vol.01「THE MAGNIFICENT SEVEN」(1960)Elmer Bernstein
家を出発してから、広域農道に出るまで3km弱。僕はその間、逸る気持ちを抑えてエンジン音に耳を済ませながら運転する。
農道との交差点を右に曲がったところで、今日の旅の記念すべき1曲目をONする。
邦題『荒野の七人』(1960)。監督ジョン・スタージェスが黒澤明監督の『七人の侍』をハリウッド版リメイクした西部劇。サウンドトラックは劇場中のいろいろな場面で使われる23もの曲が入っているが、もちろん、メインテーマをチョイスする。
最初の一音から5秒で鳥肌が立って、そのあとに、水田に挟まれたアスファルトの農道のロケーションが黄土色の荒野に見えてしまう開放感が拡がる。そして、予想通りの、曲への、そしてこの旅への期待感が、胸の奥で眠っていたジューサーミキサーの中で掻き回されて、蓋を大きく飛ばして弾け飛ぶ感覚を味わう。
スタートにふさわしい曲は数多くあれど、どの曲もそうであるように、聴き始めると「うん、これしかない!」と思ってしまう。
この映画を初めて見たのは、小学校4、5年生の頃だったと思う。
『土曜映画劇場』という名のテレビ映画番組での放映だった。いつもは、ドリフを見たあとに、9時から『キーハンター』か『Gメン75』を見てたが、いかに子ども優先になるチャンスが多かった土曜日であっても、こういう日は親父のチャンネル権が勝つ。しかも、自分が映画を見るために息子を抱き込む。
「まあ、見てみろ。これは、面白い映画なんだ。お前にも見せたい」とか言って。
僕は、「え~!?」とか言ってしかたなくチャンネルを回すが、親父が“どうしても見せたい”という映画に不思議と外れが無いから、結構、期待して見てしまう。この日もやっぱりそうだったはずだ。
『ポセイドンアドベンチャー』、『明日に向かって撃て』、『スティング』、『ベン・ハー』、『道』、『砂の器』・・・ みんな、親父が僕に紹介してくれた(無理やり見せられた)映画たち、そして、どれも大好きな映画たちだ。
いつもなら、11時前に終わる番組も、こういう大作や人気作は、前・後編に分けて2週にわたって放送された(そういう時代だった)。
もう、おそらく、20回以上見ているので、初めて見たときの気持ちは忘れているが、その分、色褪せることが決して無い映画である。
僕は、主役のユル・ブリナーよりも、相棒のスティーブ・マックイーンやナイフ使いのジェームズ・コバーンに惹かれた。だいぶ後になって、子どもに慕われたチャールズ・ブロンソンのようになりたいとも思った。
だいぶ後になって見ることになった『七人の侍』は、ストーリーもさることながら、撮影技術の素晴らしさや出演者の演技ばかりに意識がいってしまって、映画そのものをただ楽しむ点から言えば、『荒野の七人』の方が好きである。
たまにある信号の色も青いまま。
この曲を、この旅を歓迎してくれているかのような“緑色の荒野”。
何の疑いも無くアクセルを踏み、何の疑いも無く青空と地面の境目を探す。
いい旅にしたい。
♪「The Magnificent Seven」/ Elmer Bernstein
https://www.youtube.com/watch?v=t0vqQjaXLOU
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