第30話 課題は3つ…と、採用試験…。 下

 「なので…総勢、18名に『アバァ』が狩りの対象である。」

 「1体減った…」

 インシュアが言葉にしながら現れた。

 「?」と一同。


 「…さっき、林に入って来たオークを狩った…気付かれる前に始めた方がいいぞ!」

 クラウトの前にオークの首を投げ出した。

 転がるオークの首、その首を見たクラウトがレニィらを見た。


 「さぁ~、狩りの時間だ!行くぞ!」

 声をかけ、クラウトを先頭に村へと続く道を進み始めた。

 「『アバァ』は中央にある家にいる、ここにきてすぐに行ってみたら、もうそこにいたのを、俺が確認した。側近は、でかいオーク2体だ。ほかは…雑魚だ。とにかく、デカいのだけは気をつけろ」とインシュア。

 「助かりました」

 林に向かって進みながらクラウトが小さく頭を下げた。


 「…おい」

 アルベルトの言葉に立ち止まったロマジニアは、アルベルトを見下ろした。

 「いいか、この卒業試験は、あいつらの試験だが、…お前の採用試験でもある」

 ロマジニアを鋭い視線で見た。


 「いいか…、ネコ娘は、確かにお前の娘かも知れないが、この試験で、一線を越え、狩猟者と言う生き方を選択する…とりあえずな…。その選択は、お前と一緒にいる場所ではない場所での生き方だ…」

 無言でアルベルトを見ているロマジニア。


 「…お前には、課題を与える…、…いいかよく聞け」と視線を鋭くして…。


 「誰も死なせるな…特に…娘は…」と強く言葉にした。


 その言葉に目を細めて小さく頷き、「あぁ。娘と会えただけで本望だ。お前の言う通りに、あの子の人生には、俺が踏み込める場所はない…それほど…あの子の周りには、家族のような絆ががんじがらめで張られている…。それだけ、暖かい家族を持っている事だ…だから、お前の申し出を俺は受ける…俺が必要だと言う言葉、しっかりと受け取った…。その試験は、お前が言わなくても、俺は、最初から全うする気だ」と見下ろす。

 「…ッチ、初めから分かっている…とにかく…誰も死なせるな」と振り返り林を見た。


 林には、村に向かうレニィの一団と、散開を始めたアサトらの姿が見えた。

 ポドリアンを先頭にセラ、ジェンス、グリフとオースティが村の南側に向かって進み始める。

 アルベルトは空を見上げた、そこには、真っ青な空があり、まだ夕暮れには早い時間であった。


 「…ったく…、もう少し遅かったらよかったがな…」と呟いた。


 アサトとケイティは、2人でポドリアン達が林の中を進んで行くのを見ていた。

 「ねぇ~アサト」

 「うん?」

 「あのさぁ~」

 もじもじしながら何かを話そうとしていた。

 アサトは、この姫がまた突拍子もない事を、話すのではないかとドキドキしている…。


 ……まぁ~、おおかた予想は着くが…、多分、妖精だろう。


 「…もしかして妖精?」

 話される前に訊くアサト、そのアサトを見たケイティは小さく首を傾げた。


 …あれ?違った?


 「え?妖精じゃないの?」

 「違うよ…、妖精じゃない…」

 「え?じゃなに?」

 「うんとね…アサトって…キスした事あるの?」


 …え…えぇ~~、なに、今聞く話じゃないでしょう…。


 「な…なんで?」

 「あのさ…ジェンス…、あの女とキスしてた…ってか…なんなの…あの女!」

 「キ…キス?」

 「うん…ほっぺにだけどね…、ってか、ほっぺでも…」

 ちょっと顔を赤らめているケイティ姫。


 ……え…なんで、ジェンスにヤキモチ焼いているの?もしかして…。


 「あぁ…、そうなんだ…、なんか気になるの?」

 「気になんないの…チームの仲間を色恋仕掛けで誘惑しているんだよ!もし、旅を辞めるって言ったら…」


 ……そうなんだ、ケイティは…、ジェンスが旅をやめると思っていて、バネッサに対して?って…本当に?


 「…あぁ…大丈夫だと思うよ…。え?なに?ケイティはジェンスが好きなの?」

 「あ…あぁ?ちょっとアサト!何言っているの?好き?…んなわけ無いでしょう。私は…」

 「あぁ…声、大きいよ…」

 アサトは困惑な表情でケイティを宥めた。


 その言葉に小さく肩を竦めたケイティ。

 「…なんか、ヤキモチって感じじゃないんだけどね…、本当に辞めちゃうのかなって思ったし……」と小さく言葉にした。

 「まぁ~、もしもケイティがジェンスを好きでも、僕は構わないよ…。誰が誰を好きになっても、それを否定は出来ない…、それは、生きているって事なんだし、想いなんだから…」と笑みを見せた。


 その笑みに…。

 「あぁ~、今、カッコイイ事言ったって気になってない?」

 にんまりとした表情を浮べたケイティ。


 …まぁ~、何となくだけど…。


 「そっか…わかったアサト。…んで?したことアンの?」

 目を皿のようにして訊いてくる……。


 …え…ええ…。

 した事はあるけど…それは、本意では無いし…。

 でも、事故みたいなモノであって、なんだろう、助けられるために止もう得ず…ってな感じだったから…。

 でも……。

 あの時は…。


 「…アサト…したことアンの?」

 目を大きく広げて訊くケイティ。

 「え?なんで?」

 「だって…なんか…物思いにふけっている表情だったぞ!」

 目を冷ややかにしたケイティ姫…。


 …え…ええ………。


 「ね!だれとやったん?誰と…」って、今から狩りなんですけど…ケイティさん……。


 ……同じ時刻、ギルド・パイオニア、アイゼンの部屋……

 「もうそろそろかしら…」

 アイゼンの部屋の窓から外を見ているサーシャが、ため息交じりに言葉にした。

 机で書き物をしていたアイゼンは、ペン先を止めてサーシャを見る。

 サーシャの姿は、遠くに思いを馳せる母親の表情であった。


 「…やっぱり、君は母親だね」

 「え?」

 サーシャは、窓の外から、アイゼンへと視線を変えた。

 「大丈夫だよ…。君の心配は、みんなが感じている。まだ目を開けない状況の時から知っている者らがそばにいるし、ナガミチを師と慕う者らがチャ子を危険な目には合わせない…特にアルベルトは…、私の考えだが、一番気を這っているのは、案外アルベルトかもな…」と笑みを見せる。

 その笑みを見たサーシャは、「そうよね…、本当に家族…みたいなものだし…ましてや、本当の父親が傍に居るんですものね…」

 目を外に向け、再び遠くを見つめた。


 「あぁ…そうだな」とアイゼン……。

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