第35話 お姉さん系クラスメイト
「……ふぅ~。メイさん、出来ました~」
「はいはーい、お疲れ様。……………………おお~、ちょうど七割は正解してるね。うん、これならテストも問題ないはずだよ。すごいすごい。普段のプレイでもわかってたけど、ユウキくんは要領がいいんだね」
「ああ、よかった……」
メイさんの方を向くように机上に頭を乗せて休んでいた僕に、メイさんがパチパチ拍手をしてくれる。
うう、達成感はあるけど、なんか頭が重い気がする……。
すると、椅子から立ち上がったメイさんがしゃがみ込んで僕と目線を合わせた。
「ふふ。本当にお疲れ様だね。さすがに全問正解とはいかなかったけど、ほっぺにチュー、してあげよっか?」
「うぇっ! い、いいですよそんなの!」
「え~そう? メイさんざんね~ん」
「残念とか言いながらニヤニヤしてるじゃないですか! からかって遊ばないでっ!」
「あはは、ごめんごめん。ユウキくんてば反応が可愛いんだもん。けど、頭を撫でるくらいはしてあげてもいいよね?」
「え、あ……」
「よしよし、頑張ったね~」
心底楽しそうに笑ったメイさんは、今度は机の上に腰掛け、その手を伸ばして僕の頭をよしよしと撫でてくれた。
ちょっと照れるけど……邪険にしたいわけじゃないし、別に誰かに見られているわけでもないしと、僕は黙ってそれを受け入れることにした。
「ユウキくんの髪は柔らかいね。ひかりのサラッとしたものよりは、ナナミのふわっとした感じに似てるなぁ。なんだか、撫でてるメイさんの方も気持ち良くなっちゃう♪」
「そ、そうですか……? ていうか二人のも知ってるのか……」
それは、なんとも不思議な時間だった。
メイさんはこういう性格上だから、なんとなく年上のお姉さんっぽい感じはするけど、冷静に考えなくても同い年の同級生なんだよな。しかもクラスメイトだし!
うーん。な、なぜ僕はクラスメイトの女子から弟を相手にするみたいなからかいを受けてるんだろう。そんなにからかいやすい男なのかなぁ……自分ではよくわからない……。
と、そこで頭を撫でられたまま僕は尋ねた。
「あ、そういえばメイさん」
「ん? なになに?」
頭を撫でる手が止まる。メイさんは足をぷらぷらさせながら首をかしげた。
「さっきひかりとナナミさんの勉強も見るって言ってましたけど、本当に自分の勉強は大丈夫なんですか? メイさん、僕たちにばっかり気を遣ってくれてますけど……」
「あはは、それなら大丈夫だよ。メイさんこれでも超優等生ですからねっ! ふふ、そんなわけで心配はいらないよ。ちゃんと自室でもやっているからさ」
「おお……堂々とそんなこと言えるのがすごいですね……」
「ふふん、メイさんかっこいいでしょ? 惚れちゃう惚れちゃう?」
「ぷっ。ど、どうでしょうね」
「普段は女の子に弱いっぽいのにそこは笑っちゃうのー!?」
ドヤ顔が似合うメイさんについ笑ってしまうと、メイさんは一瞬だけ頬を膨らませて怒ったような態度を見せたけど、直後にまた愉しそうに笑い返してくれた。
まだメイさんとは出会ってそんなに時間も経ってないけど、僕はメイさんが人として好きだ。一緒にいて居心地が良いし、いつも相手を気遣ってくれる優しい人だとすぐにわかってしまうから。そして、それが誰に対しても変わらない人だと思うから。ある意味、僕はメイさんに惚れちゃってるかもしれないな。
そしてメイさんがそんな人だからこそ、きっと、ひかりもナナミさんもメイさんのギルドに入ることを決めたんじゃないかなって今は思う。
そんなとき、僕はふと思った。
――メイさんって、リアルでもこんな人なのかな?
だから、少しだけ緊張したけど……僕はそのことを尋ねてみることにした。
ネトゲの中でリアルの話を持ち込むのはあまり良くないことだって言われてはいる。プライバシー的な問題もあるし、ひかりが本名を明かしたときだって僕は焦った。
でも……LROは普通のネトゲとは違う。この世界はどこまでもリアルを目指した世界なんだから。
だからなのか、僕の口はゆっくりとそれを訊いてしまっていた。
「あの、メイさん。ちょうどいい……っていうとなんか語弊がありますけど、もしよかったらなんですけど、ちょっとリアルの話とか聞いても……いい、ですか?」
「うん、恋人はいないよ♥」
「まだ何も訊いてないですけど!?」
「特に構わないけれど、あんまりプライベートすぎる質問には答えられないかもしれないよ? 例えば……け、経験人数とか……ね? もう、エッチなんだから♥」
「だからそんなこと訊きませんて!? 僕セクハラ野郎だと思われてます!?」
「あははははっ。もーユウキくんは本当に可愛いなぁ。それでなにかな? 可愛いユウキくんの質問ならな~んでも答えてあげるよ? な~んでもね? あ、ちなみにまだ清い身体だから安心してね♪」
「か、完全に遊ばれてる! 僕からそういう質問を引き出そうとしてる!」
「それで? メイさんに何が聞きたいのかにゃ~?」
流し目ウィンクの台詞にちょっと動揺しつつ、僕は冷静に戻って口を開いた。
「ええと、あの、メイさんってかなり勉強出来ますよね? レイジさんに聞きましたよ。本当は生徒会長になるはずだったのはメイさんだったって」
「な~んだそういうお話かぁ。もっと乙女の秘密に迫るものだと期待したのにな?」
「なんですか乙女の秘密って……。そ、それよりどうして生徒会長の話は断ったんですか? 生徒会長になればいろいろ優遇もあったはずですけど……」
メイさんのペースに付き合いながら尋ねる僕に、メイさんは「んー」と頬に手を添えてちょっとだけ間を置き、
「それはほら、生徒会長になんてなったら責任重大で自由にLROを楽しめないと思ってね。今でもそのことは後悔はしてないよ。だって、そのおかげでひかりやナナミ、それにユウキくんとも会えたんだしね。三人はメイさんの宝物だよ♥」
「そ、そうですか……」
ニコニコと笑顔でそんなことを言えるこの人は、やっぱり僕たちのギルドマスターだと改めて思う。
質問を続けた。
「でも、メイさんくらい勉強の出来る人が、どうして進学校とかに行かずに、LROに来ることを選んだんですか? メイさんの実力なら相当良いところに行けたはずですよね? やっぱりネトゲが好きだったから、とか?」
「う~ん、もちろんネトゲが好きだからって理由もあるけど……そうだねぇ、一番の理由は、自分らしくいられる場所を探していたから、かな?」
「え?」
「ほら、パンフレットに書いてあった責任者――紫鳳院さんの言葉を覚えてるかな?」
言われて、思い出す。
入学式の日、パンフレットの一ページ目で見たあの言葉。
〝すべての子どもたちが、自分らしく成長出来る場所を目指します――〟
おそらくメイさんは、そのことを言っているんだろう。
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