第22話 揺れる親心 下
「狩猟者…かぁ~」
「そう、かあさんは…仕方なくなったけど…チャ子は、チャ子が思ったように生きていいんだよ」
「思ったようになら…、チャ子は旅に出たいな~」
街を見ながら無邪気な笑みを見せた。
「旅?」
その言葉に大きく頷いて見せるチャ子。
「そう…、旅。この『デルヘルム』から出て…アサトやセラ…そしてケイティ達みたいに旅をして、一杯、一杯色々な所を見たいな…」
無邪気な笑みをサーシャに見せる。
「そうなんだ…そうだよね。ここの街は小さいもんね…」
サーシャが感慨深そうに言葉にした。
その言葉のトーンに違和感を持ったチャ子は、サーシャを覗くように見て、「ダメなの?」と訊く。
ハッと自分の表情が曇っていたのに気付いたサーシャは、大きく目を開け、大きな笑みを見せて首を振った。
さらさらと左右に揺れるサーシャの金髪。
「…ダメじゃないよ…セラちゃんも旅をしているから…それに…、かあさんも、チャ子には色々見て、聞いて、知って…知識を増やしてもらいたいと思っている」
「知識?」
「そう…知って学ぶことを知識って言うのよ…」
「そっか…知識、知識、知識…」
無邪気な笑みを見せて音頭をとっているチャ子。
そのチャ子を見ながら大きく息を吐くと、意を決したように、握りこぶしを作ったサーシャ。
「旅をする為には…それなりの覚悟が必要なのよ…判っている?」
「覚悟?」
再び、不思議そうな表情を見せたチャ子。
「そう…、覚悟。それは、自分を守るためにとる行動よ…」
言葉を探すようにして話した。
「守る為か…、」
「そうよ、その為には…」
「命を…奪うんだね…」
チャ子が遠い目で、街を見ながら即答をし、その即答に目を丸くするサーシャ。
「…うん…、何となくだけどね…。旅をしたいと思っているから……、それはね…アサトを見ていて思っていたの…、アサトはゴブリンを殺した…あの時、泣いていた…。チャ子は、なんで?って思っていたけど…。アサトが旅に出た日に思ったの…ゴブリンを殺したのは…旅に出る為の準備…グールを倒したのも旅をする準備…、殺すのが準備じゃなく…。旅をする為に持たなければならない力…みたいなもの…」
話しているチャ子を見ているサーシャは、何故か涙が溢れて来た。
チャ子が、この修行を、そう思って行っていたのに気付いた瞬間である、でも、それは、まだ本当の命を奪った行動ではない、これからとるべき行動なのだ、だが…、いいのか、悪いのか…アサトが流した涙の事を冷静にとらえ始めているチャ子が…、成長している事を感じていた。
「チャ子…正直に答えて、…あなたは、命を奪うことが出来るの?それは…尊いもの…、その人が、もう生きて行けないのよ…。その人の一生を…終わらせることが出来る?」
この言葉は…、重く、そして、サーシャ自体も胸を痛ませる言葉であった。
狩猟者とは…、そういう生き物であると言う事を教えなければならない…。
簡単に殺せるのは…、狩猟者に向いているとは言えない、それは…、異常である事が分かっている、また、殺せない者も狩猟者には向いていない…それは、この世界で死を意味する事になる。
その線引きが難しい事は、今までの経験で分かっている。
アサトが狩猟者に向いているのは、命を奪う痛さを経験をしたからだと思っている、それが、ナガミチの修行の成果であり、また、アルベルトやインシュアが持っている一線でもある…。
この子にその事を教えて挙げられるのは…わたしだけである…。
サーシャは、チャ子の目を真っすぐに見た。
「…わからないよ…、でも、インシュアやケイティ…アリッチも言っていた…それが正しいのかわからないけど…って……。」
「なんて言ってたの?」
「…ウン。それはね…『命を奪うのには理由があって、奪わなければならない命なのかを考える、そして、奪った後には…考えるんだって…それは…奪わなければならない命だったのか…』って…」
「そうなの…」
「かあさんわ?かあさんはどう思っているの?」
すがるような表情で聞いてくるチャ子に、サーシャは遠くを見て考えた。
自分が今まで行って来た狩りには、どう言う意味があって、また、どう思って行動をしていたのか…、それが、ナガミチやアイゼンの号令の中、指示をもらい、直接、命を奪った事を感じた事は無いが…必ず、ナガミチやアイゼンらは、狩り後には、感慨深そうな表情を浮べていた事を…。
それが、ナガミチが弟子に教えていた心の教育…、また、アイゼンも無用な狩りには、チームを派遣はしていない…。
「…かあさんは…、魔法使いの職業だから何とも言えないけど…チャ子がアサシンなら、この手で…」とチャ子の手を取る。
「命を奪うのよ…、その時にチャ子がどう思うかは…かあさんは分からないけど、奪う前に考えなさい…この命は、なんのために奪われるのか…と言う事を…、初めて奪った日は、眠れなかったと、ナガミチのおじちゃんやアイゼンのおじちゃんは言っていたわ…チャ子も、その痛みを味わうの…できる?」
真剣なまなざしを送ると、その視線にうつむくチャ子…そして…。
「わからないけど…」と修行場へと視線を移し、「…みんなも頑張っている…セラもケイティも…旅をしたいから強くなるって言っているし…仲間…も…」とレニィやケビンを見て…、「今のチャ子の仲間も頑張っている…そして…」とサーシャを見た。
「チャ子も頑張って、強くなって、みんなと旅をしたいの!命がどうのこうのって言われても分からない…でも、みんなが…仲間が危ない時は…チャ子はみんなを守りたいの!」と強く言葉にした。
その言葉に弾かれたようにサーシャはチャ子を抱きしめる。
強く、そして…強く………。
「かあさん?」
「かあさんの傍にいれば、苦しくないよ…、アイゼンのおじちゃんやインシュアの傍にいれば…危なくないし、守ってもらえる…かあさんは、チャ子には危険な目にはあってもらいたくないの…」と涙声で言葉にした。
その言葉を聞いたチャ子は目を閉じ…。
「うん…わかっているよ…チャ子も怖いの嫌い…」
「なら…」
「ううん…でもね…チャ子は、かあさんみたいな人になりたいの…。チャ子は、かあさん好きだから…だからね…おねがいかあさん…チャ子にも旅をさせて…」と小さく言葉にした。
その言葉にサーシャは力強くチャ子を抱きしめて…。
「…チャ子……」と言葉を漏らした……。
その風景を見ていたケイティ。
そのそばにレニィとケビンが来る、そして、セラとテレニア、すこし離れた場所で本を読んでいたシスティナが見ている。
タイロンとトルースも2人を見ていた。
オースティとベンネルも顔を見合わせ、修行場の傍では、アサトとアルベルト…そして、インシュアが無言で2人を見ていた。
その後ろには、アイゼンともう一人の影が…。
…その光景を、目を細めて見ていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます