vol.04 ~「スロウ」(1999) Grapevine~

 国道113号線を真っ直ぐ北東に向かって車を走らせる。

 新潟の人は、車の免許を取得して自分の車を買ったら、初めてのドライブルートとして、国道402号線か113号線を選ぶ、と誰かから聞いた覚えがある。

 以前書いた「西へ」シリーズで使った道は402号線だったし、確かに、どちらも海岸線の真っ直ぐな道路で、信号もほとんど無く、好きな音楽や好きな人を助手席に乗せてドライブするには快適な道だと思う。

 しかし、402号線と違って、この113号線は何回走っても“アウェイ感”を感じる。

 迎え入れられてる、というよりは、“通らせてもらっている”感じがいつもする。この道を走ること自体を楽しむ、というよりも、“この道を使って目的地に行く”という感じ。

 どうしてそう感じるのか、少し考えてみたけれど、明確な答えが思いつかないので曲を変えて歌うことにした。



 今回、初めての歌詞入りの曲。

 この曲は、耳にした、のではなくて、目にしたのが最初だった。

 スカパーのある音楽チャンネルで、その月のRecommendとして繰り返しMVが流されていた。

 高層ビルが立ち並ぶ街中で、佇むボーカリストをかすめるようにエレキギターが上空から落ちてくる、そんな映像だった。

 MVもなかなか良い出来だと思ったけど、繰り返し聴いていくうちに(聴かされていくうちに)この曲と声に引きずり込まれた。MVの映像のように、ゆっくりと、ゆっくりと…


 

 今聴くと、なおさら思うのだけれど、ボーカルの歌い方はミスチルの桜井が舌足らずになった感じがするし、曲調は90'sを象徴している感じがする。こんなことを言うと、どちらのファンにも怒られるかもしれないけれど、さほどのファンでない僕にとってはそう聞こえる。

 大体、この当時の古いタイプの音楽評論家の人たちは、T-BOLANやWANDSの曲ですら「ミスチルみたい」と評していたぐらいだから(それはさすがにどうかと思うけど)、Grapevineのボーカル田中和将の歌い方を“似ている”と評してもバチは当たらないだろう。

 

 

 敢えて言わせて貰えば、“絶望一歩手前を怠惰に歌う”この曲を当時、僕は相当歌った。

 車の中で、職場の廊下で、カラオケ屋で、お風呂の中で… 所構わず口ずさんだ。

 でも、どれだけ歌っても、それは“絶望一歩手前”で踏みとどまり、また、それは、踏みとどまるだけに終わらず、膝を大きく曲げて次のジャンプのために力を静かに蓄える、そんな気持ちになった。だからこそこの曲を沢山歌ったんだ、って気付くのは相当、後になってからだった。



 この曲を聴いていてようやく気が付いたけど、西に進路をとって走るときには聴かない曲を今回、持ってきている。否、今回だけじゃない。北に進路をとるときにはいつもそうだ。そう長くないこの人生の中でも、辛かった時期によく聴いていた曲をチョイスしてこの道を走っている。だから、何回この道を走ってもしっくりこなかったのだ。

 走っている道の風景を見ているようで、実は、ほとんど見ていない。

 見ているのは、自分の心の中だ。でも、それは“確かめている”でもなく、“対話”でもない。ましてや、“忘れないように蘇らせている”わけでもない。

 ただ、そっと見ている、のだ。



 他の曲と違って、この曲は、何度もリピートさせてもらう。何度も歌わせてもらう。

 交差点も、信号もほとんど無い、アウェイのドライブコースで、曲や歌詞に集中して歌いたいからだ。




♪「スロウ」/ Grapevine

https://www.youtube.com/watch?v=PjKz5OMJvnc


現在地:新潟県新発田市藤塚浜付近 走行中

https://www.google.co.jp/maps/@38.031592,139.2899862,15z?hl=ja&authuser=0

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