第12話 《LUK》の力
二体の《キラービー》に挟まれたまま、しばらく何もせず様子見をしてみる僕。羽音がめっちゃうるさい
けど、やっぱりただの一度も僕にダメージが当たることはなかった。
「これだけやって一度も当たらないってことは、やっぱり通常の確率回避じゃない可能性が高いよな。となると、まず間違いなく僕のLUK値を参照した何かが起きてるんだ」
僕はそれを“絶対回避”と名付けておいたわけだけど、どうやら本当に100%の回避が出来てしまっているらしい。もはや完全にチートじゃんこれ。
たぶん、こんな早さでLUKが999になるやつがいるなんて運営側も思ってなかっただろうから、僕みたいなイレギュラーは想定してなかったんだろう。
「こ、これ本当に受け取っちゃってよかったのかな。MOMO*さんにまた会えればいいんだけど……」
綺麗な装飾の指輪を眺めて思う。
そして先ほどの二倍の速度で絶対回避の『MISS!!』表示が出る中、僕は再びロングソードで二匹の《キラービー》を叩いておいた。
『532!!』
『519!!』
二つのダメージが順番に表示され、《キラービー》たちは倒れた。ドロップはない。
「それにこのダメージ……全部がクリティカルになるなんて明らかにおかしいもんな」
絶対回避に続くLUK999の恩恵、その2。
そう。すべての攻撃がクリティカル攻撃に変化してしまったのだ。
手元を見つめる。初心者用のロングソードにそんな効果はもちろんないだろう。 おそらく、これもLUKの影響によるものだ。
何度試してみても、近くのどのフィールドに行ってみても、どんなダンジョンの敵を叩いてみても、ダメージの違いこそあれ、すべて大きな赤字でのクリティカルダメージが出る。
「これもLUKの力なのか……」
自分のステータスを見てみる。
力や筋力を表すSTRは1だ。もちろん攻撃力は低い。
バイタリティを表すVITは1だ。ゆえに防御力も低い。HPだって低い。
器用さを表すDEXは1だ。だから命中率だって低いはずなんだ。
知力を表すINTも1だ。これはまぁ、剣士にはあまり影響はないだろう。
でもそんなの全部関係がない。
だってLUKさえあれば必中攻撃のクリティカルが必ず出るし、どんなに紙装甲でHPが低くても絶対回避で全部攻撃をかわせるんだから。
《ソードマン》に転職するまではなんとかごまかせてたけど、これからもみんなと一緒にパーティプレイをしていたら、いずれ絶対に僕の様子がおかしいことに気づかれる。
そうなれば、いずれこの指輪の秘密もバレるかもしれない。
だから僕は、みんなと一緒に遊ぶことを遠慮したんだ。
つーかこれ!
「あまりにも強すぎだろーーーーーーーーーーーーっ!!」
他に誰もいないフィールドで思わず叫んじゃう僕。なんかスッキリした!
「いや、正直言って楽しいよ!? だってめっちゃ強いもん僕! 完全に敵なしじゃん! 最強じゃん! 上級狩り場行きまくりじゃん! あー! なんかそう思ったら何でも出来そうな気がしてきた!」
誰もいないのを良いことにあれこれぶちまける僕。
もちろんチートの力を自分だけが持っている罪悪感はあった。
でも、クリティカル攻撃や絶対回避の強さを目の当たりにすると、思わずテンションが上がってきて興奮してしまう。
この力さえあれば!
この世界でなら!
僕は、運の良さだけでどうにでも成り上がれるのかもしれない!
「よし……よしよしよしやってやんよ! こうなったら今日はどこまでの敵相手に戦えるのか試してやるっ!
そんでついでにレベルも上げてスキルポイントゲットしとくか! はーっはっはっは!」
うおーますますテンション上がってきたあああああ!
最強剣士ユウキの伝説はここから始まるんだああああああああああ!!
*****NOW LOADING*****
――で。
最強剣士(笑)は割とすぐ死にました。
「……ぐふ」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
▽ユウキさんが死亡しました。
▽デスペナルティによって、経験値と各『リンク・ポイント』が下降します。
▽セーブポイントへ帰還しますか? [yes] [no]
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「くそ……何が最強剣士だよ! 思いっきりやられてんじゃんか僕!」
調子に乗った僕が倒れたのは、王都からだいぶ離れた海辺のフィールド。そこに打ち上げられていた難破船の中の上級ダンジョンだった。
そこは海獣モンスターたちによって支配されていて、雑魚mobはあまり怖くはなかったんだけど、ガイコツ船長の姿をしているボス――《キャプテン・ジョー》はこちらと距離を取って強力な水属性の呪文を連発してくるタイプで、僕は為す術もなくそれにやられてしまったわけだ。
でも、そのおかげでまたLUKの検証が進んだ。
「うーむ……なるほどなぁ。たぶん、魔法攻撃に対しては絶対回避は発動しないのか……」
難破船の床にぶっ倒れたままの僕は、ボロボロのソファーに腰掛けてパイプタバコをふかせて笑うボスを眺め、負けた理由を考察していた。
あいつは最初はそこまで威力の高くない呪文を使ってきて、そんなもん当たらないんじゃー! と余裕ぶっこいてた僕はいきなりその呪文が全HITしたことで慌てて持っていた回復材を使いまくった。
でも連続HITは止まらなくて、それが終わった瞬間、トドメとばかりに超強力な全体呪文によって恐ろしいほどのダメージを受け、こうしてみじめに突っ伏すことになってしまったのだ。
「さすがにボスは無理か……いや、でも呪文を使わないタイプもいるだろうから、そういうやつなら狩れるんじゃないかな……そういうボスのレア狙いもアリかも……」
いくらLUKチートがあると言っても、さすがにこのボスはレベル10の僕一人じゃ無理な相手みたいだ。いや、さっき何度か上がったから今はレベル13だった。まぁ同じことだけどさ。なにせ《キャプテン・ジョー》のレベルは73って出てるし。
「とりあえず帰るかぁ」
何はともあれ、アドレナリンによって伸びかけていた天狗の鼻っ柱を綺麗に叩き折られた僕は冷静になり、あいつのおかげでまたひとつ貴重な検証をすることが出来た。
「おいこら! いつかまた来てぶっ倒してやるからな! じゃあな!」
寝っ転がったままそう叫ぶ僕に、ボスはゲラゲラ笑ってパイプを振る。
ちくしょー感情豊かなAIのおかげで余計腹立つわ!
そうして胸の内で熱い再戦を誓いながら、僕は目の前のウィンドウに表示されたままの[yes]のボタンをタップをする。
すると僕の身体は粒子となって、セーブ地点の王都へと強制転送された――。
*****NOW LOADING*****
「はぁ~……いや、すごい衝撃だったな……」
街に戻ってきた僕は、メインの中央通りを抜けて緑溢れる中央公園に入り、石のベンチに腰掛けて軽く肩を回した。
それから目を閉じて思い出す。
さっき戦ってたときまではアドレナリンでも出て興奮していたからだろうけど、今考えてみるとさっきの戦いはすごかった。
あのガイコツ船長のリアルすぎる迫力もそうだし、あいつの水属性の魔法は天変地異でも起きたのかってくらい激しく渦巻いて僕を襲ってきた。そもそも難破船の中のあの湿気や息苦しさ、古くさい臭いといい、完全に現実にしか思えなかった。
改めて、VRMMOの凄さを実感する毎日だ。
「……ははっ! よし、いつか絶対あいつにリベンジしてやる!」
最初は敵わなかった相手に、レベルを上げてステとスキルを振り、耐性のある装備を調え、万全な状態で再戦に向かう。そんなボス狩りもまた、MMORPGの大きな醍醐味の一つだ。それがVRになっただけで、過去のゲームのどんなボスと戦うよりもテンションが上がっていく。
「でも今は敵わないから、とりあえずもっとLUKの検証を――」
と、そう思ったところで僕は気づく。
「おーいあっちあっち! 早く行こうぜ!」
「待てよー!」
二人の男子生徒が駆け足で僕の前を通り過ぎ、どこかへと向かっていく。
それだけじゃない。よくよく周りを見れば、男女問わず大勢の生徒たちが何やらどこかへ集まっていっていた。
「……何かイベントでもあるのかな?」
運営や学園側からはそんなお知らせメールは届いてなかったけど……。
ともかく気になった僕は、みんなの後を追いかけてみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます