第24話 卒業試験前夜、それぞれの想い… 下
その日の夜は、静かな食卓であった…。
ケイティは、相変わらず好きな事を発していたが、セラとチャ子、そして、ケビンとトルース、ジェンスは無言で晩飯を食べていた。
レニィは、それなりに場数を踏んできているようなので、ケイティの話しに合わせて、ケタケタと笑ってはいたが…。
インシュアもソファーでエールを煽り、アサトとタイロンは、無言で晩御飯を食べ、アリッサやシスティナは、心配そうな表情でチャ子らを見ていた。
狩猟者…、パイオニアに所属していれば、通らなければならない試練である…。
明日の卒業試験…。
ただ、チャ子らには、動物を狩る事があっても、マモノの狩りは無い…。
チャ子らだけではない。
ジェンスやセラにとっても初めてである。
ドラゴンとの戦いは一方的であり、今回は、武器と武器を交じり合わせる戦いが予想される…その時にジェンスは…。
そして、セラも、初めて召喚したモノに殺しを命令することになる、直接、手を下す訳では無いが…。
アサトは、ジェンスとセラを見て思っていた。
自分も通った道である。
そこには、命の重さがあり、命の尊さを感じ、そして…この世界の入り口があることを…。
夕食を終えると、チャ子はナガミチの祭壇の前に立っていた。
その姿を見たシスティナがチャ子に声をかける、そして、アリッサもシスティナについて行き、チャ子の傍に来た。
「不安?」と訊くシスティナ。
システィナの言葉に小さくうつむくチャ子。
「私も…最初に魔物を狩った時には…心が病んだわ…でもね…それが、やらなければならない事とわかったの…、わたしは生きる為だった…」とアリッサ。
「わたしは…、みんなが必要としていたから…」とシスティナ。
「…これからも、アサト君やアリッサさん…みんなが、私を必要としている内は続ける…そして、奪った命に対して、責任をもって生きようと思っている…」と付け加えた。
「そうね…、でも、チャ子ちゃん…」
アリッサが腰を折ってチャ子の視線に合わせた。
「…アリッチ達が言っている事は分かるよ、かあさんともちゃんと話をした。チャ子も旅がしたいし…、その為には、やらなきゃ…って思っている…アサトがね…」
アサトへと視線を移した。
そのアサトは中庭で瞑想をしている。
「ゴブリン殺した時…泣いていたんだ…、…格好悪い位に…、でも…アサトは旅をしている…だから…。」
チャ子は小さくうつむいて…、「チャ子は…行くよ…ほんとのかあさん殺したやつを見に…」となにかを納得したような表情を浮べて言葉にした。
その言葉に、アリッサとシスティナが顔を見合わせていた…。
…深夜……
「アサト…起きているか?」
小さな声が耳元で聞こえ、その言葉に目を覚ましたアサトは、声の方を見た。
そこにはジェンスが立っている。
「あ…うん?どうしたの?」
アサトは起き上がりジェンスを見た。
「…少し、話してもいいか?」
ジェンスが何かを話したいと言うのは、アサトも薄々は感じていた。
「明日の事?」
その言葉に小さく頷くジェンス。
「そっか…いいよ。」
「あのさぁ~、明日…」
「うん。不安なんだよね…わかるよ…。命を奪うんだよね。僕も…と言うか、僕は半ば強制で狩りをしたんだけど、はっきり言えば…心が痛くなるよ、そして、怖かった…自分の手の中で、命が消える感覚…ってのが重く、重く……、でもね。それは、この世界で生きる為には必要なんだと思う。」
「必要?」
「ウン。そうだね…。僕は、師匠みたいにうまくは言葉を並べられないけど…、ジェンスはお父さんの背中の向こうを見たいとおもったんでしょう?」
その言葉に頷くジェンス。
「なら…ジェンスは、明日、越えなきゃなんない壁に当たるんだ、その壁の向こうは…お父さんが見た景色…」
「そうなんだよね…」
ジェンスも納得しているようではあった。
「…僕が言えるのは…、これは、気休めにしかならないと思うけど…。僕は、このチームを組んで、リーダーになった時…というか、今、思ったんだけど。ジェンス…。」
ジェンスへと視線をむけると、ジェンスは、しっかりとした視線でアサトを見ていた。
「僕は…この狩りには、アルさんが言ったように正義を感じる…そして、この先、僕が正義と感じた狩りには、僕が全部、その狩り…命を奪う事に対しての責任を負う…。だから…ジェンスは、命を奪う事に対して責任を負う事は無いよ…」
アサトの言葉に、ジェンスは小さく息を吐くと笑みを見せた。
「そんなこと言われてもな…、でも、最初の狩りにそう言ってもらえれば、ちょっとは楽になったよ…でも、怖いのは確か…、不安は、狩りだけじゃなく…もしかしたら…」
「あぁ…そうだね…。反対に殺される可能性もあるね…。そこは何とも言えないけど…僕は、信じているよ」
「信じている?」
ジェンスが不思議そうな表情で訊く。
「うん…仲間を…そして、クラウトさんを…」と笑みを見せた。
「そうか…、仲間か…」
腕組みをして考えるジェンス。
「…じゃなきゃ…、今まで生きて来られなかった。僕だけの力じゃない、僕が強い訳じゃない…仲間がいたから、生きて来られたんだ」
アサトを見ているジェンスは、小さく笑みを見せて、「わかったよ…アサト。お前は…やっぱりリーダーだな」と頷いて見せた。
「え?なんで?」
アサトは小さく驚いた表情を見せた。
「なんかな…、頼りないけど、色々心に響く言葉を持っているし…責任感も強い…。まぁ~、さっき言った全部背負うってのは怪しいけどな…」と笑みを見せる。
「そっかなぁ~、ほんとにそう思っているんだけど…、そして、一線を持っていると思っているし…」
「一線?」
再び、不思議そうにジェンスが訊いてきた。
「うん。インシュアさんが教えてくれたんだ、師匠が言っていたんだって、その狩りには正義があるか?そして、一線は持っておけって…、一線の意味は、人それぞれだけど、狩っていいモノと悪いモノの線は引いているつもり」
「…なんだぁ、それ?」
何をきたいしていたのか…、アサトの言葉に拍子抜けしたようなトーンで返したジェンス。
「ははははは…難しいよね…。とりあえず、僕は、助けを求めているモノは、どんな種族でも助けようと思っている、その為に戦いがあるなら…戦おうと思っている…。」
「助けをって…ゴブリンでもか?」
「うん、そう思っているよ」
少し間が開くと、大声で笑い始めたジェンス。
「ははははは…、お前はやっぱりリーダーだよ!ウン、分かった。おれも、お前の相棒になるために、明日の狩りは生きて、命を奪うと言う壁を乗り越える、そして、その一線をいつか見せてもらうよ」と親指を立てて見せた。
「あぁ…そっか…」
「じゃ…寝るわ…なんかすっきりしたよ…ありがとうな」
ジェンスは自分のベッドへと進んだ。
その後ろ姿をみているアサトは、自分が言った言葉は、紛れもなく本心であるが、肝心な事…同種族は斬らないと言う事を言わなかった事に、違和感を持っていた。
それは、甲羅虫の洞窟であった出来事を思い出していたからだ…、あの時…、同種族の者が取った行動は…アサトにとってみれば、一線を越えていた…から……。
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