば日長一日過ごせそうな感じがする。その漁村の名前の由来を聞いたりしただけで、干スルメ片手に一杯飲めそうな気がする。



 高揚する曲をチョイスする。

 「The Old Landmark」by James Brown。

 お馴染み、ジョン・ベルーシ&ダン・エイクロイド主演の映画『Blues Brothers』の挿入曲である。ゴスペルとして有名なこの曲は、ジェームズ・ブラウンのほかアレサ・フランクリンもアルバムに収録している。 

 ご覧になった方はことごとく好きになるだろうと思われるこの映画を、僕は、ずっと見ていなかった。今から17、18年前くらいだろうか、深夜にテレビを点けっぱなしにしながらの転寝から目覚めてブラウン管を見たときに、孤児院の女院長が短いむちでジョンベルーシの手を叩いているシーンだった(笑)

 登場人物の姿身なりからすぐに『ブルースブラザース』だとわかったけど、転寝から覚めたついでになんとなく見ていただけだった。

 ところが、間もなく、この“教会のシーン”になったときは、煙草を消して、座りなおして、鳥肌を立たせながら観た。


 トリプルロックバプティスト教会に行った二人が、ジェームズ・ブラウン扮するクリオファス牧師のお説教を聞きに行った折、聖歌隊と共にジェームズ・ブラウンがこの曲を熱狂的に歌う姿を見て“神の啓示”を受ける、この映画のたくさんある見所の中でも屈指の名シーンだ。

 

 僕は、早速、ビデオを借りて名シーンの数々を繰り返し見、サウンドトラックを買って繰り返し聴き、『ブルースブラザース2000』のDVDを買い… 瞬く間に大ファンになった。

 ところが、一番好きな「The Old Landmark」のサウンドトラックの歌詞カードには“(Gospel)…”としか表記されておらず(ジェームズ・ブラウンのアドリブだから、ということなのだろう)、それが前々から残念で仕方なかった。


 僕は、ある日、勇気を出して、職場に出向しているニュージーランド人の男性に事情を話して“歌詞のテープ起こし”を頼んでみたところ、快く彼はOKしてくれた。

 彼は、仕事の合間にイヤホンを耳に当て、眉間にしわを寄せながら時間をかけて歌詞を起こしてくれた。

「一定の規則性のある聖歌隊のコーラスはともかくとして、叫びに近いジェームズのアドリブ歌詞はどうしても聞き取れない箇所があった。」と、彼は恐縮しながら僕に手製の歌詞カードをくれたが、甚だ恐縮したのは、もちろん、僕の方だった。しかも、恐縮しながらお礼を言う英文を用意していなかったため、ただ、ひたすら、昔の青春ドラマの主人公のように「さんきゅー べいりまっち」を汗を掻きながら言い続けるしかなかった。



 そんなエピソードを思い出しながら3分弱の熱狂を何度も何度も繰り返し聞いて、この素敵な漁村道をさらに北へとのぼって行く。


 “Have you seen the Light?”

 “Yes ! I have seen the Light !”




♪「The Old Landmark」/ James Brown

https://www.youtube.com/watch?v=xbq0OuJtErs


現在地:新潟県村上市笹川流れ付近 走行中

https://www.google.co.jp/maps/@38.3737007,139.4104731,12.75z?hl=ja&authuser=0

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