第31話 卒業試験開始! 上
セラは呪文を唱えると、突き出したロットを小さく回す。
すると…、少し先に金色の直径2メートル程の円が作り出され、その弧に金色で文字らしきものが刻まれると、刻まれた文字が光を大きく放ち、円の中に淡い金色のさざ波が立った。
そのさざ波の中から…。
布を腰に巻いただけの姿で、鋼の鎧でもつけているような光沢のある茶色い肌に、血管と筋肉の筋がうっすらと表面にあらわれているほど、体脂肪の薄さを感じさせ、巨大な筋肉の塊をつけているような腕と胸の筋肉、そして、割れた腹筋とその周りの筋肉、すべてがはっきりとその造りを形に出し、下半身ともなると、太ももや脹脛はがっしりとした造りとなっていて、体全体が筋肉で出来ているような体の持ち主が、ゆっくり上がってくる。
その額には、深緑に輝くひし形のモノがついてあり、その深緑は、燃えているように揺らめいている…。
さざ波の中から現れたのは…、口を真一文字にし、鋭い眼光と深緑の召喚石を持った、『オークプリンス』。
ポドリアンとグリフ、オースティは息を飲み、ジェンスは、目を見開いて見上げている。
セラが『オークプリンス』へと進みだす。
「お嬢ちゃん…ほんとに大丈夫か?」
グリフが目を見開き、セラを見た。
「うん…大丈夫だよ…」
『オークプリンス』の足元に立って見上げ、『オークプリンス』は、セラを見下ろしている。
「…プリンス。今日は戦い…、ジェンスを守って…。」
ジェンスを指さすと、『オークプリンス』はジェンスを見た。
「そして…、あの人たちを助けるのに、敵を防ぐ…」
檻を指さすと、その指が示した方向を見る。
「ポッドとグリフが助けている間…ジェンスが戦う…ジェンスの指示に従って…」
『オークプリンス』の太ももに顔を預け、「オースティが…魔法の防御をかけてくれるから…頑張って来てね…」と頬をこすり付けると、そのセラの頭を軽くなでてオースティを見た。
「…ウッガ…ジェンス…指示。…それ…くれ…」とグリフを指さす。
「?」と大きく目を見開いたグリフ。
セラはその言葉を聞くとグリフを見て、「あ…、グリフ、武器やって…盾と剣…」と言葉をかける。
「あ…ああ…」
セラの言葉に、背中に背負っていた盾と剣を外して『オークプリンス』へと、おそるおそる渡した。
武器を手にした『オークプリンス』は、盾と剣をマジマジと見ると、鼻で息を大きく吐き出し、「小さい…だが、大丈夫。セラの言いつけの通りに…」とセラを見下ろした。
「うん…ポッドに武器造らせるね…今日は、それで我慢…」と笑みを見せた。
指名されたポドリアンは目を見開きながら何度も何度も頷いてみせた。
「じゃ…プリンス…行こうか!」
ジェンスの言葉に頷き、荷馬車に鋭い視線をおくった。
……監視サイド……
「…ッチ、始まったか…」
アルベルトがセラらがいる方向を見て舌打ちをしている。
「…あれぇ!」
指さすケイティ、アサトは、その大きな巨体を確認して頷いていた。
「始まったわね…」
アリッサの言葉に、システィナは息を呑んで見つめ、その傍でクラウトがメガネのブリッジを上げながら進みだした。
「…始まる…、じゃ、僕は、全体を見るか…」
視線をレニィらがいるセラ達とは反対方向へと視線を移した。
……レニィサイド……
「…みんな…覚悟は決まった?…準備を!」
レニィが声をかける…と、『オークプリンス』に光が纏い始めるのが見えた。
「出た!」とレニィ…。
その言葉と共に…盾を前に出している『オークプリンス』の巨体が進みだし始めた…。
……ジェンスサイド……
「プリンス…よろしく!」
「…」
無言でジェンスを見下ろす『オークプリンス』
「俺…恥ずかしい話だけど…まだ、誰も殺した事無いんだ…だから…足手まといになるかも…」
「…」
無言でジェンスを見下ろしている『オークプリンス』
「…ごめん…」
「…ジェンス…指示を出せ。おれは、セラの言う通りに行動するのみ…。お前の指示は?」
「あぁ…そうなんだ…。わかったプリンス。俺は、檻の中の人を助ける為に、周りのゴブリンらを…討伐する。お前は…俺に戦いやすい状況を作ってくれ…」
「あぁ…わかった…」
前を見る『オークプリンス』は、鼻を鳴らした!。
そして…。
「ジェンス…仲間…。お前を俺が守る」
そう言うと、大きく一歩を踏み出した……。
……レニィサイド……
「行こう!」
レニィが声をかけると、トルースを先頭にケビン、そして、チャ子が、中腰で村の中に入り、レニィとベンネル、そして、最後方をロマジニアが進んで一番端の家の壁に就いた。
状況を見る…、まずは…並んでいる家の裏手にある煙突が2本立っている建物。
その場では、村人と思われる者らがエール作りの作業をしているのを確認する。
砕いた麦芽の一部と米、コーン、スターチなどの副原料を煮ているようである。
壁越しに場所が見える所まで来たトルースが、後方を見てレニィの指示を待ち、レニィは、ロマジニアに後方と、家の正面に当たる場所の監視を命令すると、ロマジニアと一緒にセラらの行動を伺った。
巨体が、檻に近づいているのが分かる。
…まだ時間がある…
レニィは壁伝いに動き、トルースの脇から醸造所と、その向こうにあるポップの畑を見た。
醸造所と思われる場所には、犬のイィ・ドゥが4体、なにやら談笑をしている姿が見え、その外には…。
ロマジニアがレニィの肩を小突く、その感触に振り返ると、一緒に壁伝いに進み、家の正面が見える方向へと進んだ。
大きな真ん中の家に、亜人と思われる女性が連れ込まれるのが見え、その女性に付き添っている亜人が2体…。
家の中には『アバァ』と側近の猪顏のイィ・ドゥがいるはず…。
ほかは……、レニィは、その場をロマジニアに任せると、再び、トルースの方へと進んで、状況の確認に入った。
ポップの木が見える場所にオークの形が見える…その数、4体。
目を細めて見ると、そこにも住民が3人いるのが分かった…。
醸造所にいる住民は、5人。
住人の数は確認できた。
それでは、次…とレニィは頭を巡らす。
犠牲は…仕方がないとの事であるが…、出来る事なら全員救出したい。
ただ、この状況で、2つを取るのは…良くはない。
なら…。
ロマジニアの方へと進んだレニィはクラウトの方を見る。
クラウトは、レニィらが入った村の入り口の近くで、メガネのブリッジを上げてレニィを見ていた。
……どうしよう………。
……ジェンスサイド……
檻のそばで居眠りをしているゴブリンを、別のゴブリンが蹴って起こした。
眠い目をこすりながら顔を上げて、蹴ったゴブリンを見上げる。
その後ろには、檻の中の亜人にちょっかいを出しているゴブリンの姿があり、もう1体は…、林の中から現れたオークに向かって首を傾げていた。
盾と剣を持ってゆっくり進んでくる巨体、それは、味方なのか…?
ゴブリンは、とりあえず手を上げて挨拶を試みる。と…オークも盾を上げて応じた。が、その後方には剣を構えている人間と、髭面の人間、そして、ドワーフの姿に、外套に身を隠し、目深にフードを被っている小さなものと…神官姿の女の人間…。
それは…。
「ジェンス…斬れ!」
号砲がオークプリンスから発せられると、ジェンスは、何かに弾かれたように進み出した。
その心の中では、アサトの言葉が走っている…それも…強烈に…、その言葉は…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます