第102話 《時空黒竜・カイザードラゴン》
「「「うわあああああああああああっ!!」」」
他のパーティーの前衛たちが大声を上げて吹き飛ばされ、絶命する。
突入からわずか一分ほど。
三十人以上いたメンバーは既に半分まで減らされていた。
他のパーティーのプリたちが必死に仲間たちを起こそうとするも、起き上がったメンバーはすぐにまたやられ、起こそうとするプリたちもまた次々に倒れた。大量のデスペナにみんなは悲鳴を上げ続けている。
そして、僕たちを驚愕させる事実が判明した。
「おい……なんだこれ! オレたちの《リンク・パートナー》が解除されてるぞッ!」
「ほ、本当っ! リンクスキルが使えなくなってる! どうなってるの!?」
先ほど吹き飛ばされた別のパーティーの相方同士が、倒れたままでいきなりそんなことを言った。
その声を聞いて他のみんなも確認を始めて、同じように《リンク・パートナー契約》が解除されているという報告がいくつか上がる。ここのパーティーの人たちはかなりレベルが高い人たちだから、契約を済ませている人も多かったみたいだ。
メイさんがすぐに状況を察して言った。
「おそらくこのボスの特殊スキルだよ! たぶん、さっきから使ってる《カイザー・ブレス》のせいだ! このスキルを受けると見たことのない状態異常アイコンがつくから、その状態でやられるとリンク値が下がるのかもしれない! 気をつけてっ!!」
『っ!』
空気がざわつき、みんなに動揺の波が広がっていく。
もちろん僕だって同じだ。
普通のデスペナなら所持している《リンク・ポイント》がわずかに少し下がる程度で済むけど、リンク値そのものが減るなんて聞いたこともない。
それに……もし僕たちがやられたら、ひかりとの《リンク・パートナー契約》が解除されるかもしれないッ!
そんな状況で、このダンジョンのラスボス――《時空黒竜・カイザードラゴン》はその黒い巨体を振るわせ、僕たち人間と同じような高笑いを始めた。
『グフ……グハハハハハ……! 愚かな未来人どもよ……貴様たちの繋がりなど、我が操りし時の彼方に忘却されていくのだ……』
人語を解する竜の登場に、僕たちは呼吸を荒くしながらも身構える。あいつのHPゲージはまだ四分の一程度しか削れていない。
フシュウ……と長い息を吐き、カイザードラゴンは語る。
『貴様たちヒトごときに時を支配することは叶わぬ……であれば、せめてこの場で滅びを受け入れ、時の住人と化すがいい――《カイザー・ブレス》!』
「全員オレの後ろに下がれ!!」
大きく息を吸い込んだボスの動きに対応し、ビードルさんが前に出て盾を構える。
瞬間、カイザードラゴンは猛る雄叫びと共に暗黒の火炎を吐き出し、それはビードルさんに直撃して激しい熱風を巻き起こす。
「ぐ――あああああああああっ!」
「ビードルさんっ! うわああっ!」
「ビードルッ! ぐはっ!」
吹き飛ばされたビードルさんは僕とレイジさんの間を通り抜けて後ろの石壁に激突! そのHPは脆くも尽きてしまっていた。
その上、ビードルさんの自慢の盾が僕たちの前方でボロボロに破壊されている。僕とレイジさんも吹き飛ばされ、お互いにHPが激しく減少していった。
視界の端に移る炎マークのアイコン。炎傷異常だ!
「そんな……ビードルさんが一撃で……っ!」
ビードルさんはこのパーティーの――いや、LRO内においてもトップクラスに硬い盾騎士だ。それをこのボスは一撃で――!
「《セイクレッド・プレイス》! 《キュア・コンディション》×2!」
僕たちのダメージを察した琴音さんがすぐに
しかしその間にも当然ヤツは動く。
『グハハハハハ……! ならば、貴様たちの未来は我が爪が引き裂こう……《スラッシュ・ネイル》!』
「うわああああっ!」
「! レイジさんっ!」
広範囲の物理攻撃。
横に薙いだドラゴンの爪が僕たちを切り裂いて、僕は絶対回避で避けることが出来たけど、レイジさんまでもが倒れてしまった! それだけじゃない、他のパーティーも既にほとんどが壊滅状態にある。
メイさんが叫ぶように言った。
「ひかり! 琴音! メイさんたちが囮になるからその間に態勢を! 楓はデバフを! るぅ子は罠で時間を稼いで! ナナミはアイテム支援をお願いっ! ユウキくんごめんなんとか耐えてっ!!」
「了解! みんな僕の後ろに!」
「ああもうしゃーねーなっ! ほらポーションなげんぞ!!」
「了解よっ~!」
「罠設置します! 弓で追撃も!」
すぐに混乱状態を立て直そうとしてくれるみんな。
けど相手の力が絶大で、本来は敵の身動きを止められるはずのるぅ子さんの罠も一踏みで破壊されてしまった。僕も一人では相手の攻撃を抑えられず、どうしても後方に被害が出てしまう!
「これは…………もう無理よメイ! 私たちの許容限界を超えてる! 回復とリザが間に合わないわ!」
使用後に数秒ほどディレイの発生する復活スキル――《リザレクション》を使うと、その間は琴音さんが一切の支援が出来なくなる。それはたったの数秒だけど、その数秒が今は致命的だ。ひかりや楓さんの回復のみでは間に合わない。
それでも、僕たちは回復材を湯水のように使ってなんとかヤツの攻撃を耐えていたけど――
『無駄なあがきだ…………《カイザー・ブレス』!!》』
再び息を吸い込んだボスは、あの暗黒火炎を辺り一面にまき散らして僕たちを一掃しようとする!
「くっ、そおおおおおおおおおッ!」
僕は吹き飛ばされながらも回復材を使いまくり、HPゲージは真っ赤だけどギリギリで耐えることが出来た。しかし耐え抜いても炎傷異常によってHPを削られてしまう。状態異常回復ポーションも併用してなんとか生き残ったものの、今のたった一撃でかなりの数のHP回復ポーションを使ってしまった。
「みんな! だいじょ――」
背後を振り返る僕。
広がるのは、悲惨な光景だった。
「ユ、ユウキくん……ごめんなさいっ!」
「ごめーんメイさんやられちゃったぁ~~~~!」
「あんなのあたしに耐えられるわけねーだろこっちは紙だバカヤロー!」
「ユウキくん……僕としたことが、すまない!」
「くっ……なんと強大なドラゴンか……やるっ!」
「あららら~~~。これはちょっと無理かしらぁ~」
「どうもボスには罠が効きづらいみたいですね……不覚です……」
ひかり、メイさん、ナナミさん、レイジさん、ビードルさん、楓さん、るぅ子さんの七人がみんな倒れてしまっていて、さらに他のパーティーでは立ち上がっている人がもう一人も存在しない。
つまり。
残ったのは僕と――そして琴音さんのみ!
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