第18話 見境の無い弟子ども… 下

 「もういいだろう…」

 インシュアの声が闇に響いた。

 「あぁ…じゃ、お前らは、明日内にここから去れ…お前らだけでない…ここに居る者全員だ…」

 アルベルトは手を離すと、その手の感覚が無くなった事に、男はヘナっとその場に腰をついて座った。

 「場所さえ特定できれば…」

 インシュアが男の元に来て、腰を落とし…。


 「ありがとな…、それに…本当に明日、俺とこいつで、ここの大掃除をする…本当にお前らクソムシは目障りなんだ…お前らがここで死んでいても、誰も何も言わないと思う…まぁ…怒るのは、何人かいるかもしれないが…」と立ち上がり、「本気だからな」と重く言葉にした。

 その傍で冷ややかな視線で黙って見降ろしているアルベルト…。


 「もういいだろう…」

 少し離れた場所から声が聞こえる。

 そこには白いマントをつけている衛兵が声をかけて来た。

 「…あぁ…ようは済んだ…」

 インシュアが振り返り、衛兵の元に進み始めた。

 「え…衛兵さん…」

 衛兵は男を見て…。


 「…運が悪かったな…お前も。俺も…」

 男に言葉を吐くように伝えると、南門に続く道に向かって進み始め、アルベルトは、しばらく男を見下ろしてから短剣を仕舞い、インシュアと衛兵の後についた…。


 翌日、偵察バットが戻ってくると、セラの耳元に口を当ててセラを少しかんだ。

 セラは目を閉じて、その行為が終わるのを待つ。

 しばらく噛んだバットはセラから離れて、窓辺に置かれた石の上に立ち、ゆっくりと消えて行った。


 「思念をうけとった」

 「思念?」

 不思議そうな表情を見せたアサト。

 「うん…バットが取った行動を読み取る事…」

 「到着は『カンナ』ならいいが…」

 インシュアが一同を見て言葉にした。


 アイゼンは椅子にもたれながら、顎に手を当てて何かを考え、アルベルトは、いつになく冷ややかな視線を、一層冷ややかにしていた。


 「『カンナ』と言えば、昔、俺たちが『アバァ』を狩りに行った村の後に出来た村だろう…」とポドリアン。

 その言葉にアサトとインシュアがポドリアンを見た。

 「あぁ…そうだ。」とアイゼンが小さく答えた。

 「…って事は…またか…」と目を閉じるポドリアン。

 「それに…高官の使用人ってのも引っかかる」

 アルベルトは眉間に皺を寄せてアイゼンを見た。

 アイゼンは一度アルベルトを見ると、小さくうつむいて考え、クラウトは、アルベルトの傍でメガネのブリッジを上げて考えを巡らしていた。


 「坊ちゃん…ってのが、妙に引っかかっていたが…、こうなれば合点は行くな…」

 考えがまとまったのか、アイゼンがこぼした。

 「…手が出しずらい」

 クラウトの言葉に、部屋が重い空気に包まれた感じがした…。

 「…ここでこうしていてもどうにもならん!行くなら、とりあえず行ってみよう!」

 ポドリアンがハッパをかけ、その言葉に一同はポドリアンを見てから小さく頷いた。


 セラを先頭にギルド前から、セラ、クラウト、ポドリアンとアルベルト、そして、インシュアにアサトが進んだ。

 ギルドの建物を出ると、南西門へと向かい、しばらく進むと下りに入り、南西門が見える場所から折れて路地に入ると、宿屋通りになった。

 その通りにある、とある小さな宿屋の前に止まる一行。


 「…ここで寝ていたみたいだ…」とセラ。そして、その場を離れる。

 宿屋を後にしたセラらは南門へと進み、門を潜って森を抜ける。

 そこには、前日まで溢れていた奴隷商人らの荷馬車の姿は無く、誰一人として姿が確認出来ない程、ひっそりとしていた。

 その場を見たインシュアが口笛を吹いて笑みを見せていた。


 セラは、そこから西に向かう道を指さして言葉にする。

 「この道を進んだ、最初の村に行った」

 「あぁ…、『カンナ』だ」とポドリアン。

 その言葉に、アルベルトは、その道を目を細めて凝視し、インシュアは、腕組みをして見る、その傍でクラウトはメガネのブリッジを上げた。

 アサトは辺りを見渡し、そして、一同が見ている場所へと視線を向けた。


 道は、少し蛇行しながら走っている、その向こうには小さな林も見え、時折り動物が生い茂った草から顔を出しているのも見えたが、ゴブリンのような、マモノに準ずるものの姿は見えない静かな場所であった。


 「…じゃ…準備をして向かおう」

 アルベルトが振り返り、『デルヘルム』へと戻り始め、その後を一同が追い、アサトは一度、その道を見てから、『デルヘルム』へ戻る一同の後についた。


 南門を潜り、ギルドへと向かう道で男が駆け寄ってくる。

 「アル…探した!」と金髪の男が声をかけて来た。

 「あぁ…どうした?」

 「『カンナ』から来た商人の後を追っていた…」と言うと指を商店街に向けた。


 「ここから2本先の路地を右に入った店に荷物を降ろしている…汚い格好をしている男だ!」

 「エンダ…サンキュ!」

 インシュアが言うと、その方向へと駆け出し、アルベルトはエンダに向かって手をあげ、「夕べは悪かったな。付き合わせて…それに、ここまでやって貰って」と言葉にした。

 「なに言っているんだ、俺とお前の中だろう!」

 アルベルトの肩に手を当てると何回か小さく叩き、「あとは…お前たちの仕事だ、俺でカバーできることはしておく」と言うと離れた。

 「あぁ…いつも悪い」

 エンダにむかい言葉を発したアルベルトは、インシュアの後について進み始めた。


 アサトらもアルベルトについて行く。

 その際にアサトの尻を小さくエンダが叩き、「弟弟子!頑張れ!」と声をかけて来た。

 その言葉に、小さく笑みを見せてから頷いてエンダの元を離れた…。


 ……頑張れだなんて…。


 アサトらが路地に着くと、大きな物音を立てながら男が荷車に倒れ込み、インシュアがその男を立たせると、腹に重い蹴りを食らわせ、膝から崩れ落ちかけた男の髪を鷲摑みで持つと、引っ張りあげて立たせ、今度は拳で男の顏の側面を殴った。

 男は、勢いをつけて樽が積まれている荷馬車に崩れるように倒れ込んだ。

 その場にアルベルトが近付くと、腕組みをしながら腹に蹴りを入れ、咳き込みながら腹を押さえて膝から崩れ、膝たちで蹲った。

 その男の頭に足を上げたアルベルトは、足に力を入れて、男の顔を地面に押し当てた。


 「おいおいおいおい…師匠も見境なかったが…おまえらもか…」

 ポドリアンが呆れた声を上げ、2人をクラウトがメガネのブリッジを上げて見ていると、その後ろに隠れるように見ているセラがいた。

 アサトは荷馬車に近づいて見ていた…と。

 「?」とアサトは、荷馬車に積まれていた樽から、何かが聞こえてくる音に気付く…。


 耳を澄ます……。


 「あぁ…、俺は何も言わねぇ…から、体で聞いているだけだ…、こいつが自分から言うまで…やるだけだ」

 アルベルトは冷ややかな視線で男を見下ろし、頭に乗せた足に再び力を入れ、小さく左右に動かした…。

 「あ…あ…あ…いでぇ……な…に…する…」

 「なにするって?」

 アルベルトは冷ややかな視線で見下ろし、その傍にインシュアがしゃがみ込んだ。

 「聞かなくても…ココの店主に聞けばわかる…生きて帰れるのは…どちらか1人だ」

 男の鼻めがけて拳を突き出し、その男の鼻は大きく砕け、だらだらと鼻血が流れだした。


 アサトは、2人を見ながら…樽の中から聞こえる音に耳を傾けていると…中から……。

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