第11話 《ソードマン》ユウキ誕生

「――おめでとう! これでお前も今日から立派な剣士だな!」


《ソードマンギルド》のギルド長であるおじさんNPCがガハハとやかましく笑う。

 見下ろせば、転職支給品として貰った革の鎧、手袋にブーツ、そして一本のロングソードが自動的に装備されており、そのファンタジーっぽい格好良さにちょっと、いや、かなりテンションが上がっていた! うおー剣士っぽい!

 そんなわけで、僕は《ソードマンギルド》の中でついに転職を成功させた!

 その場にいた同じ《ソードマン》のみんなが僕に声をかけてくれる。


「おめー! よっしゃ! これで全員《ソードマン》になれたな!」

「おめおめ! やっぱ協力してクエこなすと楽だったね!」

「おめでとう! あたし一人じゃ心細かったから、みんなと一緒でよかった~」

「おめっす! とにかく転職も終わったし、せっかくだからこのままパーティ組んでどっか狩り行かないすか? スキルポイントも上げてスキル取ってみたいし!」

「いいな!」「うん!」「そうすっか!」


 ワイワイと盛り上がるみんな。

 転職システムが実装された日からもう数日が経っていた。

あれから僕は街に出て情報を探し、そこで同じように《ソードマン》への転職を目指す人たちと出会って、お互いにクエストを助け合いながら転職クエストを受けることにした。

 その甲斐もあって、今ここにいるメンバーは全員が無事に転職を成功!

 女の子もいたのにはちょっと驚いたけど、女の子の《ソードマン》の初期装備はミニスカート姿だったりして可愛らしい。


「な、ユウキも一緒に来るだろ?」


 そう声をかけてくれたのは、今のメンバーを集めて協力しようと提案してくれたリーダー格の男子だった。きっと学校でもクラスの中心になっている人なんだろう。

 出来れば僕も一緒に行きたい。

 うん、と大きく頷きたかった。

 けど――


「あ、ごめん。実はこれからちょっと学園に帰る用事があってさ。僕のことは気にしないで、みんなだけで行ってきてよ」


 僕の口から出た言葉は、それだった。


「ちぇ、そうなのか。わかった、じゃあまたな!」

「また遊ぼうぜユウキ! 連絡くれよな?」

「ユウキくん、お疲れ様。いつでも連絡してね」

「お疲れっす! また遊びましょうユウキさんっ!」

「うん、ありがとうみんな。お疲れ様。それじゃあまた」


 そうして僕はギルド前でみんなと別れ、背を向けて一人逆の方向へと歩き出す。

 でも、目的地は学園なんかじゃない。


「…………ごめん。本当は、用事なんてないんだ……」


 黙っていればいいことなのに。

 罪悪感からなのか、みんなにはもうとっくに聞こえないことがわかっていても、ついそんなことをつぶやいてしまった。

 一人、王都を歩く。

 正門へ続く大きなメインの中央通りでは、露店スキルを取得した多くの《マーチャント》たちが道の左右で露店を出していて、道具屋で売っている消耗品から、モンスターが落とすドロップアイテム、装備などが売りに出されている。


 そんな通りを抜けて、正門からフィールドへ。

 ひかりと出会った草原フィールドを抜けて、山の方角へ進む。

 山岳フィールドは初期フィールドの中では少し難易度が高く、こちらが攻撃をしなくても向こうから襲ってくる“アクティブタイプ”なモンスターが存在するフィールドだ。

 僕はかなり転職が早いほうだったからなんとかなるだろうけど、ここは初心者にはキツイフィールドだ。というか、転職したてじゃまだまだキツイ。僕の今のレベルは10だけど、たぶん、適正レベルは20くらいだろう。

 そのため、他の生徒たちはまったくいないんだけど……それは僕に都合が良かった。


「……よし」


 腰元から初心者用の《ロングソード》を抜き、山岳フィールドを歩き出す。見た目は重厚だけど、意外と軽くて扱いやすい武器だ。LROは装備にそれぞれ設定されている重量が実際感じる重さになるから、見た目はものすごい重そうなものでも割と軽かったりする。自身のSTRと武器重量の関係によっても運用が変わってくるので、武器選びもなかなか奥が深い。


 ほどなくして、少し大きな蜂の姿をしたモンスター――《キラービー》が僕の存在に気づいて素早く飛んでくる。

 あいつこそアクティブのモンスターだ。


 ――ブブブブブッ!


《キラービー》はやかましい羽音を立てて突撃してくるが、その攻撃はMISS表示。

 続けてお尻の針を尖らせ、ツンツンと連続で僕を突いてくる。

 当たらない。

 当たらない

 当たらない。

 何度やられても、僕に攻撃が当たることはなかった。

 たとえ棒立ちになっていようが――


 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!

 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!

 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!

 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!

 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!


 反撃もせず、ただぼうっとそこに突っ立っているだけなのに。

 レベルもまだ転職したての10なのに。

《キラービー》は僕よりも高いレベル22なのに。

 装備なんか転職したてのままの軽装で、武器は初心者用ロングソードだ。

 特別何かのスキルを使ってるわけでもない。ていうかまだ《ソードマン》のスキルは一つも持っていない。


 なのに。


 たったの一撃すらも。《キラービー》の攻撃は僕に当たらない。


「……うーん。やっぱりそうだよな」


《キラービー》を無視して『リンク・メニュー』からステータスウィンドウを開く。

 そこでは《ソードマン》となった僕の外見と装備、そして各種ステータス値が表示されている。


 LUK:999


 今僕が身に着けている特殊アクセサリー――《守護天使の指輪(L+)》

 その効果で、僕のLUKは常に999となっている。

 それが、みんなからの誘いを断った理由だった。

 みんなと一緒に転職クエストをこなす中で気づいてしまったのだ。

 このLUK999が持ついくつかの効果に。

 その一つが、これ。


 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!

 MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!


 敵の攻撃が、一切当たらなくなっていた。


「さすがにこんなの見せられないもんな……」


 これが間違いなくLUKの効果であることは、この難易度のフィールドで証明されている。

 よっぽどレベル差のある格下のモンスター相手なら、たとえこちらのLUKが1だったとしても多くの攻撃は回避出来るだろうし、俊敏のステータスであるAGIが高ければなおさらだ。

 でも、これはそんな程度の話じゃない。

 格上のモンスターを相手にしても攻撃が一切当たらないなんて、完全なるチートである。

 そして、それが通常の『回避行動』ではないことも僕は検証でわかっていた。

 というのも、普通、モンスターの攻撃を回避出来たときは黒字で『MISS!』の表示がされるが、今、僕の周囲に出まくっているのは赤字の『MISS!!』表示だ。

 エクスクラメーションマークが一つ多いし、字の色と大きさが違う。

 そしてたったの一撃も攻撃が当たらないことから、僕はこの回避が通常とは違うもの――とりあえず『絶対回避』という呼び方をすることにしていた。


「さて……じゃあ次はっ!」


 僕はロングソードを強く握りしめ、目の前で攻撃が当たらずに焦る《キラービー》を両断。


『キュウウゥッ!』


 すると大きな赤字で『520!!』のダメージが出て、《キラービー》は一撃でひゅるると落下して消えてしまった。《蜂針》というアイテムがドロップ。

 そのタイミングで、近くをうろうろしていた他の《キラービー》たちが僕の存在に気づき、二匹は羽を震わせて勢いよく飛んできた。

 でも僕は逃げない。逃げる必要がまったくない。


「――よし。レベリングがてら、もっと検証してみよう」

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