第16話 《幸運の双刀》
翌日。
徐々に慣れてきたバーチャルな学校で普段通りに授業を終えた僕は、グラウンドで部活動をスタートさせていた野球部やサッカー部を横目に校門へ向かっていた。
「な、なんか妙な光景だなぁ」
いや、野球部もサッカー部も定番の部活だし何もおかしいことはないんだけど、ここはファンタジー世界であって、剣を持ったり鎧を着たりする生徒たちばかりの中で、ユニフォームに着替えた選手たちが普通に部活をする姿というのは逆にとても浮いていたのだ。
彼らがユニフォームになっているのは、活動している部が一目で分かるようにするためというのと、どうもLRO内の身体基準で部活をしてしまうと超人になってしまうから、らしい。あのユニフォームを装備している間はリアルと同じ身体能力になるみたいで、つまり力を抑える拘束具的な……って中二か! いやまぁさすがにユニフォームじゃないと気分も乗らないよねきっと。
ともかく、そんな爽やかなスポーツマンたちを尻目に学校を出た僕は、さっそく昨日受けたアリアさんのクエストに取りかかることにして、正門を抜けて南の砂漠フィールドへ向かった。
とにかく暑いフィールドをしばらくうろうろして、とある水辺のポイント近くでキラキラと地面が不自然に光っているのを発見。
近づいてみるとそこには小さな指輪が一つ落ちていて、拾おうとしたらサソリの中ボスモンスター《ゲイル・スコーピオン》が登場して襲われた。が、絶対回避で毒もよけられたので問題なく撃破して街に戻り、僕は早速それをアリアさんの元へと届けた。
「まぁ~ありがとうございます~~~~! こんなに早く届けていただけるなんて、わたし感激です~~~!」
「わわっ! あ、は、はいっ、喜んでもらえてよかったです」
「ユウキさん、ありがとうございます~~~!」
僕に抱きついてくるアリアさん。
まさかNPCに抱きしめられるとは思ってなかったので驚いた僕は、自然と周りにいた生徒に注目されてしまってめっちゃ恥ずかしかった。「おい! あの噂本当なんじゃねーのか!」とか言ってる男子がたくさんいる。
しかもNPCなのにアリアさんの身体は柔らかくて温かくて、なんだよもうそんなところまでリアルにされたらNPCに愛着わきすぎちゃうだろバカ! とか思った。
ともかくそんなわけで無事にクエストをクリアした僕。
するとアリアさんはその指輪をそっと左手の小指にはめて、その手を僕に見せながらニコッと一段と可愛らしく微笑み、言った。
「とても大変だったはずですよね~? うふふふ。これは、大きなお返しをしなくてはならないようですね~」
「え?」
「というわけで、私を貰ってもらえますか~? 結婚いたしましょう~♪」
「…………ええっ!? ちょ、何言って!」
「うふふふ冗談です~。私自身がお礼じゃ、ご迷惑になってしまいますもの~」
「な、なんだ冗談か……」
NPCの冗談に一喜一憂する僕。
くっ、ちょっと一NPCに個性込めすぎだろう! ちょっと喜んじゃったじゃないか!
「それでは、ユウキさんにはわたしの宝物をさずけてしんぜよう~♪」
そこで、なんとNPCであるアリアさんの方から僕に取引申請がなされた。
僕は驚きながらもその取引内容を確認。
するとそこには――《幸運の双刀》なる武器が表示されていた。
「え? アリアさん、これは……」
「どうぞ、お受け取りください~」
「は、はい」
たぶん、クエストの報酬ってことなんだろう。
承認する。武器を手に入れたログが流れた。
その場でインベントリからチェック。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
《
種別:双刀 攻撃:200 重量:10 属性:無
装備補正値:LUK+30 装備制限:ソードマン系 シーフ系 LUK値300以上
備考:かつて東の孤島にのみ存在したと云われる伝説の金属素材・ヒヒイロカネを使って生み出された二本の短刀。非常に軽く、それでいて硬質。錆びることがなく、永遠に輝き続ける名刀。幸運の天使が加護を与えたとされる。
クリティカル攻撃のダメージを二倍にする。
強化値が増すごとにクリティカルダメージが上昇する。
特殊スキル《フォーチュン・ブレッシング》使用可能。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「クリ二倍……!! そ、それにスキルまでっ!?」
その文面に目を見開く僕。
そのまま装備してみて、どんなスキルが使えるようになったのかもチェックした。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
スキル《フォーチュン・ブレッシング》
効果:幸運の天使による祝福で強大な力を授かることが出来る。
ATSP上昇大。クリティカル攻撃率大。DEF減少極大。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「うおっ! ピ、ピーキーなスキルだ」
ATSPはアタックスピード――要は攻撃速度のこと。
クリティカル攻撃率はそのままで、DEFは防御力のことだ。って、DEF0になってんだけど! マ、マジか!
いや……でもこれ、僕にはぴったりのスキルかもしれない。
《幸運の双刀》の装備補正や制限の欄を見ても、この武器がLUKが高いキャラに向けて作られたものだということは明らかだ。LUK値300以上ということは、たぶん相当高レベルな武器だと思う。これ、たぶん本来なら相当後に手に入る武器だよな……。
「お似合いですね~♪ 運の良いユウキさんには、ぴったりだと思いますよ~。良かったら、使ってもらえると嬉しいです~」
「アリアさん……あ、ありがとうございます……」
「いえいえ~。こちらこそ、本当にありがとうございました~♪ またのご利用、心よりお待ちしております~♪」
笑顔のアリアさんと別れて部屋に戻る。
僕はそこで今までのことを思い出した。
LUK上昇バグに遭って、MOMO*さんからお詫びにとこの指輪を貰って。
絶対回避の存在に気づいた。
クリティカル攻撃の強さに驚いた。
宝くじで一等を当ててしまった。
さらにNPCから凄まじい効果の武器を貰って。
「……す、すごいぞ、これ! もうしばらく武器は買わなくてよさそうだ!」
双刀を手に握っていると、早くこれで戦いたいと気持ちが逸っていく。
武器は運良く手に入ったし、あとは防具だけど、そっちは宝くじのお金が大量にあるから何でも買い放題だ。もう怖いものなんてないぞ!
最初はLUKなんて上がって何になるんだと思ってたけど。
次々に得られた恩恵があまりにも大きすぎて、僕は驚きっぱなしでもあったけど、でも同時にものすごくワクワクしてもいた。
LUKさえあればなんでも出来る!
学園で一番の成績になって、LRO内のトッププレイヤーになって!
そんなことだって可能かもしれない。決して夢じゃない!
LROで一番のプレイヤーになれば、卒業後はあの紫鳳院さんの運営会社にスカウトされちゃったり、大盛り上がりのVR業界に進むことだって出来るかもしれないぞ!
「はは……僕、ここでならやれるかもしれない!」
他のプレイヤーたちには明かせない、LUKチートの力。
この力で、僕はLROの中でもっともっと強くなりたいと思うようになっていた!
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