第三話  獅子の瞳 ―― 女と女と猫の誓い

「ね、猫がしゃべるなんて……いや、怪獣が出てきた時点でもう何でもありだけど」

「お前は……何者なんだ?」

 問いかける二人、その態度に呆れながら紅獅子は肩をすくめる。

 なんだか、キザな態度で鼻につく。

 アズサはそう考えながら目を細めていた。

「猫とは失礼だな、私は獅子座L-e0星雲からやってきた獅子座人……だったはずだ」

「はずぅ?」

「……曖昧なんだ、記憶が」

 訝しげなソラに、紅獅子は頭を押さえる。

 曰く、ビームラーが出現した辺りから記憶の一部が飛んでいるらしい。

「もしかして……ビームラーと戦った猫はやっぱアンタで、負傷して記憶が飛んだの?」

「……そうかもしれない、覚えているのは私に怪獣と戦う使命があることだけだ」

 だがその手段も今は思い出せない身、そう付け加えて紅獅子は薄く笑う。

(……やっぱりキザだ)

 内心引きながら、息を吐くアズサ。

 そんな彼女の肩に乗ると、紅獅子は腕を組んだ。

「まあ、何はともあれ私達はこの地球にとって異質な力を持ち、目的を同じくする者どうしだ、よろしく頼むよ」

「はあ……どうも、よろしく」

「でも、この猫記憶ほぼないんでしょ? ヨロシクする意味あるの?」

「こら、首根っこを持つな! 紳士は丁重に扱え! あと私は猫ではない!」

 紅獅子を持ち上げるソラに、大暴れしながら抗議する紅獅子。

 その姿を見ながら、アズサは「騒がしさが増すな」と息を吐くのだった。

 


 暗闇と光輝 第三話  獅子の瞳 ―― 女と女と猫の誓い



「あれ、ンー……?」

 その日、司令部では機材の点検をしていたドロシーが首を傾げていた。

 モニタリング装置が、首都圏の一部だけ表示してくれないのだ。

「ああ、それ……そこら辺一帯、昨日から電波障害が起きてるらしいのよ」

「へえ……案外怪獣のアタックだったりするかもデスねー」

 ミナキに説明され、縁起でもないことを言うドロシー。

 その隣で、ミナキはふと時計に目をやった。

「そういえば……今日は新人の二人が、首都圏にビラ配りしに行ってるんでしたっけ?」

「そうだね、今日は広報の仕事でそっちに向かっているよ」

 ミナキの問いかけに答えながらも、司令はタイピングする手を止めない。

 機体の修理費など手続きが山ほどあるのだ。

「ふう……何故私は自らトップに立ってしまったのだろうね」

「文句言わない、司令はやればできる子でしょう?」

 書類の山を見つめて汗をかく司令の隣で、ミナキは自分の仕事を進めていく。

 その様子に、救援要請は無理だと察した司令は大人しく書類に向き合うのだった。



「怪獣と戦いませんかー」

「ご協力、お願いしまーす」

 その頃、首都圏ではアズサとソラの2人がビラ配りを行っていた。

 これも見習いの大事な業務……と言われこそしたものの、あまり乗り気といった表情ではない。

「ふー、疲れた……こうして立ってるだけなのに、歩くより疲れた気がするわ」

「ボヤくなよ……まあ確かに、日差しも強いけど……」

 ビラの残り枚数を数えながら、息を吐く2人。

 ふとソラは腰に下げたエネルギーガンをコンコンと叩いた。

「いっそ、焼いちゃう?」

「そうしたら、あとで何故エネルギーカートリッジが減ってるのか聞かれて査問だな」

 軽口を叩き合い、通りを眺める。

 そんな中、ソラは通行人の手にスマートフォンがない事に気づいた。

「あっ、そういえば今日って電波障害起きてるんだっけ?」

「らしいな、電話もメールも通じないそうだ」

 不便さにため息をついている人も多い。

 特に仕事上の連絡が必要な人などは、大迷惑だろう。

 それに、もし何か火事や事件が起きた時も連絡が遅れてしまうのだ。

 そう考えると、如何に電波というのが便利なものなのか思い知らされてしまう。

「こういう時に怪獣が出たら最悪ね」

「縁起でもないことを……」

 最悪の想像をし、息を吐く二人。

 その時だ。

「きゃあああぁぁぁっ!!!」

 通りにこだまする悲鳴。

 どうやら路地裏かららしい。

「なんだ!?」

「あっ、ちょっと!」

 急ぎ、路地裏へと向かうアズサ。

 その目に飛び込んできたのは……。

「う、うう……!」

「こ、これは……」

 腹から出血し、うずくまる女性だった。

「救急車……ああ、電波!」

「くそっ、走って呼んでくる! 天道は応急処置を!」

 アズサに言われ、隊服備え付けの応急処置キットを出すソラ。

 だが……出血は多い。

 このままでは、そんな言葉が脳裏によぎる。

 それでも、諦める訳にはいかない。

 必死で呼吸をし生きようとしている女性に応えるために、ソラはなんとか応急処置を進めるのだった。



「……ほら、コーヒー」

「……」

 病院脇の公園で、アズサに缶コーヒーを渡されながらソラは荒い息を吐く。

 女性は現在、意識不明の重体だ。

 警察曰く、ここ数日起きている通り魔事件と同一犯によるものと思われているらしい。

 止血をした時の、手袋越しでも伝わる生ぬるい血の感触。

 それを思い出しながら、ソラは震える。

 通り魔犯が何故そんな事をできるのか理解できないのだ。

「とりあえず……警察に任せて休もう」

 今日はもうビラ配りを続けられる精神状態ではない、とはいえエグザスベースへの行き来は迎えの来る予定時刻まで不可能だ。

 何せ電波障害で連絡を取ることができないのだから。

「あと3時間か……」

 公園の時計を眺め、三つ編みの先端をいじるアズサ。

 だが、ふと公園外の道路を歩いている男が目に入った。

「……?」

 気のせいか、一瞬男の腕が光を反射したように見えたのだ。

(……私も疲れてるのかもな)

 こめかみを押さえながら、アズサは空き缶を捨てに行く。

 だが、その道中メガネを外していたせいで、誰かにぶつかってしまった。

「……! すいません」

「いえ、こちらこそよそ見を……」

 互いに謝りあうアズサ達、どうやらぶつかったのは女性のようだ。

 メガネを掛け直し、じっくりと女性の顔を見る。

 純白の髪を持つ女性……まるでこの世ならざる存在のような、不可思議な美しさの女性だ。

「……あなたは」

「……?」

 女性は、アズサを見てなにかに気付いたような顔をする。

 そして隊服や腰に下げたエネルギーガンを見つめ、納得がいったように頷く。

「あなたは……そういうことでしたか」

「……何を言ってるんですか?」

 問いかけるが、女性は答えない。

 そして……。

「一つ言っておきましょう、今回の通り魔事件……あなた方が向き合うべき敵ですよ」

「え……?」

 呆気にとられるアズサに、意味深な笑みを向けて去っていく女性。

 その背中を、アズサはじっと見つめていた。

「……何見とれてるのよ、人が辛い時に」

「……違う、そういうのじゃない」

 いつの間にか近寄ってきたソラが、アズサの裾を引っ張る。

 そんなソラに、アズサは呆れた様子でため息を吐いた。

「……あの人、私がガタノゾアだと気付いたのか……? それとも、XAXにとっての敵だというのか……?」

「アズサ?」

「……天道、良かったら……通り魔、少し探してみないか」

 問いかけに、ソラは少し迷う。

 許せないという気持ちはある。

 しかし自分も意識不明の彼女のようになるのではないか、そう思うと少し覚悟がしきれない所があるのだ。

 それでも……。

「分かったわよ、アンタ一人じゃ危なっかしいし」

 アズサを一人で行かせるのは、怪我をするよりも嫌だ。

 そう考え、ソラはゆっくり歩く。

 その時だ。

「うわっ!」

「おっと……!」

 一人の青年と衝突する。

 だが、青年は急いでいるようで謝りもせずに行ってしまった。

「……感じの悪いやつだな」

 そう呟き、青年を睨むアズサ。

 ソラもその隣で、鼻をひくつかせながら青年をじっと見つめる。

 そして、湿った袖を触りながら首を傾げるのだった。


「とりあえず……新聞曰く、現場は首都圏各地の路地裏で、目撃された犯人は黒い服の男、だって」

「黒い服、か……」

 そういえばさっき見た男も黒い服だった、そんな事を考えながらアズサは腕を組む。

 とはいえ、服が黒いなんてだけでは何の手がかりにもならないだろう。

 せめて路地裏で出会うなんていうことがなければ……。

 そう考え、アズサは路地裏を覗き込む。

 ここの路地裏は人通りが少ない……というより、誰もいない。

 日が差し込まない路地裏は、まるで今にも怪物が出てきそうだ。

 そんな事を考えていたときだ、路地裏の奥から足音が聞こえてきた。

「……!」

 息を呑み、二人で銃を構える。

 歩いてきたのは……黒い服の男だ。

 病院前で見た男と同じ、短髪で大きな目をした……いかにもといった雰囲気の男。

「……」

 息を吐いて警戒するアズサ。

 だが、ソラはそんなアズサを手で制した。

「ストップ、同業者だ」

 そう言いながらソラの指さした襟元、そこにはXAX TEAM-BQと書かれている。

 腕にはドッグタグも巻かれており、どうやら先ほど光っていたのはこれらしい。

「お疲れ様です」

「む、君達は……そうか、その隊服はエグザスベース勤務の……」

 銃をしまい、歩み寄るソラに続くアズサ。

 男も警戒を解いて柔和な笑みを浮かべる。

「チームスカル配属予定、パイロット見習いのアズサとソラです」

「こちら、調査と白兵戦を主目的としたチームBQ、サブリーダーの藤麻久丸です」

 敬礼し、自己紹介をする三人。

 どうやら藤麻もまた通り魔事件を司令の勅命により調査しており、その途中で犯人と誤解されたことが有ったらしい。

「警察にも報道にもちゃんと説明して誤解を解いたのに……新聞も適当なんだから」

「ははは……」

 ため息を吐きながら、額をコンコンと叩く藤麻。

 そのたびに腕に巻かれたドッグタグが揺れる。

「そういえば、それは……」

「ああ、これはうちの可児リーダーのものだよ、今日別行動で調査中に襲われてしまって意識不明でね……まあ、これは彼女のためにも捕まえるぞって願掛けかな」

 藤麻の言葉に、病院にいた理由を理解するアズサ。

 一方、ソラは顔を青くする。

「……すいません」

「ん?」

「私がもっと上手く応急処置できていたら……」

 ソラの懺悔に、藤麻はキョトンとし……。

 すぐ、笑顔になって頭をポンポンと叩く。

「ありがとう、優しいんだね……でも悪いのは通り魔犯だ、君が気にすることじゃないよ」

 そう言い、立ち上がる藤麻。

 そのポケットから1枚の写真が落ちる。

 手の写真だ。

「これは……?」

「ああ、これは可児リーダーの手の写真、ネイルの色が片方だけおかしくなってたから、なんか手がかりにならないかなってね」

 見ると、確かにネイルの色が変化している……というより、カビが生えている。

「グリーンネイルだ、片手だけこうなるなんて、こっちだけ猛烈な湿気にでもさらされたのかな……」

 呟くソラ、その時だ。

 湿気というワードでふと浮かぶ出来事。

 そして、記憶に新しい悪臭……。

 そこまで考えたところで、ソラの目は路地裏のマンホールに向いていた。

「まさか……」

 呟き、マンホールの蓋を外す。

 そして、中へとライトを向けた。

「天道、どうした……?」

「カビの菌が繁殖し、湿気が激しい場所……もしかして、通り魔の拠点はこの中かもしれない、片手だけネイルがカビたのは、そっちの手で犯人を掴んだからかも」

 ソラの言葉に、三人は息を呑む。

 そして……。

「もしかしたら、可児リーダーさんが危ないかもしれない……! あの時すれ違った、濡れてて下水臭のする男……アレが犯人で、始末をつけにいったのかも……!」

 愕然、とでも言うべき表情になる二人。

 だが悪臭のする男は偶然で、この中に犯人がいる可能性も捨てきれない。

 果たして、どちらに向かうのが正解なのか……。

 悩む三人、そして……。

「……よし、二手に分かれよう」

 出した結論は、シンプルなものだった。



 警察に報告し、彼らと共に二手に分かれたアズサ達。

 その頃にはもう夕方になっていた。

(連絡が取れないことが、こうも大変だなんて……)

 病院前の公園に停まった警察車両から降り、銃を手に警戒するアズサ。

 その脳裏には、日頃は気にすることもなかった通信技術への感謝がよぎっていた。

 これでエグザスベースと通信できれば、もっと楽に移動できたろうに。

 そう考えながら、他の人達と共に病院へ向かう。

 そして、中を見ると……。

「……!」

 人が倒れている、それも血を流しながらだ。

「大丈夫ですか!」

 駆け寄るソラ、どうやら傷は浅いらしい。

「怪しい男が入ってきて、上に……! 仕留めそこねた小鳥を仕留めると……!」

 男の言葉にソラは顔を青くする。

 そして、警察へと手を振った。

「ICU! 二階!」

 端的に言うソラに従い、警官たちが階段へ向かう。

 だが……。

「わざわざ場所を教えてくれてありがとう!」

 男はそう言い、手から光線を発射する。

 すると、光線は着弾地点で爆発。

 警官たちを昏倒させた。

「なっ……!」

 呆気にとられるソラ。

 その目の前で、男が公園前で出会った臭い男に変わる。

「な……!」

 変化していたとでもいうのか。

 そう呟きながら絶句するアズサ。

 その時だ。

 突如、通信機が鳴り始める。

 電波が直ったのだ。

「こちら藤麻! 下水道に電波阻害装置と記された装置を発見、破壊した!」

 強制通話モードで響く藤麻の声、それを効きながら男は「ほう」と笑う。

「楽しい狩り場だったのに、もうよそへ移る必要があるか、地球人も中々やる」

 そう言いながら、距離を取る男。

 その腕が鋭い刃に変化し、顔貌はザリガニのようなものになった。

「う、嘘……宇宙人!?」

「そう、私はトゥクル星人バント! 以後などないが、よろしく頼むよ!」

 うろたえるソラに一礼するバント。

 そのまま軽やかにジャンプすると、彼は二階へと登っていく。

「させるか!」

 叫び、エルダーカプセルを掲げるアズサ。

 すると、固形の闇が溢れ出してICUへの最短ルートを塞ぐ。

「……!?」

 自分でも驚きの行動。

 道を塞がなければと思った瞬間、咄嗟にできてしまったのだ。

「闇のバリア……! 驚いた、ずいぶん可愛らしい姿じゃないかガタノゾア! ならば……こうだ!」

 そう宣言し、光を放つバント。

 すると……外に雷雲が巻き起こり、凄まじい地響きが二人を襲う。

「まさか……!」

 何かを感じ、窓の外を見るアズサ。

 するとそこには、巨大な……巨大なウナギを竜にしたような黒い怪獣が居た。

「雷獣サングニス! そいつを相手していると良い、その間に私は小鳥を狩るとしよう!」

 あざ笑うバントにアズサは唇を噛みしめる。

 だが、ソラはそんなアズサの背を叩いた。

「行ってきなさい、こっちはなんとかするから!」

「…………だ、だが……」

「天才を信じなさいって!」

 ソラのコトバに、アズサは迷う。

 だが意を決して頷くとエルダーカプセルを振り上げ、ガタノゾアに変身した。

「ほう、私も舐められたなあ、君のような小鳥が何をできる!?」

 怒り、見くびるなと言わんばかりに走り回るバント。

 これでは狙いが定まらない。

 一方、ガタノゾアはサングニスに攻撃を仕掛けるが……。

(何だコイツ……! ウナギみたいにヌルヌルだ!)

 粘液により、ほぼ攻撃が通じない。

 こうなればビーム攻撃しかないが……だが、予備動作の大きいビームを出すにはスキがあまりにも無い。

 出そうとしたところで攻撃により中断されるのが関の山だろう。

 そんなガタノゾアをチラりと見やった瞬間、ソラの肩が勢いよく斬れた。

「ッ……!」

「よそ見をしていて、いいのかな!?」

 足を、腕を、少しずつ少しずつ……致命傷にならないように斬って楽しむバント。

 彼に向け、ダメ元で一発撃つが当たらない。

(……でも、可児リーダーはやつをたぶん掴んだんだ、だから片手だけ湿った……どうやって?)

 一瞬、思考する。

 その後ろで転倒するガタノゾア、そして彼女に食い込むサングニスの牙。

 だが、次の瞬間ガタノゾアの拳がサングニスの頭に入った。

(……そういう事か!)

 どうすればいいかを察し、ソラは息を呑む。

 だが、もう迷ってもいられない。

 今こそ覚悟を決める時だ。

「おおぉぉぉぉっ!!!」

 鬨の声を上げながら動くソラ。

 だが、それはやけになったというわけではない。

 片腕にバントの刃が刺さるようにするためだ。

「な……!?」

 予想外の動きに驚くバント。

 だが、彼が刃を抜くより早くその腹部にエネルギーガンが命中する。

「……!!!」

 声を上げることもできず、すばやく走っていた勢いのまま床に転がり壁で頭を打つバント。

 その腹部をソラは思い切り足で踏みつけた。

「ガッ……! や、やめ……!」

 懇願するバント、だがソラは首を左右に振る。

「地球の小説に……こんな言葉が有る、撃って良いのは撃たれる覚悟の有るやつだけだ」

 囁きながら、ENカートリッジが交換され、古いカートリッジが病院の床に転がる。

 その音を聞きながら震えるバントに、ソラは改めて銃を向けた。

「……私も覚悟を決めた、お前も……覚悟を決めなさい!」

「や、やめてくれえええぇぇぇ!!!」

 叫びとともに頭部を撃ち抜く光線。

 広がり始めていた血溜まりが、更に大きくなっていく。

 同時に、自らの司令塔が死んだのを察してサングニスが戸惑いを見せる。

 それを好機と確信したガタノゾアは、勢いよく両腕を広げる。

 そして、頭の上に持っていった両腕をXの形にすると、ビームをまとわせて勢いよく振り下ろした。

(エナジー・エックス・スラッシュ!)

「ジャッ!!!」

 バントの刃から着想を得た、ビームをまとった腕による斬撃。

 それでX字の大きな傷を作られたサングニスは、勢いよく爆散する。

 それを見届け……ガタノゾアは飛び立つのだった。

「カーッコいい……」

 口笛を吹き、へたり込むソラ。

 そこに粘液まみれのアズサが戻ってきて、更に下水道に向かっていた部隊が到着する。

 それを見ながら、ソラは自分も含めてどいつもこいつも臭うなあ、などと考えるのだった。


 一方その頃……。

「こうして、何故我々が通り魔をするよう指示したか忘れ、快楽による狩りを楽しんだ落伍者は死んだ……」

 病院を眺め、呟く白髪の女性。

 彼女は復旧した電話を取り出すと、笑みを浮かべて誰かに電話をかける。

「やはり、ガタノゾアは彼女で間違いないようですよ、我が同志……」

 そして、純白の翼を広げると天に飛び立っていった。

 同じ頃、都内の小さな教会で一人の女性がその通信を受けている。

 見上げるような長身、コーヒー色の肌、プラチナブロンドの髪、そして胸に懐中時計を下げた……時計塔のような見てくれの女性だ。

 彼女は、隣に歩いてきた内神父に笑みを向ける。

 そして、何処かへ向けてゆっくりと歩き出した……。



「それにしても、宇宙人とのファーストコンタクトがこれか……」

 呟きながら、自室で腕を組むアズサ。

 その隣で、ギプスを付けたままながらソラは器用に紅獅子を掴んだ。

「何いってんの、ここに宇宙猫がいるじゃない」

「断じて猫ではない!」

 ワチャワチャと戯れながら、ああでもないこうでもないと言い合う二人。

 その様子を見ながら、アズサは少し物憂げに目を伏せた。

「その……腕の怪我はすまない」

「すまないって……別に悪いのはアイツでしょ?」

 別に一週間もすれば取れるし、と言いながらアクビをするソラ。

 その口に、アズサはりんごを一切れ入れる。

「むぐ」

「だって……私がもっとガタノゾアとしての力をうまく使えていたら、バントも軽く捻れたんじゃないか?」

「ゴクッ……あのねえ、もしとかかもしれないの話で気を重くしてどうすんのよ」

 呆れ返り、爪楊枝を無事な手で取るソラ。

 そして、リンゴを一切れ取ると、それをアズサの口に入れた。

「ぐむ」

「それに……私が覚悟を決められたのは、アンタが完璧じゃなくて、苦戦したりしてるからだし……だから、その……アンタのおかげで私も成長できたのよ」

 そう言い、ソラは顔を赤くする。

 そして……。

「ありがと、アズサ」

「ん……」

 もう一切れリンゴを咥えると、口移しでアズサの口に入れるのだった。

(……お邪魔だな)

 二人の関係を察し、紅獅子は部屋から出ていく。

 それからしばらくは二人の時間が続くのだった。


 そして一週間後……。

「では、これより略式ながらチームスカルへの入隊式を行います!」

 格納庫に呼び出された二人を待っていたのは、クラッカーの音、ミナキの声、そして溢れんばかりの拍手だった。

「よくやったじゃねえか、二人共! 可児直々の推薦だぞ!」

 赤井に高い高いされ、ソラは目を点にする。

 その隣で、古代はウンウンと腕を組んでいた。

「可児ちゃんからね、応急処置と病院防衛で二度にわたり自分を救った二人を、高く評価するって話が来たんだ」

「だから、宇宙人の撃破も合わせて二人揃って、見習い期間はもう終わりだ!」

 赤井達の言葉に、ソラはしばらく黙り込む。

 そして……。

「あ、ありがとうございます……!」

 上手くやれた気がしなかった応急処置、それが実を結び人を救ったこと、そしてそれにより良いことが起きたこと。

 そんな幸福の連鎖にソラは涙ぐんでしまう。

(良かったな、天道……)

 笑みを浮かべ、息を吸い込むアズサ。

 そして、ソラの言い切れなかった言葉を引き継ぐように、勢いよく敬礼した。

「これからはスカル3、スカル4両名共に粉骨砕身の覚悟で任務にあたると誓います!」

 二人分の誓いを込めて、高らかに宣誓するアズサ。

 そんな彼女を見ながら、紅獅子はウンウンと頭を下げた。

(私もまた、君達をサポートすると誓おう、私にできるやり方で……)

 女と女と猫の誓い、それが流れる格納庫。

 今、ここから彼女達の新たな戦いが本格的に始まろうとしていた。



 次回予告


 夢は記憶の結晶だ。

 ならば今日、今この時見る夢は何の意味があるのか?

 ガタノゾア、君の見せる夢の意味とは?

 今、まどろみの中新たな戦いが始まる。


 次回 静かな朝焼け ―― 夢は過去の花


 お楽しみに!

「私は何を見ているんだ!?」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る