第35話 チェックメイト 上

 「ポッド!」

 長い耳を立て、ピンク色の髪をしているイィ・ドゥのピッチが 大きく飛び跳ねてポドリアンに抱きついた。

 「おぉ~、ピッチ、無事だったか!良かったな」

 ニカニカしているポドリアン。

 「あら…グリフも来てくれたの?」

 ピッチ4姉妹の長女ヤックが、魅力的な笑みを見せた。

 その笑みに「まぁ~な…」とニヤけるグリフ。


 「ほんとだ!おっきなオーク出て来た時にはびっくりしたけど!」

 ピッチとそっくりな顔の兎のイィ・ドゥ…、次女のネッサが周りを見渡している。

 「まぁ~、リッツから頼まれたからな…。遅くなってすまんな」

 ポドリアンが、ピッチを降ろしてからヤックに手を伸べた。

 「そうね…でも、みんなを信じていたから…、ちゃんと助けに来てくれるって」

 ポドリアンの髭つらの頬にキスをして笑みを見せ、そのキスに照れながらにやけるポドリアン。

 ヤックの行動に、隣で頬を出しているグリフの姿があった。

 

 「じゃ…、なになに?あのオークは仲間なの?」

 ネッサが猪顏のイィ・ドゥと対峙している『オークプリンス』を見て言葉にした。

 「あぁ、そうだ…」

 「へぇ~~」

 「アルじゃん!」

 村の入り口から、村に入って来るアルベルトらへと指をさすネッサ。

 「まぁ~~、とにかく見たいと思うけど、今はここから離れよう、林を出た場所に荷馬車を用意しているから」

 ネッサを降ろしたポドリアンは、残りの拉致者を降ろすと、一度、村の状況を確認したのち、助け出した拉致者らと共に林の中に消えて行った…。


 …村の中…


 「さて…」

 アルベルトは、『アバァ』へと進みながら状況を見ていた。


 進んでいるアルベルト、インシュア、そして、アサトとケイティに犬のイィ・ドゥ。

 少し置いて、クラウトとシスティナがついて来ている。


 腕組みをして、冷ややかな視線でジェンスらをみると、視線をゆっくりレニィらへと移す、そして…『アバァ』に猪顏のイィ・ドゥ。

 入り口から30メートルほど入った場所にある家の前に来ると、家の前でネコの亜人を抱いている『アバァ』の前に立つ。


 「へへへへ…ようこそ、我がギルドへ…」

 ウスキミ悪い笑みを見せる『アバァ』

 「あぁ?ギルド?」

 その言葉に、怪訝そうな表情を浮べた。


 周りは、『アバァ』とアルベルトを見ている。


 「へへへへ…そうですよ、ここはギルド…、あなたは、どんなご用件で、この村に来たんですか?」

 「…ッチ、ったく、ウスキミ悪いのは、その笑い顔だけにしとけクソガエル」

 『アバァ』に向かい吐き捨てるように言葉にした。


 「へへへへ、どうやら、何かを勘違いしているようですね…」

 「あぁ?何が勘違いだ?」

 「わたしはここに、あるお方の依頼を受けて参っております…。」

 口角を広げ、薄気味悪い笑みを、一層不快にさせる笑みをみせた。

 不気味に顔一杯に広がった口に、アルベルトは視線を細くしている。


 「あるお方は…、ご所望なんですよ…。その為に、依頼と言う形で、本来の手続きをふんでおります…。正式な…」

 「あぁ?正式だと?」

 「はい…そうです…、そして、あなた達が逃がしたモノらは…我々の所有物であり、そ…」

 「あぁ…、なに面倒な事、遠回しで言ってんだぁ?」

 アルベルトは『アバァ』の言葉を遮った。


 「へへへへ…遠回しとは…失礼ですね」

 『アバァ』はカエルの手特有の4本しかない手を、ネコの亜人の胸に持ってきて、大きく広げると鷲摑みにした。

 その行動に一層、アルベルトの視線が険しくなる。

 

 「へへへへ…これは合法であり、また、この地域の…」

 「どの地域だぁ?」

 「へ?…この…」

 「あぁ?なんだって、クソカエル…、どの地域だって訊いているんだ?」

 アルベルトは顎を引いて、目を細めて『アバァ』を見た。

 その瞳を見た『アバァ』は、小さく息を飲み…。


 「ルヘルム…地方…、そして…オースティア国の…」

 「あぁ…そうか、分かった。」

 アルベルトは辺りを見渡し…。

 「ふぅ…、お前は、俺の許可なく、この地方のモノを、どこぞの誰かに持ってゆく…そう言う仕事をしているんだな」

 言葉にした後、ゆっくり『アバァ』へと視線をむけた。


 「…あぁ~、そういう言い方は適切で…」

 「あぁ?、ならいい。お前は、奴隷をこの地方で狩っているんだな…」

 「…まぁ…、言葉は良くないですが、奴隷ではなく…使用人ですね…」

 「あぁ?使用人だぁ?、まぁ…それはいい。俺は、お前に一つ訊きたい」

 「訊きたい?」

 不思議そうな顔になる『アバァ』。

 「あぁ…、お前は、その使用人とやらを得る為に、村を消すのか?」

 アルベルトの言葉に大きく離れた目を細めて…。


 「あなたも、もう聞いていると思いますが…、王都では、マモノ狩りが行われてましてね…、マモノの指…両手の人差し指を持ってゆくと、王政府から謝礼金がでるんですよ…へへへへへ」

 言葉にした『アバァ』は、口角を広げて笑みを見せた。

 「…謝礼だと?」

 「えぇ…そうです。1対で、銀貨1枚…100対で…金貨1枚です…。」

 「…なるほど…それはいい話だ。だから…。不必要なモノは狩りの対象で、そっちでは、人間以外は、死ぬか、奴隷かの2つしか選択肢が無いと言う事だな?。」

 アルベルトは冷ややかなに訊いた。。


 「まぁ~、はっきり言えば、そうなりますね…。人間至上主義となれば、私のようなモノは、お偉い方の専属使用人にならなければ…狩られますからね…。狩りの側に立つためには、こういう立場にならなければならない。また…、賃金も安いですから…。」

 不気味な笑みを見せる。

 「あぁ…何となく…、お前らの行動は納得した」

 冷ややかな視線を『アバァ』に向けながら言葉にした。


 「へへへへ…あなたは、目つきは悪いが、話が分かる方だと思いました。私がお仕えしている方は、王政府でもかなり上の方です…、なので…」

 「あぁ…もういい、話は分かった…じゃ…」

 ジェンスを冷ややかな視線で見る。


 ジェンスは、猪顏のイィ・ドゥと対峙している『オークプリンス』の背中からアルベルトを見た。

 視線があったアルベルトは、次にジェンスらの反対側にいるレニィらへと視線をむけた。

 レニィらは、犬のイィ・ドゥと対峙している。


 「ガキども、よく聞け!。お前らの狩りは…今、目の前にいるモノらを狩って終了だ…!」

 アルベルトは大きく声を張り上げた後、『アバァ』の傍にいる猪顏のイィ・ドゥを見上げて…。

 「…わかったら、狩れ!」

 先ほどの声より、一段と大きな声を張り上げた。


 その言葉に弾かれたように…。


 ジェンスは『オークプリンス』の背中に手を当てると、「プリンス…右に弾いて」と言葉にする。

 その言葉に鼻を鳴らす『オークプリンス』。

 猪顏のイィ・ドゥは、両刃長剣を振り上げて、『オークプリンス』が持っている盾に叩きつけたが、『オークプリンス』は、その剣を盾で、簡単に右側へと弾き飛ばした。


 頭…4つ以上大きい『オークプリンス』の力によろけながら、弾かれた方へと進みだしたイィ・ドゥめがけて、『オークプリンス』の背後から出たジェンスは、左足へと剣の刃を素早く出した。

 肉が切れる感覚が柄から伝わって来る…。


 その感覚が無くなる前に、イィ・ドゥの背後に回る。

 脚を切られ、後方がお留守になった猪のイィ・ドゥの背中に、剣先を突き立てたジェンスは、体を預けるように力を込めて、剣先をイィ・ドゥの体内へと突き刺した。

 肉が切れる…裂ける感覚が走り、その感覚は、骨に当たると一度止まった…、その止まったのを感じたジェンスは、声を張り上げて、もう一つ踏ん張った。


 ガツン、ガツンと骨を砕いて進む感じ…、その感覚をもっとほしいままに、今度はイィ・ドゥめがけて踏ん張り、体をイィ・ドゥへと預けた。

 その勢いと痛さにイィ・ドゥは倒れ込み、体が地面に倒れ込んだと同時に、ジェンスの剣先は、イィ・ドゥの骨を砕いて、厚い肉体を貫き、固い地面へと突き刺さった。


 前方から倒れ込んだイィ・ドゥはゲフっという声を発しながら、口から血を吐き出す。

 大きな背中に体を預けたジェンスは、そのままイィ・ドゥの上になり…。


 「プリンス!首を刎ねろ!」と大声で叫んだ。


 必死に痛さを我慢していたイィ・ドゥは、両手を踏ん張って上体を起こそうとして、四つん這いになった時に…。


 ズバっ………と。

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