第19話 『カンナ』の村 上
「だ…だれか…た……たす………けてく…ださい…」
アサトのそばにあった樽から、か弱い声が聞こえて来たのに目を見開いて、咄嗟に太刀を抜くと樽の蓋めがけて、太刀の柄頭を叩きつけた。
ガフッと言う音と共に樽の蓋の木板が外れ、その外れた木板を外すと、中から口を布で塞がれていた、トラと人間の合いの子、イィ・ドゥの少女が涙を流しながらアサトを見ていた。
「アルさん!インシュアさん!」
アサトは2人の名前を呼ぶと、その声に一同がアサトを見た。
「ここに女の子が!」
その言葉にポドリアンが近付いて中を見て、小さく肩を竦めながら…。
「有罪確定だな」と店の方へと視線を移し、「インシュア、店主も捕まえなきゃ」と言葉にした。
その言葉にニカっと笑うと店の方へと向かい、「せぇ~の!」と掛け声を上げながら入り口の扉を蹴破って中に入って行った。
「…ッチ」
アルベルトの足元には、鼻から血を流し、白目で失神している男がいる。
店の中でドタバタが数分続くと静まり、インシュアに引きずられて失神している男が現れ、白目で鼻から血を流している男の傍に、その男を放り投げた。
「とりあえず…役者はそろった…」
並んで寝ている汚い様相の男と、店主を見下ろしながらアルベルトは、冷ややかに言葉にした。
「あぁ…さらっと、全部出してもらおう」
その言葉に、腕組みをして見下ろしているインシュアが付け加えていた。
その2人を見ていたアサトの傍にポドリアンが来て…。
「…ああはなるなよ」と呆れた表情を見せていた。
樽の中には、他にも3人のイィ・ドゥがいて、年齢も様々で、20歳を超えている女性と、10歳前後の少女が2人であった。
店主の話しでは、この子らは、昨日の夕方から今朝にかけて『アバァ』の手下が拉致をしてきたようであり、その子らを樽に入れ、ホロゾと言う、いまだに気を失っている男に渡すことになっているとの事であった。
1人につき金貨2枚と言う事で、すでに、10人以上の女性や少女を樽に入れて、ホロゾに渡したと言う。
呪術の薬で眠りについているようだ。
アサトの見つけたイィ・ドゥは、馬車が激しく揺れたので気が付いたようであり、ほかに、20歳を超えたネコの亜人と,人間の合いの子のイィ・ドゥも気付いていたらしい。
年が行かない子は、呪術の薬で未だに眠っていた。
「エンダの話しだと、このホロゾって言う男は、『カンナ』からのエールを納入する商人に成りすまして、数日前からここに来ていたようだ」
「そうか…、なら、『カンナ』は間違いが無さそうだな…」
アルベルトの言葉に返したアイゼンは、腕組みをしながらアルベルトを見た。
その視線に頷くアルベルト。
「俺とインシュア、クソ眼鏡にクソガキで偵察に行ってくる…、このきたねぇ~のが目を覚ましたら、あんたらが尋問をしておいてくれ」
「あぁ…そうだな。おまえら2人にやらせたら、情報を持っていても殺されるからな」とポドリアンが肩を竦め、「あぁ、わかった」とアイゼンが小さく笑みを見せながら答えた。
アイゼンの言葉に頷く4人は、振り返り部屋を後にしようとした。
「くれぐれも…慎重にな」
その言葉に一同が振り返りアイゼンを見ると、アルベルトとインシュア、そして、クラウトがアサトを見た。
…僕?
「あぁ…わかった」
ぶっきらぼうに言い残して、アルベルトは部屋を後にし、その後をインシュア、クラウト、そして、アサトがアルベルトの後に続いた。
馬に乗り、4人は西にある『カンナ』の村に向かった。
『デルヘルム』から1時間もかからない場所にある『カンナ』は、周りを林に囲まれ、南から北まで80メートル、東から西へ60メートル程の大きさで、レンガで出来ている壁で楕円形に囲われている小さな村だった。
村の奥には、背の高いポップの木が、村の1/3を覆っているのが見え、その手前にある2軒の小さな建物には、煙突があり、煙突から白くもうもうとした煙を上げているのが見えた。
その手前には、民家であろうか、1階建ての建物が7軒、北から南に向かって、まっすぐに並んで建っているのが見える。
7軒の家の前は、大きく拓けている…というか、以前にそこに家などの建物があったような雰囲気の拓けた場所になっていた。
村の入り口は、東側にあり、南側と北側にも小さな入り口があった。
東門から建物までは、30メートルほどであり、北と南の入り口からも同じ距離に最初の家があるようだ。
『アバァ』の拠点と言われているが…、見たところ壊れている家も無い、そして、数人の村人らが行き交っている。
アルベルトは林の中から村の光景を見ている。
アサトも見ているが、どこを見ても平和そのものであった。
「…おかしいな…」
アルベルトが呟いた。
「…あぁ…」
クラウトがスコープを出して覗いている。
「家の軒数から言って…住民が少なすぎる」
アルベルトは目を細め、南側の入り口近くにある、壁外の拓けた場所へ目を走らせた。
「…あそこだ…見えないように檻を隠してある…3つは、あるな…」と指をさし、アサトもその方角を見ると、確かに、布で覆われている何かが見えたが、中は確認できなかった。
クラウトも、その方向へとスコープを向けて見ていた。
「…おい!」
インシュアの声に村に視線を移すアルベルトとアサト。
インシュアが示した方向には、村の中央に位置する建物から少女が裸で出てきていた、頭には耳がある…イィ・ドゥであろう…。
その少女は年ゆかない少女であり、布を胸に当てながら、オークか…それとも猪か…判らないが、体の大きな男に連れられて、村から出て行こうとしていた。
少女が出て来た建物から、今度ははっきり猪と思われる頭をしたモノが出てきて、背伸びをしながら、近くにいた者と笑って話をしているのが見えた。
その猪の頭のモノは、体が人間のイィ・ドゥのようだ。
その男を見た時、アルベルトが小さく舌打ちをした。
「やるか?」とインシュア。
「…あぁ…」とアルベルトが短剣の柄に手を当てる。
「…待て…」とその2人をクラウトが止め、「…今はまずい…」と付け加えた。
そのクラウトは顎を林の方へと動かして、一同を林の奥に誘った。
林の中に入る一同…。
村の外観が見えるか見えないかの場所に来る。
「…今はマズい」
「あぁ?」
クラウトの言葉に、怪訝そうな表情を浮べてアルベルトが目を細めた。
「もし…今、我々がこの村を制圧したとしても…肝心の『アバァ』がいなかったら…」
「我々のターゲットは、『アバァ』の討伐とヤックらの救出だ。だが…、その『アバァ』の姿を見ていない、ここに奴がいたらいいのだが…」
「村の中で待てばいいじゃないか!」
インシュアは、村を遠目で見ながら言う。
「いや…、ここは相手の数を確認してから、適切に行動をした方がいい…」
真剣な表情でメガネのブリッジを上げる。
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