第39話 死よりも重い罰 上

 …このままではまずい…このままでは…呪いにかけられてしまう…このままでは…。


 「あぁ…しゃく…」

 「んじゃ…!有罪!」

 指をさすアルベルトの指し示す方向を『アバァ』は見ると、イィ・ドゥが大きく目を見開いてアルベルトを見ていた。


 …へへへへへ…考えて見れば、わたしが命令を下した…、なんてことはわからない、実際のところ……。


 「お前もだ…クソカエル」

 頭上から言葉が聞こえ、…へ?…と見上げる『アバァ』。

 「でも…さ…」

 「あぁ?お前、なにか勘違いしてねぇ~か?俺は、どちらかを助けてやると言った…助けるんだ…その助けの解釈は…」

 『アバァ』が矢が刺さっている肩を庇っている手を握った。


 「え?」

 目を見開いて、握られている腕を見てから、アルベルトの手を見て…、腕…そして、表情へと視線を移すと、冷ややかな視線で『アバァ』を見ているアルベルトがいた。


 「…な…なにを…」

 「あぁ…これで、お前も仲間だ…残念だがな…、実際、この手で触れられなきゃ、移らねぇ…」

 手を離して、インシュアの手前に落ちていた短剣に近づき、『アバァ』を見る。


 『アバァ』はいまだに大きく目を見開いてアルベルトを見ていた。

 その『アバァ』を見ながら小さく舌打ちをし、短剣を拾い上げると、先ほどまで灰色で瘡蓋みたいになっていた皮膚が、指先からみるみるうちに治って行き、時間をかけずに元の肌になった。


 「クソカエル…この状況では、移らない…」と腕を上げて見せた。

 その腕を見た『アバァ』は一層大きく目を見開き、そして、掴まれた腕へと視線を移すと、そこには…、小さくだが、確かに、ヒビ…みたいなモノが現れている。

 黒い筋状のモノが…。

 四方八方へと小さく走っているのが確認できた。


 「どのくらいの時間で広がるかは、十人十色のようだが…」と近くに吊るされてある紐を掴むと、『アバァ』へと進み、庇っていた手を無理やり離させると、もう片っ方の手を取って後ろ手にして、その手を縛り上げた。

 その際に、ヒビみたいなのが目に入る。

 「ほぅ…、お前は進行が早そうだな…」と再び見下ろした。


 「…なるほど…そう言う事だったのか」

 感心した声を上げているクラウト。


 …そう言えば、『アバァ』には、死よりも重い罰を与える…と言っていた…、これがそうなのか…。

 これは…なった事は無いが、多分キツイ事である。

 進行する石化、その石化は全身まで行くと、精神まで破綻させる病…そして、呪いなのだ…。


 アサトは、小さく息を吐き出し、再びアルベルトを見た。

 アルベルトは犬のイィ・ドゥを今度は冷ややかな視線で見下ろしていた。

 「…お前は…生かしておいてやる…」

 その言葉に安堵の表情を浮べたイィ・ドゥ…だが、「…生かしておいてやる代わりに、お前は伝道師になれ」

 膝を折って、イィ・ドゥの目線に、自分の目線を持ってきたアルベルト。


 「伝道師?」

 「あぁ…意味は分かるよな?」

 「あ…はい…」と小さく頷くイィ・ドゥ。


 「なら、お前はこれから、山脈を越えて北に行き、王都に行って、こう話せ…」と目を鋭くしたアルベルト、その表情に生唾を飲むイィ・ドゥ。

 「…『ルヘルム地方』は、マモノが統治している…石のマモノ…。そして…魔女がその主だ…。この地を統治している魔女を怒らせると…石にされる…。『アバァ』も石にされた…とな」とアルベルト。

 「でも…それじゃ…」

 低い声でポドリアンがアルベルトに視線を向けた。

 「あぁ…そうだな…。『アバァ』が殺された事を知ってしまうな…クソ眼鏡。これはお前が得意だろう」

 クラウトはメガネのブリッジを上げてイィ・ドゥを見下ろし、イィ・ドゥもクラウトを見た。


 「そうだな、お前は、『アバァ』は知らない。でいいのではないか?『アバァ』は知っている者は多いと思うが、こいつを知っている者はいない。」

 メガネのブリッジを上げると、続けた。

 「だが…幻獣…リベルを討伐したモノにもあったと伝えろ。…そのモノは、この地に舞い降りた救世主…、幻獣がいなくなった今は…奴隷狩りをしている者を狩っている…とな、これで、この地方での奴隷狩りが無くなるとは言えないと思うが、これ以上、色々言った所で、私たちの存在を嗅ぎつかれる事になると思う。彼には、『アバァ』との接点が無く、幻獣を討伐した者が、次の標的を、奴隷狩りに来ている者であるとだけつたえさせればいい。」

 クラウトの言葉にアルベルトは、目を閉じて考え、目を開けると小さく頷いた。


 「え?幻獣…リベルが討伐された話は本当なのか?」と訊くくイィ・ドゥ。

 「あぁ…そうだ、それに、お前らが見た巨大なオークは…『オークプリンス』だ、今は、召喚石の中で生きていて、俺たちの味方になっている」

 アルベルトの言葉に、再び目を見開くイィ・ドゥ。


 「…なら…」と言葉を発しながら項垂れ、「…やっぱり…『オークプリンス』は召喚石の持ち主だったんだ…、俺たちがやられてもしょうがない…幻獣や『オークプリンス』を討伐する者らに狙われたなら…」とか細く言葉にした。

 「まぁ…そう言う事だな」


 アサトは目を見開いて、驚いた表情を収めることが出来ていなかった。

 決して、『オークプリンス』を討伐した訳じゃないし、『リベル』も結果的に消えた…討伐した…ような感じになった訳で………。


 クラウトはゆっくりイィ・ドゥに近づき、おでこにロッドの先を付けてなにやら呪文を唱えると、おでこに円が3重に描かれ、その一番内側の円の中に五芒星が映し出された。


 「…な…」とイィ・ドゥ。

 「今のは、ルーンだ。君に救いの手とノルマを与える…」とクラウトはメガネのブリッジを上げた。

 「幻獣を討伐した者が、次の標的を、奴隷狩りに来ている者にしている、という話しを、毎日、10人以上に話さなければ、君の額に刻んだルーン…五芒星の形をしたものにしたが、それが弾けて、そこに穴があく…一応、3日の猶予を持たせてある…。一日話さなかったら、○を五芒星が一つ壊す…2日話さなかったら、もう一つを壊し…3日話さなかったら…3つ目…それを壊すと共に…君は死ぬ…、そして、もし君が危ない時…命が脅かされそうになった時は、その額から光があふれ出し、君自体が逃げる時間が出来る…まぁ、戦ってもいいが…これが救いの手だ」と重く言葉にした。


 「…ルーンって…」とイィ・ドゥ。

 「よかったな、ルーン持ちは貴重だ…奴隷狩りに合わないように、今の話しを広めて歩け…嘘でも何でも付け加えて構わないが…俺たちの事は言うな、そして…今日の出来事もだ…。いいか?わかったか?」

 アルベルトの言葉に小さく何度も頷いて見せた。

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