第37話 卒業試験の終了のあと… 上
膝をついて、矢が刺さっている場所に手を当てている『アバァ』は、眉間に皺を寄せて痛さを我慢していた。
そのそばにアルベルトが来て見下ろす…。
「…中に入れ!」
『アバァ』を軽く蹴り飛ばしてから振り返り一同を見た。
『オークプリンス』とジェンスが近くに進んでくる、その後ろにはロッドを胸に抱えたオースティとセラの姿があり、反対方向からは、レニィを先頭に、血を体に浴びているチャ子とケビンがついて来て、その後ろでは、トルースが大剣の血を布で拭きとっているのを、ベンネルが見ていて、目を細めているロマジニアが、アルベルトから視線を離さずに進んで来ていた。
正面には、クラウトが立ってお得意のメガネのブリッジを上げていて、その隣には、尖がり帽子を被っているシスティナが胸に手を当てて見ている。
その少し後ろにインシュアが腕組みをしていて、その隣ではケイティと並んでアサトが、犬のイィ・ドゥを拘束しているロープを手にしてアルベルトを見ていた。
村の入り口では、テレニアとアルニアが助けたネコの亜人と共に去ってゆく、それと入れ替えで、なにやら笑いながら向かってくる、髭のおっさんが2人見えていた。
そのおっさんらを見たアルベルトは、小さく舌打ちをし、林からも、援護に来ていたスカンのパーティーとディレクのパーティー数名が、顔をのぞかせていた風景を見た。
「これから、こいつに罰を与える…、インシュアとクソ眼鏡、クソガキはそいつを連れてこい…そして…」とロマジニアを見て、「…あんたも一緒に…」と言葉にすると、「お前たちは、俺たちが出てくるまでに周りをかたずけていろ…そして、決して覗くな!」
強い言葉で発すると、一同を見てから、向かってくるおっさん…ポドリアンとグリフへと視線を移した。
しばらくして、ポドリアンとグリフがその輪の中に入り、『アバァ』を見て目を丸くした。
「なんだ…こいつ!」
「…それは、人種差別だ…俺だって、なんだこいつ…の部類に入る」とポドリアンがグリフの腹をはたいた。
「まぁ~な」とグリフ。
「おぃおぃ…そこは否定する所だろ、相棒!」と再び腹をはたく、その行動にがははは…と笑う両者を、怪訝そうな視線で見ているレニィがいた。
「おまえらの面白トークはどうでもいい」とアルベルト。
「面白トークだって…」とグリフ。
その言葉にポドリアンが肩を竦め、その2人を見てシスティナが小さく笑う。
「デブ髭…お前は、そのクソカエルを連れて中に…」と冷ややかな視線を向ける。
「なんで…なんかするのか?」とポドリアン。
「あぁ…これから裁判だ。こいつに罰を与える…そして、そいつにも」
アサトの隣にいるイィ・ドゥに向かって顎を突き出して見せると、怪訝そうな表情を浮べながらポドリアンは前に進みだした。
「いいか、すぐに終わるから…お前たちは、言われたことをしているんだ。」
アルベルトは振り返り家へと向かうと、その後を追うようにインシュアが動き、システィナに向かって小さく頷いたクラウトは、インシュアの後ろについて行く、アサトはロマジニアを見てから、イィ・ドゥと共に進み出し、一同の動きを見ながら、外套の中で腕組みをしたロマジニアが動き出した。
その後ろ姿を見ているチャ子は、家の中に消えて行くアルベルトらの姿を黙って見ていた。
そのチャ子のもとにシスティナが近付き、ちょっと高い位置の頭を小さくなでてみる。
その行動にチャ子は、目元を緩ませ始めると…。
「シスぅ~~~」と抱きついて大きな声で泣き始め、その行動に、「ウン、チャ子ちゃん頑張ったね、わたしちゃんと見ていたよ、『アバァ』はアルさんに任せましょう…」と優しく言葉をかけた。
「ウン…ウン…、怖かった…怖かった……怖かったようぉぉぉぉぉ」と大きな声を発しながら泣き始めた…。
そんなチャ子の周りに一同が集まり始めると、ジェンスもこらえていた涙を流し始め、その姿を見ていたセラは、ジェンスの腰に手を回し、「ジェンス…かっこよかったぞ…」と小さな声で労った。
その言葉に小さく頷いて見せる。
トルースも大きな涙を流し、そのトルースを労うタイロンの姿があり、ベンネルとオースティは、手を取り合って壊れそうな笑みを見せあっていた。
システィナとチャ子の場所に、アリッサとケイティが来ると、チャ子の泣き顔に目頭を緩ませ、その状況を見ているレニィも、小さな涙の粒をこぼして笑みを見せていた。
…レニィらの卒業試験は、『アバァ』拘束で幕を下ろしたのである…。
家の中は寝室が2つに、キッチンとリビングダイニングがあり、そして、風呂場にトイレ…。
アルベルトは、寝室の一つに入る事にした。
その部屋は、寝室であるが、机や本棚もあり、大きめの部屋である。
寝室に入ると、部屋にある2つの窓のカーテンを閉めて、外からの遮光を絶った。
真っ暗とは言えないが、薄暗い部屋にインシュアが入って来るとクラウトが入って来た。
アルベルトは、近くにあるソファーへ腰を降ろし、その傍にクラウトが立ち、インシュアはベッドに腰を降ろす。
アサトがイィ・ドゥを連れて来ると、入り口近くで、ロマジニアとポドリアンを待った。
すこしして、外套を羽織っているロマジニアが入って来てから、カエル顔の『アバァ』が押されるように中に入って来た。
その後をため息交じりでポドリアンが中に入って来る。
ポドリアンは、アルベルトの前に『アバァ』を突き出し、膝を折らせるように膝裏を小さく蹴った。
その行動に『アバァ』は膝から崩れて、その場にひざまずく、その少し後ろにアサトがイィ・ドゥを連れて行き、同じ姿勢を取らせ、ロマジニアが、ドアの外を確認したのち、部屋のドアを閉めた。
「クソ眼鏡…光を頼む…」
アルベルトの要求に、クラウトは光の破片を少しだけ散りばめた。
その光を確認すると、アルベルトは、ソファーから『アバァ』を見下ろす。
『アバァ』は、肩を庇いながら鋭い眼光でアルベルトをにらみつけた。
「…じゃ…裁判を行う」
アルベルトが低い声で言葉にした。
「けっ、裁判なんて…」と『アバァ』。
「…あぁ、そうだな。…お前は、生きたいか?」
「い…生きたいって…当たり前だろう…と言うか、この状況は。お前はわかっているのか?わたしの雇い主が知ったら…」
「安心しろ…、この事は誰も知らない」
冷ややかな視線を向けるアルベルト。
「…し…知らないって…」
「あぁ…残念だな…まぁ、知られても、こっちは別に構わないがな…、それに…、ここに居る者以外の者も、今朝、俺たちが狩った。」
「…ま…まさか…、だが…」と目を大きくさせる『アバァ』
「とにかく、これは一方的な裁判だ、安心しろ、お前を弁護するのは…そいつだ」と犬のイィ・ドゥへと視線を移し、『アバァ』は斜め後ろにいるイィ・ドゥを見た。
「まぁ…弁護が出来るかどうかは関係ねぇ、なら…判決だ」と冷ややかな視線を向ける。
「判決って…」と『アバァ』。
「あぁ…お前は、生かす!」と強く言葉にした。
その言葉に、ロマジニアが目を細くし、インシュアがアルベルトを見ると、クラウトはメガネのブリッジを上げ、アサトは、何が起きているのかわからない表情で一同を見渡した…。
…え?生かすって…この人は、チャ子のお母さんを殺した人なのに…。
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