第81話 突然の告白

「「「「え?」」」」


 突然の来訪者に、僕たちはみんな当然ながら驚いてしまった。

 視界に表示されているその子の名前は――


「私は《琴音》。一年七組所属の見ての通りの《プリースト》よ。支援特化でレベルは54。そこそこ高い方なんじゃないかしら。以後よろしくね」


 長い髪をサラッと手で払うと、仁王立ちで腰に手を当てる琴音さん。

 髪は腰の辺りまで絹糸みたいにサラサラと流れていて、艶のある紫色だ。衣装は《プリースト》らしい聖職者用の法衣――なんだけども、デザインや柄が和服っぽくアレンジされていて、日本らしい印象がある衣装だった。ひかりのものよりスリットが深めだったり、装備中のアクセサリーでちょっとした華やかさもプラスされてる。お淑やかではあるけど色気もあるっていうか、とにかくそんな和っぽい衣装がよく似合っている人だった。

 そして、彼女は自信満々に僕を見つめて言った。


「あなたのことはよく知ってるわ、幸運剣士のユウキくん」

「え? あ、そ、そう、なんですか?」

「ええ。だから今日は告白に来たの」

「え?」


 告白?

 誰が誰に?



「――ユウキくん。私とお付き合いしてください。もちろん彼氏彼女として。それに、出来ればLROの相方としてもお付き合いしたいな」



「「「「……え?」」」」



 ……え?

 …………え?


 えっ!?


「え、え、えええええっ!?」


 思わず大声を上げてしまう僕。

 なんと、僕は琴音さんにいきなり告白されてしまった!

 え? 何でどういうこと!? まったくわけがわからない!


 けどその間にも琴音さんはのっしのっしと僕の前に歩み寄り、


「どうかなユウキくん? 私と付き合ってみない? きっと楽しいわよ」

「え、えっと……どうかなって言われましても!?」


 突然やってきた琴音さんに突然告白されて突然手を握られてしまった僕。まさかOK出来るはずもないし、そもそもなぜいきなり僕なんかに告白を!?

 意味がわからず混乱しっぱなしの僕の代わりに、メイさんが話をしてくれた。


「ええとええと! ひとまずちょっと落ち着こうよ! 琴音は……あ、琴音って呼んで大丈夫かな? メイさんもメイと呼んでくれていいからね」

「ええ、わかったわメイ。あなたはこのギルドのマスターなのよね。ええ、お邪魔したのはこちらだもの。マスターさんの指示には従うわ」


 琴音さんは素直にそう言って僕から手を離し、メイさんと握手をしてから静かに足を揃えて座り込む。その動作はすごく流麗だった。

 そこでひかりが声をかけた。


「あの……は、はじめましてっ。わ、わたしはひかりです! ユウキくんの相方さんをさせてもらってます!」


 ペコッと頭を下げて挨拶をするひかり。ナナミが「おお、先制攻撃!」とちょっと興奮していた。

 そんなひかりに琴音さんが答える。


「ええ、あなたのこともよく知っているわ。支援職でありながら殴りの道を選んだ変わり者。けれど、そういう個性的なプレイスタイル私は好きよ。よろしくねひかり」

「あ、は、はいっ! よろしくお願いします!」


 軽く握手をかわす二人。ナナミが「仲良くなってどーすんだ!」と小声でツッコんでいた。

 と、そんなナナミにも琴音さんの視線が向く。ナナミはじっと睨みつけるように警戒していた。


「そしてあなたがナナミね。LROの流通業界じゃ有名な《マーチャント》だわ。私もあなたの露店を利用させてもらったことが何度かあるの」

「は? そ、そうだったのか?」

「ええ。ただ安めな値段を付けるだけじゃない。《マーチャント》ならではの情報網で現在の流通状況を把握し、需要と供給を見極めて適切な商品を適切な場所で適切な値段で売る。理に適ったあなたのプレイスタイルも気持ちが良いわ。これからよろしくね」

「そ、そりゃどーも……よろしく……」


 ナナミとも握手をして、あっという間にみんなの輪に入った雰囲気の琴音さん。

 メイさんはうんうんとうなずきながら言った。


「ふふ、琴音はずいぶんとハッキリした子みたいだね。凜とした雰囲気といい、綺麗に整った身だしなみといい、その言動も、しっかり者の長女という感じがするね」


 挨拶代わりの世間話といった様子のメイさんに、琴音さんはちょっと驚いたようにまばたきをして答えた。


「ええ、よくわかるのね。私、リアルでは二人の妹がいる長女なの」

「やっぱりね! メイさん人を見る目があるからね。琴音は堅物そうに見えて、その実可愛いところもいっぱいあるギャップ系かわいこちゃんと見た!」

「自分ではどうかわからないけれど、同じようなことを友達に言われたことはあるわ。メイはすごいのね」

「えへへ、褒められるとメイさん調子に乗っちゃうよ~~~♪」

「おいこらメイ! なにをお前まで仲良くなってんだよ!」

「はっ、つい琴音のかわいこちゃんオーラに当てられてっ」


 なんなんだかわいこちゃんオーラって!


「ごほんごほん。それで、琴音はどうして突然ユウキくんに告白を?」


 そこでメイさんが話を戻す。そう、僕が知りたいのはそこだ!

 すると、琴音さんはハキハキとした態度で全員を見回しながら答えた。


「そうね。あなたたちにとっては突然になってしまって申し訳ないけれど、私にはそうではないのよ」

「というと?」


 メイさんが促し、琴音さんは続けた。


「《ラトゥーニ廃聖堂》でのクエストを覚えている? ほら、ユウキくんが一番最初にクリアしたあのクエストよ」

「あ、はい。それはもちろん!」

「ユウキくんとわたしが再会したときのダンジョンですよね? わたしも一緒にクリアしました! すごく思い出深いです!」

「ああ、ユウキくんが生徒会に認められるきっかけになったクエストだね。そのあと、ひかりがユウキくんをここへ連れてきてくれたんだっけ。ふふ、なんだかもう懐かしい思い出だね~」

「あー、あたしはあそこクリアしてねーけど、確かそんな感じだったな……」


 四人であの頃を思い出す。あそこでひかりと出会ったからこそ、今の僕がいるんだよな。


「ええ、そうよ。その《ラトゥーニ廃聖堂》で、私はユウキくんに助けてもらったの」

「え?」

「覚えていない? 《ソードマン》の男子が二人と、《メイジ》の女子が一人、そして《クレリック》のときの私が四人でパーティーを組んでいて、道中でモンスターに全滅させられたの。そこにユウキくんが現れて、モンスターを倒して、私を起こしてくれた」

「…………ああっ!」


 言われて思いだした。

 そうだ。確かにあのダンジョンではそんなことがあった。

 LUKのことがバレるのがこわくてほとんど会話もしなかったけど、すぐに《クレリック》の子だけ起こして先に進んだんだっけ。


「その様子だと、私がそのときのクレだってわからなかったみたいね」

「あ、ご、ごめんなさい。あのときはちょっと慌ててたっていうか……」

「ええ、いいのよ別に。こうして転職して見た目も変わっていたのだし。あのときはちゃんとお礼が言えなかったから、ずっとチャンスを待っていたの。けれどこれでようやく言えるわ。おかげで私たちも無事にあのダンジョンをクリア出来たの。あのときは、助けてくれて本当にありがとう」

「いえ、そ、そんな! 頭を下げるようなことじゃないですよ!」

「謙虚なのね。思った通りの人だわ」


 仰々しく頭を下げた琴音さん。その顔を上げたとき、琴音さんは花の咲いたようなとても綺麗な笑顔を見せてくれた。

 なんというか、今のやりとりだけでこの人が真面目で良い人なんだろうってことがよく伝わってきた。こんなにビシッと頭を下げられて、そして笑える人はなかなかいないんじゃないだろうか。

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