第38話 卒業試験の終了のあと… 下

 「い…生かして…くれるのか?」

 目を見開いて『アバァ』が訊くと、その問いに目を閉じて頷くアルベルト。

 「そうか…そうか…」

 その行動に胸を撫でおろす『アバァ』。

 ポドリアンはインシュアの座っているベッドへと進み、腰を降ろして状況を見ている。


 「…お前は…やっぱり、話の…」

 「あぁ?おまえ…勘違いするな」

 閉じていた目を開けると、冷ややかな視線で『アバァ』を捉えた。


 「勘違いって…」

 「あぁ、俺は、ただ、お前を生かすと言っただけだ、解放するとは言っていない」と立ち上がった。

 「な…じゃ…どうするんだ?」と目を見開く『アバァ』

 アルベルトの言葉にアサトも目を見開いていた。


 …アルさんは、何をしようと…。

 そう言えば、この卒業試験をする前に『アバァ』は確保、そして、死よりも重い罰を与える…って言っていたけど…それは……?


 アルベルトは、腰にあった短剣を抜くと、ポドリアンの前に頬り投げた。

 その短剣を見たポドリアンは目を閉じて頷く、クラウトは、しっかりとした視線でアルベルトを見てからメガネのブリッジを上げた。

 アサトは…。


 …アルさん…それを手放したら…。


 アルベルトは、上着を脱ぎ始めた。

 外套を脱ぎ、シャツを脱ぐと…上半身を『アバァ』らの前にさらけ出した。

 その体を見たロマジニアは目を見開き、インシュアは立ち上がった。

 『アバァ』と犬のイィ・ドゥは目と口を大きく広げて、何かを言おうとしていたが、言葉が出ないようで、あああああとしか発していないようである。


 「アルさん!」とアサト。

 「あぁ…お前は黙っていろ」

 アルベルトの言葉に声を詰まらせたアサトは、アルベルトが考えている罰が分かった。


 …それは…。


 「それは…石化の呪い…ヴェラリアの呪い…」と『アバァ』が言葉にする。

 「アル…お前!」とインシュアがアルベルトに声をかけた。


 「あぁ…兄弟子のあんたには、知っていてほしかった。」

 インシュアは、アルベルトをみると目を閉じ、大きく息を吸い込み…そして、ゆっくり吐き出して、気持ちの整理をつけていた。

 「おまえの言う通り…おれは、ヴェラリアの呪いにかかっている」

 右手全体、肩辺りまで灰色の皮膚をしている腕を、『アバァ』へと見せた。


 その皮膚は瘡蓋のようであり、腕全体が灰色の瘡蓋で覆われているようであった。

 一つ一つの塊が大なり小なりになっていて、その割れ目からは、赤白い肉の色が見え、ところどころはがれそうに…いや、一つ一つの瘡蓋状の皮膚の端が小さく捲れ上っている腕がそこにあった。


 「俺の言いたい事がわかるよな…クソカエル!」

 冷ややかな視線を『アバァ』にむけると、『アバァ』は生唾を飲み込み、小さく何度も頷いた。

 「ならいい…」

 「その呪いを…俺にもかけるのか?」

 「あぁ?そうだな…残念だが、俺は、呪術師ではない…」とソファーへと腰を降ろした。


 「じゃ…」

 『アバァ』は、小さく胸を撫でおろした表情を浮べる。

 「あぁ…呪いはかけないが…、は出来る」と前のめりになったアルベルト。

 「移すって…」

 「おまえもこの呪いの事を少しは知っているんだろう?この皮膚に触れたら…、いや、この指で触られたら…」と石化した腕を立てて見せ、「どうなるかを…」

 アルベルトの視線に生唾を飲む『アバァ』


 「まぁ…、移されたくないのなら、俺たちの質問にちゃんと答えろ…」

 アルベルトの言葉に頷く『アバァ』。

 その行動を見るとソファーに背中を預け、顎をあげて『アバァ』を見下ろした。


 「なんでも…知っている事なら…」

 「あぁ…なら、まずは、お前の雇い主は?」

 「それは…」

 「あぁ?答えられないのか?…別に俺はどうでもいい、この手で、お前を掴めばそれでいいんだ…」と見下ろすアルベルト。


 引きつった顔を見せた『アバァ』は再び生唾を飲む。

 「…高官の使用人ですが…、実は、中間がありまして…」

 「中間?」

 「ハイ…、直接、高官の方とはお会いになったことは無く、その…高官の秘書?か…、執事…みたいな方に…」

 「…なんだ、回りくどいな…、中間でも何でもいい、お前にこの依頼をしたモノの名前を言え」と眉間に皺を寄せて睨むアルベルト。


 「あ…あ…、…『ドミニク・レファレス』殿です…」

 「『ドミニク・レファレス』…氏名うじな持ちか…」

 『アバァ』の言葉に、クラウトも顎に手を当てて何かを考え始め、アサトは、クラウトを見てからアルベルトを見ると、アルベルトも何かを考えていた。


 その考えとは…なんであろう。

 実際、氏名…ウジナとは、何を示しているのかアサトには分からなかったが、というか、何となく…『ドミニク・レファレス』…。

 アサトは、その言葉…名前が2つある事に気付いた、ドミニクがウジナなのか、レファレスがウジナなのかはわからないが、多分…、アルベルトが言ったウジナは、そのどちらかなのだろう…。

 そう言えば、吸血鬼族のマグナル・リバルの父親と言われる、自称、吸血鬼の王は『グラハル・リバル』と言っていた…『リバル』と言うのが…ウジナなのだろうか…。


 「…まぁいい。じゃ、次の質問だ…」と身を乗り出した。

 その行動に身を反る『アバァ』

 「…さっき言っていた事…指がどうのこうのと言う事は本当で、お前は、その指欲しさに魔物を狩った…んだな」

 冷ややかな視線をおくると、その視線に首を横に振る『アバァ』


 「あぁ…そうか、なら…お前は狩ってはいないんだな」

 その言葉に大きく頷くと、『アバァ』の斜め後ろにいるイィ・ドゥへと視線を移した。

 「じゃ…お前か…」

 アルベルトに聞かれたイィ・ドゥは目を丸くして、斜め前にいる『アバァ』を見た。

 『アバァ』は、横目でイィ・ドゥを見ると小さく頷いて見せる。


 「…なにこそこそしているんだ?…そう言えば言い忘れた、助けてやるのは一人だけだ…、もう一人は…どうなるか分かっているだろう…イヌ野郎?」と冷ややかな視線をおくる。

 アルベルトの視線に小さく頷くイィ・ドゥは、生唾を飲み込み、「…め…命令された…。指を…1対の指を銅貨20枚で買い取ってくれる…それに…飯も食わしてくれて…」と『アバァ』を見た。

 『アバァ』は目を鋭くしてイィ・ドゥをにらんでいる。


 「そうか、イヌ野郎…お前らが殺して歩いてんだな…そして、飯と寝る所を提供する代わりに拉致をして歩いている…それで、いいか?」

 その言葉に、小さく何度も頷いた。


 「そっか…」と立ち上がり、『アバァ』を見下ろし…。

 「釈明は?」

 冷ややかな視線を向ける、その視線に生唾を飲み込み、左右を見渡している『アバァ』


 …そして……。

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