第10話 転職システム実装

 LROで一番の運を手に入れてから一晩が経ち。


 翌日の学園では、初めての座学授業が行われた。

 と言ってもそれは午前だけで、午後は体育がてらLROでの身体の動きを教わったり、部活動についての説明があった。それで今日の授業はおしまい。

 LROの学園は当然ながら全寮制で、寮は校舎に併設されてるから朝も帰りもすごく楽だし、服装も自由だからか、あんまり学校に通うっていう感覚はなかった。

 五万人を収容するために教室もやたら多いため、昇降口からは転送ゲートに《リンク・リング》をかざすことで自分の所属教室へ簡単にワープ出来る。


「――はーい、それじゃあ今日のホームルームは以上かな。部活動をしたい人は、各自で私宛に申請メールを出しておいてくださいね。全校で集計して、要望の多い部活はすぐに設立出来るかなと思います」


 リサ先生が一日の終わりを告げ、みんな慌ただしく帰り支度を――と言っても勉強道具をインベントリにしまうだけなんだけど――を済ませていく。

 今日は初めての授業だったけど、本当に不思議な空間だった。

 なにせ教室の窓外には西洋風の街並みが広がっているし、みんな早速剣やら盾やらと装備品を持ってきていたりして、なのに全員が座って普通に授業を受けているというのは、なんともおかしな風景だったんだ。

 でも、そんな世界にもあっという間に慣れていくんだろうな。


「部活かぁ……でも、今はそれどころじゃないよな……」


 独り言をつぶやく僕。

 昨日の今日だから、僕は一日中ずっとこのLUKをどう活かすかの方法を考えていた。正直授業もあんまり聞けなかったし、部活なんて考えてる余裕はない。

 たぶん、他のMMOでLUKが影響していた事もLROで多く影響するはずだ。

 なら戦闘から始めるのが手っ取り早いだろう。もしやられてしまっても、今なら溜まってる《LP》も少ないし、経験値だってたいしたことない。死亡したときに失われるデスペナルティ――いわゆるデスペナも怖くないはずだ。


「そうそう、それから運営さんたちから大事なお知らせがあるかな。あとでみんなのところにも運営さんからちゃんとメール連絡が来ると思うけど、今日の放課後……まさに今からですけど、転職システムが解禁されたとのことです!」


 生徒たちが「おおお!」と声を上げ、僕の顔も自然と上がっていた。


「転職システムについて、詳しくはパンフレットが更新されていますから、そちらでチェックしておいてほしいかな。転職するためのクエストは特別なもので、学内の掲示版から受けることは出来ません。どこで、どんな条件でクエストを受けられるのかも、みんなで探してみてください」


 ――転職システムかぁ……。

 すっかり忘れてたけど、それもMMORPGにおいて重要な要素だ。

 ステータスはもちろんだけど、どんな職業ジョブを選ぶかによってその後のプレイスタイル、成長のさせ方などなど、すべてが左右される。

 LUKをメインに扱う職業なら、やっぱり生産系がいいのかな? いや、でもLUKの使い途もまだ不明だし、ずっと戦闘職ばっかりやってきたしなぁ……特に剣を使える剣士タイプが好きだし……。


「それから、どこでどんな職業になれるのかとか、どんな職業が何に有利で何に不利なのかとか、どんなステータスにしてどんなスキルを取ればいいのかとか、先生たちはそういう質問には一切答えられません! なぜなら、LROはあくまでも生徒のみんながすべてを作り上げていく世界だからかな。街には情報をくれるNPCもたくさんいるし、みんなも積極的に他の生徒たちと触れ合って、情報を得ていくようにしてください。はい、今日は以上かな! それじゃあまた明日も学園でね。遅刻もLP減るからねー!」


 そうして今日の学園生活が終わりを告げ、自由な放課後がやってくる。

 当然だけど、みんな真っ先にパンフレットをチェックし始めたり、または何かの情報を求めて教室を飛び出したり、部活の申請を始めたり、「まだ転職はいいかなぁ」と学園クエストをこなすために掲示版へ向かったりと、それぞれだ。

 僕も、まずはパンフレットで転職システムについてチェック。


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●転職システム

 各街やフィールドには、各職業の組合――ギルドが存在します。例えば、王都では一次職:ソードマンに転職するためのギルドがあります。

《ステューデント》から各一次職へ転職するためには、ある一定までレベルを上げた後、それぞれのギルドで転職クエストを受ける必要があります。

 なお、一度転職すると元の職業に戻ることは出来ません。

 また、それぞれの一次職から別の一次職に転職することは出来ませんが、さらなる上位二次職へと転職することが可能になります。各一次職から各二次職への転職制限は一切ありません。ただし、各職業への転職に必要な条件を満たしていなければなりません。

(例:ソードマンがメイジに転職することは出来ません。しかし、ソードマンがウィザードに転職することは可能です。ただし、ウィザードに転職するための条件を満たすためには一次職でメイジを選ぶことを推奨します。また、一次職で得たスキル等は使用不可も含めてすべて引き継がれます)


 現在実装されている第一次職業、および第二次職業は以下の通りです。

▼一次職業

・《ソードマン》

 (前衛での戦いを得意とし、刀剣類や槍など、多彩な装備が存在します)

・《シーフ》

 (前衛での戦いを得意とし、テクニカルな技術と動きで相手を翻弄します。)

・《メイジ》

 (後衛での戦いを得意とし、威力の高い攻撃呪文が多く存在します)

・《クレリック》

 (後衛での戦いを得意とし、サポートの回復呪文などが多く存在します)

・《アーチャー》

 (中・後衛での戦いを得意とし、弓矢や罠を用いて臨機応変に動けます)

・《マーチャント》

 (戦いはあまり得意ではありませんが、商売・生産に向いた職業です。唯一『露店販売』をすることが出来る職業です)


▼二次職業

・《ブレイドマスター》

 (あらゆる刀剣類の扱いを得意とする戦闘特化タイプの職業です)

・《パラディン》

 (強力な重量装備が可能なタフさを持ち、聖属性呪文も扱うことが出来ます)

・《アサシン》

 (素早く機敏な隠密行動が得意で、一撃必殺が可能な強力なスキルを持ちます)

・《ストライダー》

 (単独行動が得意な一匹狼で、銃を用いて遠距離攻撃が可能です)

・《ウィザード》

 (メイジからさらに進化し、圧倒的な魔力で敵を殲滅することに長けた術士です)

・《サモンエレメンタラー》

 (属性呪文による仲間のサポートを行ったり、属性召喚獣を呼び出すことが出来ます)

・《プリースト》

 (仲間を守り、癒やし、救うことが得意な支援向けのサポート職です)

・《モンク》

 (神の祝福を受けた肉体で穢れた者を浄化する格闘タイプの職業で、呪文も扱えます)

・《ハンター》

 (アーチャーよりさらに弓矢と罠の扱いに長け、かつ、動物と心を通わせる力を持ちます)

・《ダンサー》

 (魅惑的な踊りで敵味方を問わず魅了し、仲間のサポートや敵の妨害が得意な職業です)

・《エンチャンター》

 (装備品の取り扱いに詳しく、それらの製造・強化・修理を得意とします)

・《アルケミスト》

 (アイテムや薬品の取り扱いに詳しく、それらの製造・改良・使用も得意とします)


 ※二次職業へ転職可能な条件等は明かされておりません。皆さんで探してください。

  三次職以降については実装予定ですが、現状は未定です。


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「へぇ~。どの一次職からでも好きな二次職になれるのっていうのは珍しいな! やっぱり自由がテーマなゲームだからかな。でもそうなると、ソードマンをやっておいて、二次職は《エンチャンター》みたいな生産系になるってことも可能なのか。おお、楽しそう!

 にしてもその一次職は六つだけか……。最初なら妥当なのかな」


 今までプレイしてきたMMORPGだと、一次職といっても十や二十くらい職業が存在しているゲームもあった。

 選択肢が多いとそれだけプレイスタイルの幅は広がるし、いろんな遊び方が出来て楽しいと思うけど、それは長い間運営されていたゲームの話であって、LROはまったく別だ。

 始まったばかりのゲームで大量の選択肢があっても、全員が初心者な状態では検証も何もあったもんじゃない。だからあえてトリッキーな職業は外して、ある程度プレイスタイルの想像が出来る基本的な一次ジョブだけを残したんだろう。

 じゃないと、先人の情報待ちで自分は何もしないという生徒が増えるだろうし。まぁ、それもプレイスタイルの一つなんだけどね。


「よし……やっぱ一次は《ソードマン》になるか!」


 転職が出来ると聞いてはやるしかなかろう! 

 レベル制のMMORPGにおいて転職はメインイベントの一つだし、転職のためにレベルを上げるのが基本中の基本だ。

 生産の道を目指すなら一次職は《マーチャント》になるのがベストだろうけど、でもやっぱり僕は前衛の戦闘職がやりたい。

 もしLUK上昇バグがあのままだったら、さすがにいきなり転職するのは躊躇われただろうけど、いずれは僕のバグも修正してもらえるんだし、そのときまで期間限定で『LUK999の剣士』として遊んでみるのも悪くはないだろう。

 何より――《ステューデント》のままよりは《ソードマン》になった方が、戦闘でのLUK検証がしやすいはずだ。


「そうだよな……LROで生きる以上、このLUKで何が出来るか知っておかないと……!」


 そのためにも、まずは転職で地力を上げておきたい。


 そんなわけで、僕はさっそく街で情報を得るために席を立った。



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