第111話 本当の自分へ
それから僕は、まずMOMO*さんのことをみんなに紹介した。ひかりは以前会ったことがあるけど、他のみんなとは初対面だったからだ。
そしてMOMO*さんが天使のようなGMの姿に戻り、その正体を目の辺りにしたみんなは当然驚愕のリアクションをしていた。基本的に、LRO内のトラブルはよっぽどのことでなければ先生たちが解決してくれるから、こうしてGMに会えることはまずないからね。
紹介も終わったところで、MOMO*さんはまたスケッチブックを見せてくる。
『お待たせしてすみませんでした。実は、ユウキさんの問題がようやく解決出来ることになりましたのですが……』
そこでMOMO*さんが周りのみんなに視線を向けてから僕を見た。
僕はうなずく。
「大丈夫です。みんな、僕のことはもう知ってますから」
するとMOMO*さんもうなずき、そして新しいページに言葉を書き記す。
『既にシステムエラーの修正はオンメンテナンスでいつでも即対応出来るようになっていますです。それはもちろん修正させていただきますです。ですが……』
「? なんですか?」
MOMO*さんはなんだか少し困ったような顔をして、戸惑いながら手元のスケッチブックに文字を書いていった。
『……ユウキさんは、現在までにたくさん頑張って今の地位を築いてきたことを、私たち運営は知っておりますです。そして、ユウキさんに多大なご迷惑をおかけしたのはこちらなのです。他のみんなは回収すべきだと言いますが……私個人としましては、ユウキさんにこのままその指輪を使っていただいても構わないと思っています』
「え……」
『どうしますか?』
MOMO*さんはスケッチブックから覗く瞳で静かに僕を見上げていた。
「ユウキくん……」
ひかりが隣で心配そうに僕を見つめている。
だから、僕は笑った。
「……ありがとうございます、MOMO*さん。けど、これはお返しします。自分では外せないので、回収してもらえますか?」
MOMO*さんはじっと僕を見上げたまま言った。
『本当に、良いのですか?』
「はい」
『……わかりました。その前にステータスを元に戻してからにしますね』
うなずいた僕を見て、MOMO*さんがそっと僕の手を取る。
それからしばらく沈黙していて、やがてそっと指輪に触れた。すると指輪は自然と僕の腕から抜けていく。
『ステータスを確認してもらえるですか?』
言われてリンクメニューから確認してみると、僕のステータス画面からも指輪は消えており、そしてステータスのLUKは1に戻っていた。残りのステもすべて1で、現在のレベルまでに得た大量のステータスポイントだけが復活した状態となった。
「ありがとうございます、MOMO*さん」
お礼を言う僕に、MOMO*さんは小さく笑う。
そこでナナミが残念そうにため息をついて言った。
「あーあ。せっかくくれるって言ってんのにもったいねーな」
「ふふ、そうだねナナミ。でもさ、あんなにすごいアイテムを簡単に手放すユウキくんこそ素敵だと思わない? ね、ひかり?」
「はいっ!」
「……ま、さっぱりしたみたいだしそれでいいんじゃね?」
「うん、ありがとうナナミ」
ナナミの言う通り、本当にさっぱりした気持ちだ。
「ユウキくん、本当に良かったの?」
気持ちを確かめてくれる琴音にも僕はうなずく。
「いいんだ。確かにあの指輪にはずっと助けられてきし、あの指輪のおかげでみんなと楽しめたところもあるけど……でも、心のどこかでずっと葛藤があったから。本当の僕は何も出来ないのに、指輪の力でみんなに認められて、指輪の力で強くなって……この指輪の力でみんなを欺いているって。それが、トゲみたいにずっと胸に刺さってて……けど、今はようやくスッキリした!」
それは僕の本当の気持ちだった。
MOMO*さんはお詫びとしてあの指輪を貸してくれたし、以前にナナミも僕に非があるわけじゃないんだから堂々としろって言ってくれた。
それでもやっぱり……
「僕さ、ずっと怖かったんだ。この指輪があるから、ひかりは――みんなは一緒にいてくれるんじゃないかって。あれがなくなれば、僕には何の価値もないんじゃないかって」
そんなことをつぶやいた僕の手を……隣のひかりが握ってくれた。
「ユウキくん。わたしは、そんなこと気にしてないですっ。わたしは、ユウキくんだから一緒にいたいんです。その証拠に、初めて会ったときはまだユウキくんはあの指輪を持ってなかったんですよね? でも、わたしはあの時からユウキくんが好きでした!」
「えっ」
自信満々に。
笑顔でそう話すひかりに僕は呆然として、みんなが声を上げて笑い始めた。
「ひかり……ありがとう」
「はいっ!」
この相方がいてくれるから、僕はきっと、指輪を返す勇気を貰えたんだと思う。
するとメイさんが背中から寄りかかるようにくっついてきて、そのウサ耳を僕の顔にもふもふさせながら言った。
「だねだねっ! メイさんだって、ユウキくんがあの指輪を持っていて強かったから気に入ったわけじゃないよ? それくらい、もうユウキくんにもわかるでしょ? 夫婦の役をしたくらいの仲なんだからさ♥ うりうり~♥」
「メイさん。あはは、だね」
「もちろんナナミや琴音だって同じだよっ。ねー二人とも?」
「あ、あたしは別に気に入ってるとかそんなんじゃないし。なんだかんだで気付いたらギルメンにいただけだし。ていうかむしろ指輪がなくなって残念だよ!」
「ナナミはいつまで経っても素直じゃないねぇ。そこがチャームポイントでもあるけど♥」
「うっせーバカ! ユウキもそんなくだらないこといつまでも気にしてんじゃねーっての!」
「ナナミ……うん、ナナミもありがとう」
「面と向かってそういうのやめろはずい!」
いつものハリセンにぶっ叩かれて嬉しそうなメイさんと、なんだかむずがゆそうに僕から顔を逸らすナナミ。本当に、変わらないみんなの姿が僕は嬉しい。
続けて琴音も言った。
「私は……その指輪の話を聞いたのはつい最近で、ユウキくんを気に懸けるようになった理由の一番はユウキくんの戦いぶりからだったけれど、でも、だからって幻滅したり、気持ちが薄れたことは少しもないわ。だって、私が好きなユウキくんは、たとえそんなものがなくても何も変わらない人だと思っているから」
「琴音……ありがとう。嬉しいよ」
「ねっ? ふふ、みんなメイさんの自慢のギルドメンバーだよ!」
背中でメイさんが微笑み、僕もまたうなずいて「はい」と答えた。MOMO*さんも柔らかい笑みを浮かべてくれている。
するとそこで琴音が言った。
「ところでユウキくん。バグも直ってステータスも全部初期値に戻ったのでしょう? 大量のステータスポイントが残っているだろうけれど、これからどういうステ振りをしていくつもりなの?」
「あっ、それメイさんも気になる! ユウキくんどうするのっ?」
「あたしも! やっぱ王道でAGI剣士とかになるのか? AGIならそんな戦い方も変わらないし怪しまれないだろ?」
「わ、わたしも気になります! ユウキくん、どうするんですかっ?」
「わ、わわっ! ちょ、ちょっと落ち着いて!」
みんなが詰め寄ってくるのを止めて、僕はその場ですぐに返した。
「え~っと……実は、それについてはもう決めてるんだ」
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