第30話 夕焼け湖畔デート
それからは何をするでもなく、湖畔でだらだらと休んだり、ひかりが用意してくれていた軽食のお弁当を食べたり、みんなでスキルポイントを1だけ使って《釣りスキル》を取って釣りをしたり、学園での勉強の話をしたり、進路とか、ちょっとだけリアルでの話もしたり。
ナナミさんはあんまり話には入ってこなかったけど、そんな風に時間は穏やかに過ぎていって、あっという間に夕暮れになった。
LROの世界では日時、日の出や日の入りも現実とリンクしているため、ちょうどリアルでもこうして日が落ちかけているのだろう。
でも……リアルだとこうやってじっくりと夕焼けを見ることはなかったなって、僕はゲームの中で気づいた。
「おや、もう夕暮れだね。いやぁ、今日はのんびり出来て良かったね、みんな」
「はい! とっても楽しかったです! ユウキくんも楽しかったですかっ?」
「うん、もちろん。だいぶゆっくり休めた気がするよ」
「今回はキノコとかだいぶ拾えたし良かったな。でも狩り中心なのはキツイから、そういうのは不参加で」
「ふふ。みんな楽しんでくれたみたいでよかったよ。次のG狩りも考えておこうかな♪」
メイさんが背伸びをしながら嬉しそうに言う。
本当に、こんなにのんびりとした一日を過ごすのはLROに来て初めてだったくらいだ。
それからみんなで遊んだ後始末をしていると、メイさんがそっと僕のそばに来て、耳元で静かにつぶやく。
「ユウキくんユウキくん。今日は少し残念だったね」
「え? どうしてですか?」
「メイさんたちの水着姿が見られなくて♪ でもその代わりにひかりのスケスケが見られて眼福だったかな?」
「ぶっ! な、何言ってるんですかっ! 別にそういう期待してないですって!」
「ふふ、男の子は素直じゃないね。けど安心して? 今度水辺に来るときは、ちゃぁんと水着を用意するからね。そのときは誰の水着が一番似合うか教えてね♥」
「か、からかわないでくださいよ……」
とか言いつつ既にそのときの妄想を開始してしまう悲しい男の性。だ、ダメだダメだ! ひかりの水着姿とか想像しちゃダメだ! 勝手にビキニとか着せちゃダメだー!
するとメイさんはくすくすとおかしそうに笑って、
「あはは、ユウキくんもやっぱり可愛いなぁ。さ、あとはメイさんとナナミでやっておくから、ひかりを誘って少し湖畔を歩いておいでよ」
「え? ど、どうしてですか? 悪いですよ」
「ふふ。この辺りはね、今日みたいな遠足はもちろん、カップルたちのデートスポットとしても人気が出てきているんだよ。今日は運良くメイさんたちだけの貸し切り状態だし、せっかくだから行っておいでよ。ほら、なんて綺麗な景色だろう。ひかりもきっと喜ぶよ」
「ええ? デ、デートってそんな、僕とひかりはそんなんじゃ……」
「いいからいいから。若いうちにちゃんと青春しておかないとダメだよ♥」
「メ、メイさんだって同い年じゃないですか。ていうか楽しんでませんか?」
「バレちゃった? ほらほらいいから」
「うう……わ、わかりましたよ……」
ニヤニヤするメイさんにぐいぐいと背中を押され、僕はひかりの元へ。
「? ユウキくん? どうしたんですか?」
「あー、あ、あのさひかり……ちょ、ちょっと、その辺、歩かない?」
「え?」
「それはいい考えだねユウキくんっ! せっかく相方同士になったんだから、もっと友好を深めておいでよ! ここはメイさんたちにまかせて! ねーナナミ!」
「……はぁ。はいはい、好きにしてくれ」
大げさに煽るメイさんを見て事情は察してくれたのか、ナナミさんはしっしっと僕たちに手を振る。
ひかりはしばらく呆然としていたけど、
「……はい! それじゃあいきたいです!」
と、いつもの笑顔を浮かべてくれたから、緊張しまくっていた僕は一安心した。
「わぁ~! 綺麗ですね、ユウキくん!」
「うん、そうだね」
二人で夕焼けの湖畔をのんびり歩く僕たちと、そんな僕たちをまったく気にも留めずにぽよぽよと飛び跳ねる《ミャウ》たち。
湖が夕陽を反射して、キラキラと宝石を散りばめたみたいに輝く光景は本当に綺麗で、メイさんがデートスポットとして人気といった理由もわかる。結構ロマンチックな場所だ。
けど、そう思ったらちょっとドキドキしてきてしまった。
ここはゲームの中だし、ひかりはあくまでも『相方』であって『恋人』じゃない。MMORPGをプレイする人の中には、『相方』を『恋人』と同義で使う人も多いけど、『親友』の意味を持つ同性の相方同士だっているし、あくまでも狩りのためのパートナーという意味での相方同士もいる。僕にとっての『相方』の定義はあいまいだし、なんとなくいつも一緒にいられる気兼ねないパートナー、という感覚だけど……。
でも、ひかりはこんなに可愛い女の子だ。
そんな子と一緒にデートスポットを散策していれば、自然と嬉しい気持ちにもなる。
ひかりは、そういうのはどう思っているんだろう?
気にはなるけど、でも、そんな恥ずかしいことを尋ねる勇気はやっぱりない。
「ユウキくん、今日はありがとうございましたっ」
「え?」
ひかりが足を止めて振り返り、突然そんなことを言った。
「ありがとうって、な、何が?」
「えっと、いろいろですっ。相方さんになってくれたこともそうですけど、メイちゃんのギルドに入ってくれたことも、G狩りに参加してくれたことも、こうやって、わたしと歩いてくれることもですっ!」
「それは……むしろ僕がお礼を言う立場だよ」
「え? どうしてですか?」
「だって、僕は今までずっと一人でやってきて、これからもさ、一人でLROを楽しんで、三年後には卒業してるのかなって思ってたんだ。けど……ひかりとまた一緒に遊べて、相方になってもらって、ギルドにも入れてもらえてさ。今日はすごく、楽しかったよ。なんかちょっと、夢みたいだって気さえするんだ」
少し気恥ずかしかったけど、でも、それは本当の気持ちだった。
するとひかりは眩しく笑って、
「それじゃあ、お互いにありがとうですねっ。わたしもすっごく、楽しかったです!」
「うん、そうだね」
ひかりはいつも笑ってくれる。
彼女の屈託のない笑みに、僕はすごく救われているような気がした。
そんな彼女に、一つ尋ねてみたいことがあった。
「あのさ、ひかり。一ついいかな?」
「はい? なんですか?」
「ひかりはさ、どうして僕なんかと相方になろうって思ってくれたの?」
「え?」
「だってさ、初心者の頃に会って、一緒に遊んで、また遊ぼうって約束をしただけ……じゃない? 普通の子ならさ、そんな口約束を律儀にずっと守らないんじゃないかなって思うし、ましてや、相方になんてさ……」
徐々に声が小さくなっていってしまった。
ひかりは笑った。
「それだけじゃ、ダメですか?」
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