第20話 『カンナ』の村 下
「適切?」
インシュアが怪訝そうな表情を浮べる。
「…相手の数と『アバァ』の存在…そして…、拉致されたモノの数…。すべて条件が整わない限り、攻める事は出来ないと思う…。でなきゃ…不測の事態を考慮出来ない…」
「…『アバァ』を逃した時…そして…、『アバァ』を殺した後に逃げた者が…王都の高官に行くと考えたらか…」
アルベルトが静かに言葉にした。
「…あぁ…。可能な限り、『アバァ』の配下の者を…すべて狩らなければ…、そして、拉致された者すべてを無事に救出しなければ…」
「俺たちが狩られる…って事か…」
アルベルトが冷ややかな視線でクラウトを見た。
「そこまではないだろう」
インシュアはまだ村を見ていた。
「あぁ…つい最近まではな…」
そんなインシュアにむかってアルベルトが小さく言葉にした。
「そうです、今は奴隷が解禁になり、奴隷商人も大腕をはって奴隷を確保できる法がありますから…。高官なら、圧力を使ってでも、我々になんらかの制裁をする可能性も考えなければ…。」
「そうなのか…」
インシュアが眉をさげて言葉にする。
「クソ眼鏡の話しは、一理ある…、今日はこのままここで見張り、あいつらの戦力と可能なら拉致された者の数を押さえるぞ。」
アルベルトの言葉に一同が小さく頷いた。
その後、一度アルベルトが『デルヘルム』に戻り、アイゼンに事の説明をした後、アバァが宿泊していると思われる場所と、その近辺にある酒場などに見張りを用意してもらう事にし、『カンナ』に戻って来たアルベルトは、夕食と寝袋を持ってきて、夜通し見張りをする事にした。
ポドリアンとグリフ、そして、ギルド・エンパイアに協力をしてもらい、近隣にある村の偵察を行い、『デルヘルム』のエンダは、衛兵仲間と極秘に夜の巡回をしていた。
『カンナ』には、『アバァ』の姿が無かった。
夜中に、檻があると思われる場所にアルベルトが向かい、拉致されたモノの数とヤック、ネッサ、そして、ピッチの姿を確認して来た。
拉致されている者は全員で26名である。
檻の傍には、ゴブリンが4体、巡回で見張りをしているようであり、村人の数も、アルベルトが言った通り、家の数に対して少なく、夜になると、明りの点いていない家が何軒か見受けられた。
アルベルトが戻ってくると、やはり、少ないが住民が殺されている場所があったようだ。
『アバァ』の姿は確認できていないが、今、この村にいる者らは、イィ・ドゥと思われる者が6体、オークが5体、そして、ゴブリンが4体の15体。
オークは、村人にエールを作らせる監視役のようであった。
翌日。
『デルヘルム』から3人のパイオニアメンバーが来て交代をし、クラウトが状況を説明して、今の数とこれから来た者の数を確認しておいてくれとお願いをした後、『デルヘルム』へと戻った。
『デルヘルム』に戻ると『アバァ』は、やはりこの街にいたそうであり、北部にある酒場で飲んでいたようだ。
そばで話を聞いたものの情報によると、明後日『デルヘルム』から『ゲルヘルム』へ向かい、そこから山脈を越えて王都に帰るようであり、明日の夕方に、妖精を拉致して来た者が『カンナ』に到着するとの話であった。
宿屋の話しでは、明日までの宿泊代をすべて払って出て行ったそうである。となれば…。
「明日だな…」
アルベルトが言葉にした。
「エンパイアの者の情報では、南にあった妖精の木が切り倒され、数名が拉致をされたようだ…、赤い大地を『カンナ』方面に向かっている一団を見たらしい」
ポドリアンが髭を撫でながら言葉にし、妖精と言う単語にアサトは小さく目を丸くした。
…まぁ~、以前小人族のリッチを見た事があるから、いてもおかしくは無いけど…妖精って…。
「…そうだな…この地を離れられる前に…我々で狩ろう……どこがやる?」
一同を見てアイゼンが重く言葉にした。
「…あぁ、それなら、俺に任せてもらいたい」
アルベルトがアイゼンを見た。
「お前が出るのか?」
怪訝そうな表情を浮べたポドリアン。
「いや…考えがある」とアイゼンを見て、「…俺たちの弟子らの卒業試験だ」と言葉にした。
「いやぁ~、それは…」
その言葉にポドリアンが頭を掻きながら、困った表情を見せた。
「あぁ、そうだ、だがな…俺にも、お前にも時間はない…。ここでのんびりと後輩指導なんかしている場合じゃないんだ」
そんなポドリアンに冷ややかな視線を向けた。
「…まぁ…そうだな」
その視線を見てポドリアンはしぶしぶと返した。
「…それで…、奴らだけでは荷が重い…だから…」
アルベルトは、アサトを見た。
「…お前らのところの新人と合同だ!」
「…合同…ですか?」
驚いた表情を見せるアサト。
「あぁ、お前のところのクソガキ2とチビ狐だ…あの魔女っ子も考えたが…あんな魔法、本気を出されたら試験にならない…。だから…」
「あぁ、いいだろう」
クラウトの言葉に冷ややかな視線で見るアルベルト。
「システィナさんもと思っていたが…、アルベルトの言う通り、本気を出せば、一撃で終わってしまう可能性もある。だが…条件が一つある」
「条件?」
「あぁ…、チームの者が参加するなら…僕が作戦を練る」
クラウトは言うと、視線をアサトへと向けた。
アサトはクラウトの視線を見て、目を丸くさせると小さく笑みを見せて。
「そうですね…、これは、チームアサト…リーダーの僕からもお願いしたいと思います。クラウトさんなら、全員の能力を発揮できると思いますから…」
「…ッチ…そういうなら、構わない…まぁ、あのどうでもいい娘よりは、確実に狩れると思うからな…なら、おれからも条件がある…」
「条件?」
クラウトはメガネのブリッジを上げた。
「あぁ…その条件とは……」
アイゼンの部屋には、アイゼンとアルベルト、クラウトとアサト…そして、サーシャがいた。
昼過ぎの『デルヘルム』。
この後、この討伐戦の話しを参加者に伝える事になるが、その前にやらなければならない事があった、それは…。
「…ほんとうに?」
サーシャがアルベルトを厳しい視線で見た。
「あぁ、これからみんなを集めて説明をし…明日うちには狩る!」
「アイゼン。あなたも了承したの?」
「あぁ…」
アイゼンの言葉に、サーシャは、掌を握って頭を垂れた。
「…そんな…まだ…子供よ…。」
「あぁ…だがな。あんたには悪いが…」
「私は確かに、あの子に力を着けさせたいと思っているけど…」
サーシャが頭を上げてアルベルトへ鋭い視線を送った、その瞳は、涙で潤んでいるのが確認できた。
「そうだな…でも…これがこの世界の現実なんだ…、あの子には荷が重いが…いずれは行わなければならない…」
アイゼンが重く口にした。
「彼女だけではありません…、彼女以外の者も初めての事。殺生は、この仕事で…」
「わたしは、あの子を狩猟者として生きさせるつもりはないの!」
クラウトの言葉を遮るサーシャは、握り拳に力を込めて声を張り上げた。
沈黙が流れる……。
「あの子は…あの子だけには……。私らとは違う生き方を…してもらいたいの…」
大粒の涙を流し始め…。
その涙が、アイゼンの部屋の床をやんわりと濡らし始めていた…。
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