第32話 卒業試験開始! 下
『僕は…この狩りには、アルさんが言ったように正義を感じる…そして、この先、僕が正義と感じた狩りには、僕が全部、その狩り…命を奪う事に対しての責任を負う…。だから…ジェンスは、命を奪う事に対して責任を負う事は無いよ…』
「…まったく…背負い過ぎなんだよ…、少しは…俺も…、親父と同じ夢を見たいじゃないか…」と呟きながら『オークプリンス』の後ろから飛び出すと、ゴブリンの前に立ち…。
『いいかジェンス。僕が初めてゴブリンを狩った時は、突きで狩ったんだ…。師匠曰く…。『どの刃もそうだ。簡単に振れば、斬れる…なんて芸当は、初心者には無理だ。刺す。これは、初心者が一番初めに覚える芸当。斬るは…その次だ…』だからとは言わないが…もし、初めて狩る時は…前に出て…剣先を相手に突き立ててみたら?…、タンクの背後からいきなり現れたら、相手も驚く。…その間合いで…』
ゴブリンは、『オークプリンス』の背後から飛び出してきたジェンスを見て、目を見開いた。
ジェンスは、止まらない…駆け出したままの姿勢で、剣先をゴブリンに向かい…小さな胸に突き立てると…。
「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁ~」
大きな声を上げながら体を剣の柄に預けて、そのままゴブリンもろとも前方へ倒れ込んだ。
ジェンスの握っている柄からは、肉を切り裂く感触と体内に入る感触…そして、骨を砕く感触が伝わると、体を抜けた軽い感触が伝わって来た。
その速さは、思ったほど早くはない、初めてであった為なのかもしれないが、一つ一つの感触が、体全体に感じてくる。
命を奪う瞬間……これが……。
『うん。不安なんだよね…わかるよ…。命を奪うんだよね。僕も…と言うか、僕は半ば強制で狩りをしたんだけど、はっきり言えば…心が痛くなるよ、そして、怖かった…自分の手の中で、命が消える感覚…ってのが重く、重く……、でもね。それは、この世界で生きる為には必要なんだと思う。』
アサトが言っていた…命を奪う行為は…重い……。
ジェンスの手には、ゴブリンの血が傷口からとめどなく溢れ、そして、生ぬるい感触に覆われる手からは、小さく息をして、血を口と鼻から吐き出しているゴブリンの息遣いが感じられていた。
ジェンスは、顔を上げてゴブリンを見る。
目の前にあるゴブリンの表情は、眉間に皺を寄せ、目からは大量の涙が溢れ、歯を食いしばっているが、口の脇や鼻からも鼻水と共に真っ黒い血が流れだしていた。
ジェンスの下にあるゴブリンの体は、肩で息をしているのが分かる、ジェンスは、その命の火が消えるのを見届けようとしていた。
そこには…誰ともわからない…ゴブリンの母親から生まれたゴブリンが、人間と同じように日常を過ごしている、その間には…、怒られる事もあっただろう…また、楽しかった時もあっただろう…小さなゴブリンが、時間と日々を越して…こうして、今まで生きていた…。
今朝目を覚ました時に、今日死ぬとは思ってもいなかったと思う…。
こうして殺されるとは…。
この世界で生きる為…。
そして、この狩りには……。
「うあぁぁぁぁぁぁ」
ジェンスは、手にしていた柄をひねる!と、ゴフゥと言う唸り声と共にゴブリンが口から大量の血を吐き出し、肩で息をしていた動きも止まった。
ゴブリンの上で荒々しく息をするジェンス。
そして…、この狩りは…正義がある…、この地で、もう…拉致はさせない!と心で叫んでいた。
「ジェンス…次が来る」
頭の上で『オークプリンス』の声が聞こえ、その声に我に返ったジェンスは起き上がると、ゴブリンの遺体から剣を抜き、腰に吊るしている布を手に取って、剣先を拭き、そして、血で汚れている手を拭いた。
2体のゴブリンが、その光景を目を丸くして見ている。
「ようこそ…狩猟者の世界に!」
言葉をかけて走り抜けるポドリアン、その後に来たグリフは、ジェンスの肩を小さく小突いた。
荒々しく息をしているジェンスの傍にセラが来て、ゴブリンを見下ろす。
「ジェンス…」
「あぁ…セラ。今はいい…。」
ジェンスは剣を構えると『オークプリンス』の背後に回った。
これは、タイロンから学んだ戦い方である。
盾で防ぎ、そして…アタッカーが狩る!
「落ち着いたか?ジェンス」と『オークプリンス』
「あぁ…ありがとう…。もう大丈夫だ…覚悟が決まった…」とゴブリンを睨み。
「行こう!プリンス」と『オークプリンス』の太ももを小突いた…。
……監視サイド……
「アサトぉ~~」
ケイティが、アサトの服を引っ張った。
「うん…僕の時と同じだ…、僕もあぁやって狩ったんだ…」と懐かしく思っていた。
どう狩ったかは覚えてないが、確かに胸を突いて倒れ…そして…、肩に剣を突き刺されて…逃げて…。
でも…引けない何かと、頼れない感覚…その中で意地になって…、ゴブリンを足で押さえて、首に太刀を突き刺した………。
「もう…だいぶ前の話しだね…。」
アサトは感慨深そうな表情で言葉にする。
「だいぶ前?」とケイティ。
「うん…僕もね…。」と笑みを見せた。
その笑みが、何を言いたいのかわからないケイティは、小さく首を傾げた。
「…ジェンス…。ようこそ、狩猟者の世界に…」
遠くでゴブリンと対峙しているジェンスに向かって、小さく賛辞の言葉をおくった。
「レニィ…始まった。君はどっちを選ぶ…」
クラウトは、メガネのブリッジを上げて、立ち上がったジェンスを見てからレニィへと視線を移した。
「クラウトさん?」とシスティナ。
「うん。口火は斬った。まぁ、アルベルトから言わせれば…綺麗な狩りでは無いが、これでジェンスも仲間入りだ…。そして……、これからが本戦だ…」
「そうですね…わたしも今朝の光景を見て思いました…わたしは直接手は付けれないけど…わたしの力は、命を奪う力だって事を確信しました…。命って…本当に重いですね…」
「…そう…、だから、僕らは間違ってはいけない。奪わなきゃならない命と奪わなくてもいい命を…。」とシスティナとアリッサを見る。
クラウトの言葉に小さく2人は頷いて見せた。
「ジェンス…これは、奪わなければならない命…だから、突き進んで!」
アリッサが小さく言葉にする。
その言葉にシスティナはアリッサを見てからジェンスに視線を移した。
「…次は、レニィだ」
クラウトの言葉に2人はレニィへと視線を移した。
……レニィサイド……
レニーはなやんでいる。
…選ぶべき救出者は…
…醸造所の者か…それともポップの畑にいる者かを…。と…、村の反対側…ジェンスらの方向で大きな声が聞こえる…。
「ジェンス…始まった…、じゃ…みんな。」と振り返り
「ロマは…一人で大丈夫?」と訊く。
レニィの言葉に目を見開き、小さく頷いた。
「…なら、ちょっと作戦は変わるけど…。」と立ち上がりロッドを向けて…………。
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