vol.02 ~「SPACE ROAD」(1979) CASIOPEA~

 阿賀野川を右側に見ながらひたすら海に向かって北上する。

 天気がいいこんな日は、平日であっても、川縁の広場で家族なのか仲間なのか、バーベキューをしている姿が見られる。自分の家族を持ってからはなんとも思わなくなったけど、ひところは、親子でバドミントンをしていたり、サッカーボールを蹴り合っている姿なんかを見ても、どうにも「わざとらしさ」を感じて軽い吐き気をもよおしていた。まあ、人の、否、僕の感情なんていい加減なものだ。

 


 新潟空港へアクセスする国道113号線との交差点が土手道の終点になる。土手道を走ってきた車にとっては少々、差別的に長い信号待ちの後、右折して松浜橋を渡る。

 今、走ってきた土手の県道も、これから走る113号線も馴染みのある道だ。

 僕が20代半ばのときに、松浜橋を渡りきったところにある街に仕事の関係で1年間住んだ。そして、土日は、この街の先にある新潟競馬場に毎週、足しげく通った。


 まだ、車の免許がなかった僕は、平日は職場まで路線バスを使い、土日は、ほぼ同じ経路で競馬場に通った。

 土日のバスの車内は、色の濃い灰色や茶色の防寒着と毛糸の帽子を被った年金暮らし風のおじいちゃんたちで埋め尽くされていた。同じような競馬新聞を開いていても、彼らのような年配の競馬愛好家は無茶な買い方はしない。絶対に来そうな馬の複勝馬券(3着まで入線すると配当金をもらえる)を力の限り考えて、1.5倍とかの倍率の馬券を数百円とか千円買って、そのわずかな配当金に喜んでいる。それが、長く、困らず、迷惑を掛けず、年金で競馬を楽しめる方法なのだ。

 その当時の僕は、そんなまどろっこしい買い方は決してしなかった。競馬新聞に限らず、毎日、宅配されるスポーツ新聞を読み、ノートに何種類かの色鉛筆を使って結果を書き込み、傾向を探り、勝ち馬を予想して、1レースに数千円から多いときは2、3万円の掛け金で勝負していた。

 いいときも悪いときもあったけど、トータルにならしてしまえば御多分に漏れず随分な負け越しで、ひどいときは、競馬場からの帰りのバス料金もすってしまって、“オケラ街道” をとぼとぼ歩いて帰ったこともあった。


 ひどい話をしようと思えばいくらでも出てくるこの道沿いのエピソードはこの辺にして、国道113号線を今は2700ccの車で北上する。


 CASIOPEA。10代から20代にかけて、本当にお世話になった。この僕がお世話になった時期を彼らの“黄金期”と呼んでも誰も異見はしないだろう。

 以前、“悪魔に魂を売り渡す交換条件”を題材に創作を書いたことがあった。その“ひねくれた交換条件”の方ではなく、“星 新一” 風にまともに3つの願いを頼むのであれば、そのひとつは、「僕を、野呂一生のようなギタリストにしてください」である。野呂一生みたいなギタリストになって、大観衆を前に「ASAYAKE」や「SPACE ROAD」を弾いてみたい(本当は、Dire Straitsのマーク・ノップラーとどっちがいいか迷ったりもするが…)。

 そして、演奏に入る前に、僕はこう言う。

「僕がギターを手に持ったのは、野呂さんに近付きたかったからだ」

 嗚呼、ここまで妄想する僕っていったい…(汗)

 

 黄金期には、テレビ番組、CM、ラジオ、果ては、デパートのバーゲン会場からエレベータ内のBGMまで、世を席巻したフュージョングループであった。大好きな曲は沢山あれど、この「SPACE ROAD」は、1982年のNHKホールでのライブをラジオでエアチェックして聴いたのが初めてで、度肝を抜かされたことを今でもはっきり覚えている。

 

 夜眠りに就く前に、ヘッドフォンをして大音量でこの曲を聴くとその後に安らかに眠れるというへんてこりんなルーティーンが以前にあったことも思い出した。



♪「SPACE ROAD 」 VOYAGERS TOUR(1982) /CASIOPEA

https://www.youtube.com/watch?v=n_QQxVWRqwY


現在地:新潟県新潟市東区松浜橋付近 走行中

https://www.google.co.jp/maps/@37.9528284,139.121667,15.5z?hl=ja&authuser=0

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