第31話 夕焼け湖畔デートⅡ


「……え?」

「一緒に遊んで、また遊ぼうって約束をしただけ――それだけじゃ、ダメですか?」


 僕の前に歩み寄るひかりは、そっと僕の手を両手で包み込むように握る。


「何も知らないわたしに、最初にLROの楽しさを教えてくれたのは、ユウキくんです。たまたまかもしれないけど、最初に出会って、最初に遊べたのは、ユウキくんです。だから、わたしにとってはすごく大切な思い出です。その人と再会して、また一緒に遊べて……わたしは、とっても嬉しかったんです!」

「……ひかり……」

「だから、もっと一緒にいたいなって思いました。だから、相方さんになれたらいいなって思いました。それだけじゃ、ダメですか?」


 ひかりは優しく、真っ直ぐな瞳で僕を見つめている。

 当たり前のことだった。

 出会って。遊んで。仲良くなって。もっと一緒にいたいと思う。だから、相方になる。

 きっと、みんなそうして誰かと近づいていく。

 一緒にいたいから、一緒にいる。

 とてもシンプルな答え。

 それなのに僕は、ひかりの想いの裏に何か別の理由があるんじゃないかとか、何かの打算があるんじゃないかとか、LUKチートのことに勘づかれているんじゃないかとか、表向きはそう思ってなくても、頭のどこかで、きっとそんな邪推をしていた。


「……ひかり、ごめん……」

「え? ど、どうして謝るんですか? やっぱり、わたしとじゃダメでしたか……?」

「いやいやそうじゃないよそんなわけないっ! む、むしろその……ひ、ひかりでよかったって、いうか……」

「え?」

「ああ~、えっと、その……」


 ああああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!

 よく考えたら、僕はリアルだと妹以外の女の子とはそんなに話したこともないし、どうやって接していいのかもわからない! 変なこと言って困らせてしまったかもしれない! そんな風に悩んで頭を抱える僕を見て、ひかりはおかしそうに笑った。


「ふふ、あははっ」

「え? ひ、ひかり?」

「ユウキくんっ」


 僕の手を握ったまま、ひかりは言う。


「これからも、末永くよろしくお願いしますねっ」


 またそんなちょっと勘違いしちゃうようなことを。

 でも僕は、


「……うん。こちらこそ、末永くよろしく」


 同じように答えて、ひかりは一段と眩しく微笑んだ。

 僕は決めた。

 ちゃんと、ひかりに自分の秘密のことを話そうと。

 運営のMOMO*さんは、この指輪のことはなるべく秘密だと言った。

 けれど、なるべくだ。あくまでもなるべくなんだ。いやそんなの詭弁だってわかってるけど、でも、僕はひかりに対してもっと誠実でいたい。そう思った。

 だからMOMO*さん……ごめんなさい!


「あのさ、ひかり。それと……もう一つ話したいことがあって」

「はい? なんですか?」


 僕が口を開こうとした、そのとき。



「――ミャアアアアアアアアアウ!」



 突如聞こえてきた奇声と、ザアアアアアという激しい水音。


「「え?」」


 僕とひかりの声が揃う。

 二人して横を――湖の方を見れば、



「ミャウウウウウ……」



 湖の上に、超巨大な《ミャウ》が姿を現していた!



「え、えええええっ!? なんだあいつっ!?」

「わ~! 見たことない《ミャウ》ですねっ、かわいいです! あっ、あの子がメイちゃんが言ってたボスさんなんでしょうか?」

「はっ、そ、そういえばそんな話あったような!」


 普通の《ミャウ》は、リアルでのウサギ一匹ほどの大きさだ。けど湖から出てきたこいつは、その数百倍はあろうかというサイズで、恐竜か何かのレベルである。しかも、うにょうにょと触手のようなものを伸ばしてさえいた。

 視界に映る名前は、《ミャウキング》。

 名前表示が赤い。ボスモンスターだ! ってことはやっぱりこいつが噂のボスってことか!


「ミャウウウウウウ~!」


《ミャウキング》は妙な声を上げ、触手を僕たちの方に伸ばしてくる。


「うわっ!」


 僕は慌てて双刀のうちの一本を抜いて触手を斬ったが、


「きゃあっ」

「! ひかりっ!」


 いつの間にかひかりが触手にからめ捕られており、触手はしゅるしゅると高速で《ミャウキング》の元へ戻っていく。

 僕は慌てて触手を斬ろうと手を伸ばしたけど、相手の方が早い。僕の剣は宙を斬って、ひかりは《ミャウキング》の元へ引き寄せられる。


「ひかり!」


「ユ、ユウキく~んっ!」


「くそ……ひかり! 今助けるからっ!」


 もう一本の剣を抜き、双刀を構えて戦闘態勢に入る。

 相方をさらわれて、黙っているわけにはいかない!

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