第34話 二人きりのドキドキ勉強会
僕がひかりに誘われてメイさんのギルド――【秘密結社☆ラビットシンドローム】に入ってから一ヶ月ほどが立ち、五月も終盤。
GVGの話は、ひとまず参加してもいいかなと返事をしていた僕は、今日も元気に狩りやクエストをこなして――いたかったんだけど、そうもいかないのが僕たち生徒の事情だ。
迫っているのである。
学舎の生徒の実力を試されるあの日が!
「ねぇユーくん……メイたち、二人っきりだね……♥」
「は、はい?」
メイさんがそっと隣に寄り添い、人差し指で僕を突っつきながら言う。
「他にだ~れもいない放課後の教室……これからどんな青春ハプニングが起きちゃうんだろう……メイ、なんだかドキドキする……♥ ほらユーくん……メイの胸、触って確かめて……?」
「さささ触りませんよっ!! 勉強以外何も起きませんから! う、腕を絡ませてこないで~~~! 勉強に集中させてくださいってば! ていうかユーくんて僕!?」
「えー? んも~っ、ユウキくんってばノリわるぅ~~~い! ここはぁ、メイの魅力にスタンしちゃうところだぞ☆」
「上手いこと言ったつもり!?」
目の前の数学の問題に必死に頭を働かせていた僕は、指先からピリピリと電気を発生させながら謎のキャピポーズをとるメイさんに思わずため口でツッコミを入れていた。
「ああ……何やってんだ僕は……」
小さくため息をつく。
ていうかこれをやらせてるのはメイさんなのにそのメイさんが邪魔してくるか普通!?
と、そこで脈略もなく通常モードに戻ったメイさんはひょいっと僕の前に顔を出して問題を覗き、
「それでどこがわからないのかにゃ? ――ああここだね。ほら、こちらの問題は前問の簡単な応用編だよ。落ち着いて考えれば大丈夫」
「えっ? ……あ、なるほど! そっか、こっちと同じでよかったんですね。ありがとうございます!」
「はーい、どういたしまして♪」
メイさんは僕の隣の席に腰掛けたままにっこりと微笑む。
メイさんの服は相変わらずスカートがすごく短いからつい目線が向いたけど、すぐ机上の紙に意識を戻すようにした。ていうかさっき腕を絡められたときに触れたメイさんの胸の感触が肘に残っていて、なかなか意識が勉強に向かない。ああもうメイさんには助けてもらってるのか邪魔されてるのかわからないナニコレ!
一方で、そんな人の気は知らないのか、はたまたそんな僕を見て内心ニヤニヤしているのかわからないメイさんは机に両肘をつき、両手の上に顎を乗せてつぶやいた。
「う~ん。今頃は、ひかりとナナミも寮の自室で勉強中かなぁ? えっと、明日はひかりの勉強も見てあげないといけなかったね。ナナミはいらないって言ってたけどどうしよっかなぁ」
「あ、自分の勉強もあるのにすみません。僕たちの勉強まで見てもらって」
「気にしないでいいんだよ~。もしもギルドメンバーが赤点をとって、今後の可愛い物集め――もといギルド活動に支障が出たら困るからね。これもマスターであるメイさんの立派なお仕事なのです!」
「メイさん的にはまじで可愛い物集めのギルドなんですね……」
「えへっ☆」
てへぺろ顔でしなを作るメイさん。本来なら腹立ちそうな仕草もやたら可愛いのがなんか悔しい!
たぶん、それはメイさんの性格的な部分が大きいだろう。この人の明るい表情と言動で僕の気持ちは楽になるし、そういう自然に相手を気に懸けた言い方が出来るメイさんを僕は尊敬していた。
「さ、寮のごはんの時間までに頑張ってあと2ページ片付けちゃおう。ひとまず七割正解を目指してみようか。それで数学は問題なくなると思うよ。ファイトファイト!」
「よっし、わかりました! じゃあ始めます!」
「うんうん、偉いねユウキくん。――そうだ! もしも全問正解出来たら、ご褒美にメイさんがほっぺにチューしてあげるね♥」
「ちゅぇっ!? い、いいいいいやいいですよ別に!」
まさかの発言にわかりやすく動揺しまくる僕。
するとメイさんはしゅんと落ち込んだ表情を見せて、
「イ、イヤなの……? くすん……メイ、ショック……。あっ、もしかして口がいいってこと……? やだ……ユーくんたら……♥」
「そんなこと言ってないっすよね!? ていうかそのキャラなんなんですか!?」
「あはははっ、付き合いたてのラブラブ彼女をイメージしてみたんだけどどうかな? ほら、男の子としては可愛い女の子にこういうこと言われちゃうとモチベーションあがるかなーってね。それとも、ユウキくんはやっぱりひかりみたいな天然で真面目っぽい子が好きだったりする?」
「だ、だからひかりとはそういうんじゃなくてですね……! そ、それよりもう勉強の邪魔しないでくださいよ!」
「むふふー。ユウキくんはからかうと面白いねぇ。メイさんてばイイおもちゃ見つけちゃった♪」
「本人の前でよくもまぁ包み隠さず本音を!」
「そういうところがメイさんの魅力じゃない? ほらほら、時間ないよー?」
「あっ、も、もう邪魔しないでくださいよ!」
「はーい♪」
自ら魅力を語るメイさんをけん制しつつ問題に戻る僕。
さて、こうしてメイさんのボケにツッコミつつ、放課後に二人きりの教室で勉強を見てもらっている理由というのは、もちろん、来る『中間考査』を乗り越えるためだ。
何を隠そう、僕は入学から今までほとんど自室で勉強もせずに狩りやらクエストやらに明け暮れていたため、ツケが溜まっておりました。ひかりやナナミさんはともかく、僕はヤバイ!
そしてテストで赤点をとると、補習はもちろん、学園クエストも勉強の類いばかりになったり、LROのプレイにもいろいろと影響が出る。ひどい場合はリアルの家族に報告がいって、強制ログアウトされる可能性もあるとかなんとか。
こんな状況になって、僕は改めてLROがただのMMORPGではなく、リアルな学園生活であることを感じる。
それからしばらくの間は勉強に集中することとなり――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます