ペンギン

タニマリ

ペンギン


今日もいた───────



ペンギン。



いつもの時間、いつもの電車にあの子はいる。

ペンギンを背負った彼女。



ペンギンったって本物じゃないぞ?

え、そんなのわかってるって?

ペンギンの鞄だろって?


そう、ペンギンの鞄を背負った彼女だ。



でもペンギン柄の鞄とか、ペンギンのマスコットが付いてる鞄とかって普通思うだろ?

違うんだ……

ペンギンなんだ。

まるまるペンギンなんだよ。



言い方を変えよう

僕が毎日見る彼女は……


ペンギンのぬいぐるみの鞄を背負った彼女


なんだ。




最初見た時はド肝を抜かれた。


小さい子ならまだしも、その子は女子高生なんだぜ?

実にどうどうと背負ってるんだ。


髪を変な色に染めてるとか、スカートがやたら短いとかじゃない。

ペンギン以外はごくごく普通の子だった。



毎日ペンギンを見かけるから気になってきた。

毎日俺はペンギンに話しかけた。



ペンギン、おはよっ。


ペンギン、ちょっと顔すすけて来たな。


ペンギン、脇腹がほころんでるぞ。



もちろん心の中でだぞ?

声に出して鞄に話しかけるサラリーマンなんて、きしょい以外の何者でもない。


ペンギンに会うのは、毎日のささやかな楽しみになっていた。




よっ、ペンギン、今日も会ったな。











ある日電車から降りて家への帰り道を歩いていた時、ペンギンに出会った。


おっ、ペンギン、こんな時間に会うのは初めてだな。


ペンギンは道端で立ち止まり、スマホをいじっていた。

いや、ペンギンじゃない、ペンギンを背負った彼女が、だ。



女子高生だからな。

彼氏とやり取りでもしてるのかな……


彼女はスマホで写真を撮っているようだった。



それは




とても綺麗な夕焼けの写真だった─────






いつも下ばっかり見て歩いてる俺には全然気付けなかった。

この道から見える夕焼けってこんなに綺麗なんだ……



何枚か写真を撮り満足気に微笑むと、彼女は去っていった。





─────パチリ。



俺もスマホを取り出し写真を撮った。


あれ…これちょっとストーカーっぽい?

違うよな、夕焼け撮っただけだし。

夕焼けはみんなのものだし……












ペンギンがいない……



昨日も一昨日もいなかった。


何かあったんだろうか?

学校自体が休みなのかな……学校どこだろ。

そもそも俺は彼女のことを何も知らない。


ペンギンの印象が強すぎて、ペンギン以外は何も見ていなかったことに今気付いた。



俺はペンギンの何を見ていたんだろう……




毎日話しかけていたペンギン。


つぶらな瞳だった。


いっちょ前に黄色の蝶ネクタイを付けていた。


体のわりに足がちょこっとしかなくて……





会いたい、会いたいよペンギン…………












ベンギンきた──────っ!!




そこには綺麗になったペンギンがいた。




そっか、お前洗われていたのか。


顔真っ白になったな。


お腹のほころびも縫ってもらったんだな……


綺麗になって良かった…本当に良かったな。




わかってる。今の俺は変だ。

だって泣きそうになってるもん。


娘の結婚式で花嫁姿を見た親父の心境だ。



いや、わかってるって。俺が変なのわっ!




目が会ってしまった。

ペンギン、じゃなくて彼女と……


あれ、俺の変さだだ漏れだったのかな。

ど、どうしよう……




「ぺ、ペンギン好きなの?」



彼女の視線に耐えきれず話しかけてしまった。

目の大きな子だ。

唇がぽてっとしている。


「タコが好きです。」


なぜだっ?!

じゃあなぜペンギンを背負っている!!



はははっと曖昧な返しをしてその場は終わった。


突然変なサラリーマンから話しかけられたのに答えてくれたんだ。

きっといい子なんだろう。










今日も俺は心の中で話しかける。


おはよっ。



ペンギンを背負った、彼女に─────……










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ペンギン タニマリ @mari5063

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