第27話 システィナの魔法と『カンナ』への出発 上
「エル・ドラグア…」
システィナは、100メートル程離れた場所から、壊されている3つのテントと無事なテントの真ん中に、手と足を縛られ、正座をさせられている者らに向かって、重く呪文を発した。
システィナのロッド先にあった、直径5センチの闇色の球が、呪文に反応するようにいびつに膨張しながら、その者らへと進み出す…。
アサトとアリッサ、インシュアにグリフ、そして、エンパイアの狩猟者達とクラウトが、システィナの後ろで、その闇色の球の行方をしっかりと見ていた。
闇色の球は、縛られている者らの場所まで行くと、約10センチ程に膨張したのち、急激に縮小して……。
一閃が、目を覆うばかりの光を放つと同時に、光の線が四方八方へと光の速さで一瞬に走り、走り抜けた後を追うように土煙が高々に上がると、轟音が、地響きを伴いながら大きく重い風圧を伴って、爆心地からやく80メートルほどの辺りまで押し寄せた。
アサトらの立っている場所には、髪を大きく揺らすような重い風が吹いてくると同時に、細かい埃と土煙も辿り着き、髪以外にも服の裾などを揺らしていた。
システィナの魔法を見ていたアサトらは、一閃の輝きを腕などを使って目を伏せていたが、爆風が止み、土煙に埃…などが緩やかに勢いを失い始めるのを感じると、各々、ゆっくりと目を開け、腕などを降ろして爆心地を見始め、爆心地にいた者らを確認した。
その爆心地にいた者らの形が、その場で倒れ込んでいるのが見えてくる。
遠目でみると分からないが、たしかに生き物である事はわかるが、その者らがどのようになっているのかまではわからない…。
システィナは、目を閉じて小さく息を吐き、そして、ゆっくり目を開けて、爆心地をしっかりとした視線でとらえている。
「ドラゴニアの神よ…鎮まり給え…」
小さく言葉にすると、システィナの胸にあるペンダントトップが、先ほどまで怪しく光っていたのが、何かに吸い寄せられるように緩やかに消えて行った。
アサトらは、いまだに目を見開いて、その光景を見ている。
この攻撃は…、と言うか、この魔法は、たしかにクレアシアンが放った一撃、そのモノである。
威力を感じれば、ナガミチの家を破壊した魔法よりも弱い…、また、ドラゴンを狩った時よりもはるかに弱いが…確かに、性質はそのモノで、まったく遜色が無かった。
「…参った…あれで、どの位の気力なんだ?」
メガネを上げながらクラウトが驚嘆の声を出した。
「そうですね…こちらに影響がない程度って思ってましたので、かなりセーブしました…気力は、ほとんど使ってません」
「…てことは…」
息を呑みながらアサトはシスティナを見て言葉にした。
「ウン。この攻撃は、思考を注ぎ込む事が出来るの、私は、近くでも影響は無いけど、みんなにはあるの…だから、思考を注ぎ込む。この」
ペンダントトップを手にして、「アサト君の感触…」とアサトに向けて出す。
「ドラ、フレンデス…。」と言葉にして、「触れて…」とシスティナ。
アサトは不思議な表情でシスティナを見てから、ペンダントトップへと視線を移し、ペンダントに触れると、アサトが触れた場所が、先ほどのような怪しい紫色が光を放つと、ゆるやかに消えていく…。
「これでアサト君は、このペンダントが覚えたから、近くに居ても攻撃の対象にはならないの…」とシスティナはアリッサに向ける。
そのペンダントを見ながらアリッサが触れ、クラウト、ケイティ…、グリフと触れた。
「思考とは?」とクラウト。
「はい。攻撃の対象を絞ったり、今のようなペンダントトップが触れている者以外に攻撃をとか…と思考を流し込むんです。…とテレニアさんが言っていました。魔導書には色々な事が書かれています。ほかにも、今のように走らせたり…その場で、放ったりとか…」とペンダントトップへと視線を降ろし、「ドラ、フレンデス、エディ…」と呪文を言葉にすると、「これで終了です…」とシスティナ。
「数に制限はないのか?」とクラウト。
「はい、このペンダントトップが記憶している者らをエイアイ先生が消去しておいていると言っていました。そして、無限に記憶させることが可能との事です…。それも魔導書に描かれているみたいです…」と爆心地に向かって視線を向けた。
「まだまだ…覚えなければならない事は沢山あります…。アサト君…」とアサトを見る。
「アサト君の希望に添えなかったかもしれないけど…。」と付け加えた。
「いやぁ~、システィナさん…、ほんと凄いですよ。ぼくは…正直驚いています…。」
笑みを見せてシスティナを見てから、爆心地へと視線をむけた。
「そう言ってもらえるなら…」と肩をすくめる、そのシスティナを見て、「…僕も頑張らなくっちゃ…」と大きく笑みを見せた。
一同は爆心地に向かい進み始める。
インシュアが先頭でアサト、ケイティ、そしてクラウトにシスティナ、アリッサとエンパイアの一同が進んだ。
爆心地には、8体の遺体が胴体から真っ二つに斬り放されて散らばっていた。
目を強く閉じている者の遺体が主であった、多分、一瞬の閃光で目を覆ったのだろう、見るからに即死の状態のようであった。
アサトは、遺体の前に膝を折って座ると、目の前で手を合わせた。
…どうぞ、安らかに…。
その光景を見ていたシスティナとアリッサが手を合わせる、そして…、次々と手を合わせ始め、最後にインシュアが怪訝そうな表情をみせると、同じく手を合わせた。
…奪っていい命は、ないんだ…。
馬車から檻を外した荷馬車に、拉致された者らが乗り、その馬車の手綱をエンパイアの狩猟者が持った。
「とりあえず、『デルヘルム』へ連れて行く、そこからの処置は…、フレシアスさんの下で決めていいのかな?」
エンパイアの者がクラウトに訊いた。
「はい…。この討伐戦に参加したいとの事だったので、救出者は、こちらとそちらで面倒を見る事になっています」
「わかった…じゃ、行くぞ!」
「はい、私たちは、この場所を片付けたら戻ります。」
メガネのブリッジを上げて答える。
ギルド・エンパイアの狩猟人の情報で、アルベルトが向った一団と、今、アサトらが討伐した一団が『カンナ』を出た事を知り、この2つの討伐に赴いたのである。
アルベルトの一団は、アルベルトとテレニア、そして、ディレクのパーティとエンパイアの狩猟者ら8名が向かい、アサトらの一団は、クラウト、システィナ、ケイティにアリッサ、インシュアにグリフ、そして、エンパイアの狩猟者とアサトの11名であった。
アサトらは、テントを一か所に集め、そして、屍になった遺体をその上に置き、辺りに散乱しているものを集めると火をつけて、その場を後にした。
延々に立ち上る黒い黒煙が離れた先から見え、アサトの背中にはケイティが、アサトの腰に手を回して乗っていて、そのケイティも振り返って煙を見ていた。
インシュアとシスティナが馬に乗り、他は、一人で馬に乗っている。
5頭の馬が『デルヘルム』への帰途に着いた。
『デルヘルム』に着いたのは昼前である。
『デルヘルム』手前の林に入る前に、アルベルトの一団を、ケイティが気付いてアサトへと教えた。
アルベルトは、一団の先頭を、相変わらず冷ややかな視線で見ていて、その後ろには、靡く銀髪の髪が確認できた。
先頭を走っているインシュアも気付いたのか、馬の足を緩めて、アルベルトの一団を待ち始める。
その動きに一同も合わせた。
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