第17話 見境の無い弟子ども… 上

 「…ったく、それはいつだ?」

 アルベルトは目を細めている。


 ここは、ギルドパイオニアの建物。

 その建物のアイゼンの部屋には、アイゼン、アルベルト、インシュアにクラウト、そして、アサトとポドリアン、サーシャとグリフが話を聞いていた。


 「…お昼の番を終わって帰ったら…荒らされていて…」

 頭を抱えて話しているリッツの傍で、ランディが重いため息をついていた。


 「…それで…お前が『アバァ』の仕業だと言う根拠は…」

 アルベルトがランディへと視線を向けた。

 「夕べ…お前らが帰った後に、あいつらが店の子を物色していたようだ…」

 「物色…とは?」

 アイゼンは訊く。

 「アイゼンさん…ほんとにすみません…」

 頭を大きく下げてみせたランディ。

 

 「…いや、気にするな。私たちは、その『アバァ』の情報を聞きたいだけだ…」

 アイゼンが笑みを見せるが、目は真剣である。

 「…近くにいた者の話しだと…『噂は本当のようですね、これでお坊ちゃまもお喜びになるんじゃ…』と一緒にいた男が、カエル顔の男に話していたそうなんです…、そのカエル顔の男も気持ち悪い笑みを見せていたと…」

 「…ッチ、薄気味悪い男か…」


 「…お坊ちゃまってのが引っかかるな…」

 アイゼンが顎に手を当てて考え、クラウトがメガネのブリッジを上げて言葉にする。

 「そうですね…、とりあえず、ヤックたちを探さないと…」


 リッツは、ヤックの姉妹の末っ子のようである。

 話を整理すると、ヤックとネッサ…は次女だが、その2人は午後4時からの出勤のようであり、三女のピッチは非番のようであった。

 リッツが家に帰ったのは、午後5時だが、すでに家は荒らされており、3人の姿が無かったが、とりあえず、ピッチを待ってから行動しようと思ったらしい、だが、6時になっても帰って来ない。


 ピッチは、崖を登るクライミングと言うスポーツやダンスにも興味を持っていたようでもあり、非番になるとどちらかをしていたようである。

 そのどちらかをしていても、遅くとも6時には帰って来るとの事であった。

 その6時に帰って来ないので、『ジーニア』の店に行って、姉2人を確認したが、出勤していなく、店長のランディに相談して、インシュアの所に来たそうだ…。


 「居場所さえわかれば…」

 インシュアは、頭を抱えて座っているリッツを見て言葉にした

 「…いや、ここはヘタには動けない…というか、動かない方がいい」

 アイゼンが重い口を開いた。

 「そうですね、お坊ちゃまと言う言葉を聞いた限りでは、ヤックらには手は出さないと思います」

 アイゼンの言葉にクラウトが付け加えた。


 「…じゃぁ…どうするんだ?」

 少し苛立ち気味のアルベルト。

 「すでに壁の外に連れ去られていると考えれば…明日を待って行動をした方がいいかも…」

 「そうですね」

 クラウトが、アイゼンの言葉に同意をしてみせた。

 「…ッチ」と舌打ちをすると立ち上がり、「じゃ、おれは外にいる者たちと交流をして来る」とアルベルトがアイゼンを見た。


 「…まぁ…ほどほどにな」

 肩を竦めてみせるアイゼン。

 「付き合う」

 インシュアが立ち上がり、アルベルトとインシュアは、応接セットのある場所から離れた。

 「すまないな」

 動き出した2人に言葉をかけたランディ。

 「あぁ、見つけて連れ帰ったら、タダで飲ませろよ」

 インシュアが親指を立て、アルベルトと共に部屋を後にした。


 「明日、セラのバットが帰ってきたら捜索に出よう」

 アイゼンは立ち上がり、「今夜は、ここまでで……」とランディを見た。

 ランディも立ち上がり、大きく頭を下げて…。

 「すみません…」と言葉にし、リッツも立ち上がり、大きく頭を下げてみせた。


 …少し経った壁外では……

 「…それでぇ?」

 暗闇に包まれている森の一角で、ボロボロの服を着ている者が、首に手を当てられた状態で木に押さえつけられ、その左の目の先には、短剣の剣先が怪しい輝きを放っていた。


 「…それでって…言われても…」

 「知らないならバラバラにしてしまえよ…」

 押さえつけている男の向こうから声が聞こえて来た。


 「バラバラ…って…」

 男の前には、怪しい光を放つ剣先の向こうに冷ややかな視線が、揺らぎのない視線で見つめている。

 「…『アバァ』に関しては…俺たちも知らないし…それに…」

 「それにぃ?」

 冷ややかな視線で訊く。

 「…関わり合いにはなりたくねぇ~」

 冷ややかで、殺気立っているように見えている視線から、目をそらした男。

 「あぁ~そうか…なら、用済みだ…。ハンティングベアーのえさになれ…」

 剣先を下に持ってきて、胸に軽く突き立てる。


 「…ま、ままままて………」

 「あぁ?」

 一度外した冷ややかな視線を再び向ける。

 「…聞いた話だ…これは…」

 「なんだ?」

 冷ややかな視線の向こうに見える形が声を発して訊いて来た。

 「…あいつは…、王都の高官の使用人って話だ」

 「使用人?」

 冷ややかな視線の向こうに見える形が、再び訊いた。


 「あぁ、そうだ…」

 「誰だ?その高官とは…」

 冷ややかな視線の男…。

 「それは…」

 「アル…もういい、なんか小出しにされるのは面倒だ、別のヤツをかっさらおう」

 「…あぁ、そうだな」

 アル…と言うのもアルベルトで、その後ろには、インシュアが腕組みをしながらアルベルトの尋問を見ていた。


 「いや…待て待て待て待て…」

 「待てばかりじゃ先に進まない…俺たちは、ここにいるお前らが目障りなんだ…。別にお前ひとりがここで死んでいても、誰も何も言わないだろう?それに…最近じゃ、ハンティングベアーも近寄りはしなくて、俺たちも暇なんだ…ここにお前らの死体を捨てておけば、餌付けにもなる…」

 冷ややかな視線で男を見た。

 「アル…って、アルベルトか?」

 「?」

 「…なんだ、お前を知っている口だな…ならいいんじゃないのか?」

 インシュアが数歩前に出て来て、不敵な笑みをみせた。

 「いいって?」

 アルベルトは、そばに近づいたインシュアに向かって訊いてみた。


 「お前の素行の悪さを分かっているんなら…やっても…」

 「あぁ…そう言う事か…そうだな。なら…俺に会って、聞かれたことをちゃんと伝えなかった事を後悔しろ」

 胸に突き立てている剣を小さく押す。


 「あぁ…待て『カンナ』だ…、『カンナ』…、今、あいつらは、あそこの村に居ついているようだ…」

 焦った男は声を上げた。

 「『カンナ』?」とアルベルト。

 「隣村だ…西に…20キロほど行った場所だな…」とインシュアが言葉にする。

 「あぁ…そうだ…聞いた話だと、そこを拠点に亜人らを拉致しているようだ…最近、南から来て、その村を襲ったそうだ…」

 アルベルトは冷ややかな視線を男に向けたままである、その鋭く冷たい目に男は生唾を飲んだ。

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