第23話 卒業試験前夜、それぞれの想い… 上

 クレアシアン討伐戦5日前の夕刻。


 修行場には、トルースとレニィ、チャ子にオースティ、そして、ベンネルとケビンの順に並んでいて、その傍らに、アサトとジェンス、システィナにセラ、ケイティとアリッサ、そしてタイロンとインシュアがいる。

 アサトらの背後にはスカンらのチームがいて、チャ子らに向かい合うように、クラウトがメガネのブリッジを上げながら佇み、その隣には、アルベルトが冷ややかな視線で弟子らを見ている。

 その後ろには、アイゼンとポドリアン、グリフにテレニアの姿があった。


 レニィらが並んでいる前に一歩進んだアルベルトは、トルースとレニィ、チャ子にオースティ、そして、ベンネルとケビンの順に見ると話しを始めた。

 「急だが…、明日の夜…お前たちの卒業試験をする」

 その言葉に目を見開いたチャ子らはお互いの顔を見合わせている。

 「…ターゲットは…『アバァ』とその一味…、『アバァ』を含めた34名を…狩る!」

 冷ややかな目をレニィら一同へと向けて強く言葉にした。


 「34名…って、多くないですか?と言うか…『アバァ』って…?」

 驚いた表情のレニィ。

 「あぁ…今回は、難易度がかなり高い、そして…『アバァ』は…、ネコ娘の本当のかあさんを殺したモノだ」

 アルベルトの視線はチャ子を捉え、その言葉に一同がチャ子を見た。

 そのチャ子は目を大きく開けてサーシャを見たが、その言葉にサーシャは小さくうつむいてしまっていた。


 「かあさんは…」

 その言葉にサーシャはチャ子を見る。

 「かあさんは…サーシャ!」

 叫んだチャ子の声に弾かれたように振り返り、サーシャは口を押さえて嗚咽を始めた。


 「…かあさんは…」

 「ネコ娘…、お前のかあさんはサーシャだ、今も、これからも…それは、俺も、他のみんなも分かっている…。だが…この狩りには理由が必要なんだ」

 「理由?」

 腕組みをして、しっかりチャ子を捉えているアルベルトを見て言葉にした。


 「あぁ…、この狩りには、お前のようなモノを2度と出さない為に行うんだ…」

 「…2度と…」

 「この狩りには…心が伴っている。俺たちは、この狩りは正義と思っている。」

 「正義…」

 俯きながら言葉を吐き出したチャ子。


 「あぁ…俺は、正義の定義は、クソガキのようにちんたら考えないが…。この狩りには感じるんだ…狩らなければならない奴だと」

 アルベルトの言葉にチャ子らはアサトを見た。

 アサトは小さく肩をすくめ、申し訳ないような表情を見せている。


 「『アバァ』は奴隷商人。この地方で、ネコ科の亜人らを中心に、他の種族の女を誘拐しまくり、罪も無い者を殺しまくっている極悪人だ!。先日も『ジーニア』にいる兎っ子姉妹の長女と次女、そして、三女を誘拐しやがった…、だが安心しろ、あの兎っ子らは無事になんともなく生きている。」

 アルベルトは一同を見る。

 「ただ、生意気娘が言ったように、34名は、おまえらにとって難易度が高すぎる…だから」

 冷ややかな視線をクラウトへと移した。


 「この狩りに、チームアサトから、ジェンスとセラを加入させる」

 一歩前に出て、言葉を発したクラウトはジェンスとセラを見た。

 ジェンスとセラは目を大きく見開き、驚いた表情を見せていると、セラの傍にいたシスティナも目を見開いてセラを見た。

 その行動が分かったセラは、システィナを見る。


 「…セラちゃんがでるなら…わたしも…」

 システィナが胸に手を持ってきて言葉を絞り出すように出した。

 「あぁ?魔女っ娘…お前が出るレベルではない、…お前が出たら卒業試験にはならない」

 「そんな…」

 肩をすくめるシスティナ。

 そのシスティナを冷ややかな視線で見てから小さくため息をつき…。

 「…魔女っ娘…よく聞け」


 悲痛な表情でシスティナはアルベルトを見た。

 「…お前の力は、もう既に中級の魔法使いのレベルを超えた、本当の魔法使いのレベルに近づいている…、あの女と同じ領域に行こうとしているんだ…悪くとらえるな…」

 「そうよシスちゃん…」

 テレニアが声をかけ、テレニアを見るシスティナ。

 「シスちゃんの魔法は、強い魔法なの…、その魔法を本気で出したら、全部が消えちゃう可能性もあるの…、だから…今回は、暖かく見守っていましょう」

 優しくテレニアが言葉にし、その言葉に小さく頷くシスティナ。


 「じゃ…あたしが出る!」

 ケイティが手を大きく上げて声を張り上げた。

 「ダメだチビガキ!お前は『オークプリンス』討伐で勲章をもらっている、もう初級じゃない」

 「えぇ~」

 肩を竦めたケイティに、一同から失笑が沸き上がった。


 「それに…、…数日後には、大一番がある、ケガでもされたら困る、そして…、私が参謀として、この合同パーティーの指揮をとる…。」

 一同を見ながら、クラウトはメガネのブリッジをあげた。

 クラウトの言葉に胸を撫でおろすチャ子ら一同。

 「良かった…」

 レニィが安堵の声を上げ、その言葉に一同に再び失笑が湧いた。


 「相手は…イィ・ドゥと思われる者が18体、オークが8体。ゴブリンが8体の34体。どいつもこいつも人を殺してきている者らだ、お前たちでは手に負えない輩も存在するだろう…だから…」

 アルベルトは、チャ子ら一同の後方にいる者に視線を向けて…、「もう一人…参加させる」と言葉を発した。


 その視線にチャ子らが振り返ると、そこには…チャ子の父親と言っている豹の亜人、ロマジニアが立っていた。

 ロマジニアを見たチャ子は眉間に皺を寄せる。


 「…そいつは、歴戦の戦士と話してあった、だから、お前たちの力にはなると思う」

 アルベルトが、ロマジニアに冷ややかな視線を向けて言葉にし、その言葉に小さく頷くロマジニア。


 「作戦と課題は、明日の現場で知らせる。今日はここで解散。明日の昼にここを立ち、狩りは夕刻。その場に『アバァ』の一味が全員いる事を確認したら…行う!」

 クラウトが声を張り上げ、「要綱は以上だ」とアイゼンをみながら付け加えた。


 アイゼンは、クラウトの視線に小さく頷くと、レニィらの前にでた。


 「狩猟者として生きる為ではない…、君たちは、君たち自身を守るために今まで修行をしていたと思う。相手はたしかに未知数だ…、だが、どの戦いや、どこで襲われたとしても、相手は未知数である…。これが現実。君らは明日。本当の現実に直面するだろう…。その未知数に勝ってこそ生き残ることが出来る…、さぁ~、その未知数を楽しんで来い!」と声を上げて笑みを見せた。


 そこには…。


 生唾を飲んでいるチャ子ら一同とセラ…そして、ジェンスが、大きな笑みを見せているアイゼンを黙って見ていた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る