第15話 宝くじ成金

「はーつかれたー!」


 初期配置家具のベッドに飛び込み、仰向けになって身体を休めた。

 寮の部屋は、元々このLROの世界観に合わせて西洋風の作りになっている。けど、家具アイテムを用意したり、街にいる大工のNPCの《リンク値》を上げることで、自由にリフォーム改装が出来るようになっているらしい。

 この情報もシルスくんから教えてもらったもので、実際ちょっと見せてもらったこともあるけど、シルスくんの部屋は畳が敷いてある完全な和室になってるんだよね。この世界観には合わないけど、現実を思い出して和むことが出来る良い部屋だった。


「僕もそのうち改装してみよっかな」

 なんてことをつぶやいていると、どこからかピローンと高い音が響き、視界の端にメール着信のメッセージが出る。


「――ん? 誰だろ?」


 LROにおいて、メールというのは少し特殊な交流手段だ。

 というのも、プレイヤー同士でなら口頭チャットやwisで済ませた方が便利な上に楽だし、そのログだって残るから、わざわざメールで文面を作る必要はないんだ。

 なので、メールを送ってくる相手というのは、大抵運営や先生による生徒全員への通達。それと外界――リアルからのものだ。

 僕たち生徒はLROのテストプレイ中は一切ログアウトすることが出来ないため、何かあったときには、リアルの知り合いと電話やメールで連絡を取り合うことが出来るようになっている。LROの内容について具体的な話はしちゃいけないって決まりはあるんだけどね。


「またアイツか誰かかな?」


 僕の妹は僕の影響でゲーム好きで、僕だけがLROにログイン出来ることをとてもうらやましがっていた。それでLROの内容を聞きたがって連絡してきたりするんだけど、それには答えられないんだよなぁ。

 なんて思いながらタップしてメールを確認。

 

 だけどそれは、予想外の相手だった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 送信者:宝くじ販売者


 件名:当選のお知らせ


 内容:おめでとうございます!

    本日、王都中央公園にて開催致しました宝くじ販売において、厳正なる抽選の結果、『ユウキ』様が見事、一等『100,000,000ラピス』のご当選となりました!

    つきましては、さっそくご当選金を『ユウキ』様の口座にお振り込みさせていただきました。最寄りの《リンク・フェアリー》にてご確認ください。


    あなたにさらなる幸運が訪れますようお祈りいたします!


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「…………え?」


 意味がわからず、数秒ほど固まる僕。


「………………えっ!?」


 それからガバッとベッドから起き上がり、何度もメールを確認。

 確認。

 確認。

 確認。


「……………………えええええええっ!?」


 すぐに部屋を飛び出して寮の外へ。


「ア、アアアアリアさーんっ!」

「こんばんは~、ユウキさん。よい月が出ていますね~♪」


 二十四時間そこに立っている働き者のアリアさんは変わらぬ笑顔で僕に挨拶してくれる。ちょうど周りに人もいなくてよかった。


「あ、そ、そうですね……じゃなくて! あのっ! お、おおおお金っ!」

「ラピスのお預け、もしくはお引きだしですか~?」

「あ、え、えっと、そうじゃなくてそのっ、ぼ、僕のところにお金、届いてませんでしたかっ!?」

「預金のご確認ですね~。え~っと…………はい~、確かにこちらの金額がお振り込みされていますね~」


 アリアさんが手を差し出し、僕の前に預金額のウィンドウが表示される。

 そこには、『宝くじ販売者』から『100,000,000ラピス』が振り込まれたというログと、そして現在の預金額――『100,005,025ラピス』が表示されている。ゼロが多すぎてよくわからないけど、つまり一億ラピス――ネトゲでよく使う単位の100Mが当たったのだ。


「……ま、まじで?」

「まじですよ~♪ やっぱり、ユウキさんは運が良いですね~」


 僕の独り言にニコニコと応えるアリアさん。


「お預けかお引きだし、されますか~?」

「――え? あ、う、うぅん今はいいや、あ、ありがとう。えと、おやすみなさい!」

「はい~おやすみなさい~。またのご利用お待ちしております~」


 手首だけで淑やかに手を振るアリアに見送られ、僕は逃げるように寮の自室へと戻る。

 再びベッドの上に倒れ込み、仮想空間でもしっかりとドキドキしている心臓を抑えながら天井を眺める。



「……当たった」



 当たってしまった。

 宝くじの一等。

 一億ラピス。100Mだ。

 まだまだLROを始めたばかりの僕に――いや、すべての生徒たちにとって、その金額は途方もないものだ。現実でいう一億円くらいの価値はあるかもしれない。

 LRO内ではまだまだ商業的な部分が発展していないとはいえ、いくら金策に走りまくったマーチャントがいたとしても、これほどのラピスを稼ぐにはまだ相当な時間が必要だろう。

 たぶん、このお金があれば現在流通しているアイテムならほとんど何でも手に入るんじゃないだろうか。どんなレア装備も買いたい放題で、一気に装備を整えられる。ト、トッププレイヤーだって狙えるかもしれない!


「……これって、ひょっとして!」


 まさか、という気はしていた。

 1000分の1の確率なら、まぁ普通にリアルラックが良かったから、という可能性も十分あるけど、でも僕は自分のリアルラックをまったく信じていない。

 なにせ、過去にプレイしたどんなMMOでだって、レアアイテムをドロップしたことなんて思い出せる範囲で存在しないし、そもそもLROでだっていきなりLUK強制上昇なんてバグに遭遇したくらいだ。運が良いとはとても言えない。


 ならば。


 もしかすると。



「……これも、LUK999の影響だったりするのか……?」



 左手に装着されたままの白い指輪。

 その可能性は十分にある。

 僕はMMOでの賭け事なんて本当にリアルラックによるものとしか考えてなかったけど……でも、よく考えればこれはあくまでもゲームだ。どれだけリアルでも、プログラムされている世界の中なんだ。

 なら、完全なランダムではなくて、プレイヤーのステータスを参照している可能性だってあるんじゃないのか? この宝くじは、ひょっとしたらLUKが一番高い者が当たるように出来ていたのかもしれないぞ。

 ぜんぶ推論で、もちろん確信しているわけでもないけど……僕みたいな運のないやつにこんなラッキーあるわけない! リアルで駄菓子やアイスのくじすら当たったこともないんだぞ!


「なら、そう考えた方が自然だよな……」


 もしかしたらだけど。

 いや、もしかしなくてもだけど。

 LUK999って、実はめちゃくちゃすごいんじゃないか!?


「や、やばい。今日眠れるかなこれ!」


 さすがに興奮が止まらない。

 100Mだぞ100M!

 とにかくやりたいことは何でも出来るはずだ。どうしよう何しよう何買おうかな!


「へへ、や、やばいニヤニヤが止まらない! と、とにかく一度落ち着こう!」


 僕は少しでも落ち着くためにベッドから降りて、シャワーを浴びるために備え付けの浴室へと向かった――。

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