第21話 揺れる親心 上
サーシャは終始、チャ子の参加を拒んでいた。
「君の言う事はわかる…だがな…サーシャ。チャ子はまだ子供であるが、これから自立をしなければならない…、この世界に誘われた者でも、チャ子と同じ年齢の子も少なくはない…」
アイゼンの言葉に、サーシャは力なく進み始め、応接セットのあるソファーへと腰を降ろした。
そのセットにアイゼンが進み、サーシャが座っている大きなソファーに座り、小さく震えている手を握った。
傍に座ったアイゼンの手が触れられたのに同調するように、もう一方の手をアイゼンの手の上に置く。
「…わかっているわ…」とかすれた涙声で、「…でも…、あの子は…」と付け加えたサーシャ。
「…あぁ、君の子だ、それは誰でもわかる。…そして、私たちの家族だ…。わたしも、あの子の参加には、君と同じ考えである…だがな、サーシャ。」
包んでいるサーシャの手に小さく力を込めて握った。
「あの子は、狩猟者への道を選択しているんだ…。ほかの者も同じ…あの子だけが特別では無いんだ…」
俯いているサーシャ…。
「あの子は…あの子が選ぶ道がある…、その道を私たちが敷いてはならない…。あの子には、この世界で生きる力と、この世界の事を多く知ってもらいたいと、私は常々思っている…。私らが知っている事の他にも…あの子が見て、聞いて…そして、感じて…、…あの子がこの世界でどう生きるかを選択してもらいたい…」
「親…心ね…」
アイゼンの言葉に小さく笑みを見せたサーシャ。
「そうだな…あの子が男の子なら、わたしも厳しく接していたが…、君が、あの子らしく育ててくれたおかげで、かわいくてしょうがない…だから…守ってやりたい、でも…、それはあの子の大事なモノを押さえつけてしまうような気がする…」
「……」
俯いて話を聞いているサーシャは、アイゼンの言葉は分かるが…、やはりどうしても参加させたくはない…。
「…あの子が…どう考えているか…聞きたい…だから、少し時間が欲しい…」
「そうだな。」
その言葉を聞くと、アイゼンの握っている掌を何度か弾くと立ち上がり、「夕方まで…待っていて…」と言葉にした。
その言葉に一同が小さく頷く。
その行動を見たサーシャは涙を拭いて、小さく力なく笑みを見せるとアイゼンの部屋を後にした。
アイゼンは座ったままでサーシャの後ろ姿を見ている。
アサトらもその姿を黙って見ていた。
サーシャは、牧場にある修業場に着くと、辺りを見渡した。
多くの狩猟者見習いらが、剣や槍、盾や斧…そして、魔法を使って修行をしている風景が見え、その中には、アサトと共に旅をしてきたセラが、テレニアの話しを聞いている風景もあり、また、ジェンスとケビンが、木の剣で打ち合いをしている姿も見えた。
タイロンにトルースが盾の持ち方を教わっていて、レニィが魔法を木柱へと放っているのも見え、そして…、ケイティとチャ子が…、木で出来た剣を使って戦っている…。
ケイティから指示を貰い、その指示に頷いているチャ子…。
身を屈めて飛び込む…、足を軸にして回りながら飛び込む…、大きく後ろにバク転をした後、剣を構える…そして、ケイティに連続の攻撃をして、ケイティを倒すと、その首に剣を突き立てる…。
知らず知らずのうちに、チャ子がサーシャには分からない世界の事を学んでいる、そして、仲間を信頼して学んでいる…それが、うれしいのか、悲しいのか…わからない自分がそこにいるのに小さく笑みを見せた。
「チャ子…」
修行をしているチャ子とケイティの傍に来て声をかけた。
「うにゃ?なに?かあさん」
チャ子は目を丸くし、小さく驚いている表情で答えた。
「…修行は楽しい?」
サーシャの問いに大きな笑みを見せて頷くチャ子。
「そう…、チャ子、かあさんとちょっと話をしよう」
その言葉に不思議そうな表情を浮べて首を傾げた。
「今?」
「うん。すぐに終わるから…」
サーシャの言葉にケイティを見ると、ケイティは立ち上がり、体に付いている土や草を払うと笑顔で頷いて見せ、その笑みに頷き、サーシャを見た。
サーシャもケイティに頷いて見せると、修行場にある東屋へと向かった。
その後を不思議そうな表情で追うチャ子…。
東屋は、4×2メートル程の広さに木を敷いた床で柱が4隅に立ってあり、屋根が付いてある。
四方には、70センチほどの柵が設けられてあり、東側は、街が一望できていた。
柵の中には、小さな一人掛け用の腰掛が4つ、数人が掛けることが出来る長い腰掛が2つあり、長い腰掛の間には、テーブルが1つあった。
高床式になっていて、その高さは50センチ程、東屋に入る為には階段を利用しなければならなかった。
長い椅子に腰をかけたサーシャの隣にチャ子が座った。
「…チャ子?修行は楽しいの?」
「ウン。楽しい、ケイティは一緒に修行して、色々教えてくれるから。」
満面の笑みを見せる。
「アサシンなの?」
「ウン。色々やったけど、これが一番しっくり来ている。かあさんは、魔法使いだよね?」
「そうね…母さんは魔法を使っているけど…最近は使ってないね」
小さな笑みを見せて、チャ子の問いに返した。
その表情を見たチャ子は、不思議そうな表情を見せ、「…なんかあったの?」
と訊いてみた。
チャ子の表情を見たサーシャは、小さく首を振って見せた。
「何も無いわ…。ねぇチャ子…。チャ子は女性になったのは…半年前だった?」
「女性?」
「そう…かあさんの所に泣いて来たじゃない…『死んじゃう、死んじゃう』って…」と笑いながら話すと、「あぁ…もう~やめてよ、恥ずかしい!」と頬を赤らめる…。
「かあさんは、あの時思ったのよね…、チャ子も女の人になったんだって…」
感慨深そうな表情で言葉にするサーシャ。
「女の人?」
「そうよ…あの時教えてあげたでしょう?」
「…あぁ…うん。そうだね…」
チャ子はニカっと笑みを見せ、そのチャ子の前髪に手を当てて髪を整えるサーシャ。
「…チャ子は…狩猟者で生きていくつもり?」
この質問は、サーシャにとっては重い質問であった為、気を紛らわすように髪を触っていたのであったが、チャ子の出す答えが怖いのもあった…。
そのような感情の中で、まともにチャ子の目を見て聞くことが出来ない自分が、イヤに思えていた…。
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