第16話 動き始めた非の波… 下
「それじゃ…息を大きく吸って……」
テレニアがシスティナの肩に手を当てた。
「はい…すぅ~~~~」
目を閉じて多く息を吸い込むシスティナ…、そして、目を開けて、細く短いロッドをゆっくりと水平に上げて……。
「闇と光の神に仕えし、ドラゴニアの神よ…」
その言葉に、胸にある円に▽の印が入ったペンダントトップから、明るい紫色の光が大きく放ち始めた。
「わたしに…力を…」
その言葉で、ペンダントトップは一気に輝きを増すと急激に光を収束させ、トップ自体が怪しい紫色で輝きだした。
「…これで、いいわ…」
テレニアが笑みをみせ、輝いているペンダントトップを手にした。
「…魔法を使えば、この輝きがだんだん薄れて行くわ…、それが、魔法を使う目安…。輝きが無くなったら…シスちゃんも気力が尽きるころよ…」
その言葉にシスティナは、テレニアからペンダントに視線を移した。
そばにいたセラへ視線を移したテレニア。
「セラちゃんはわかると思うけど、セラちゃんの場合は、召喚石の揺らめきが気力の目安や、召喚獣らの気力の目安よ…、召喚獣が倒されれば、揺らめきは無くなる…、分かっていると思うけど、石に帰ってくるのよ」
その言葉に、紫色の召喚石を手にして見ながら小さく頷くセラ。
その召喚石は、先ほど放った偵察バットの召喚石であり、その召喚石の揺らめきは、大きくはっきりとしている。
「召喚バットを使っている時は、極力、他の召喚はしないようにしなきゃね…」
笑みを見せているテレニアの表情に、小さく頷いてシスティナを見た。
システィナは、大きく分厚い本を取りだして目を通している。
「古代文字…だから、読めないよネ…」
「…はい、でも、エイアイさんがくれた別の本には、色々書いてありました…とりあえず…」
下げていたロッドを再び水平に上げて……。
「エル…ドラグリア…」
呪文を唱えると、ロッドの先に直径15センチの闇色の球が現れ、その球をシスティナがロッドで小さく押すと、ゆっくり前方へと進み、10メートル程行った所で止まると…急激に縮小して…。
一閃の閃光を放った後、ドォォォォンと言う爆発音を伴った爆風を放った。
「あっ…」とシスティナ。
「まぁ…」とテレニア。
「…」とセラが目を見開いて、その爆発を見ていた。
巨大とは言えないが、重い爆風が闇色の球を中心に360度に走り、爆発の規模から言っても、大きな衝撃では無かったが、その風は見ていた3人には重く届いていた。
「ロッドのここにある…」
テレニアがロッドの柄頭にある、36面にカットされている淡い赤色の水晶を指さした。
「これにあなたの気力を注ぎ込めば、強さの調整が出来るわ…」
「先ほどは、ちょっとだけ…と思っていましたから…」
システィナを見て頷くテレニア。
「…それでいいのよ…気力は想い…だから、壊したいって願えば、大きな攻撃力を生む、でも、ちょっと悪戯気味に…なんて思えば、あんな感じよ」
笑みを見せて、自分がはめている指輪をシスティナの目の前に持ってきた。
「これが、エルフの神が宿る指輪。クラウト君も持っているけど…、シスちゃんはトップで私たち神官は指輪なのよね…」
2人の会話を見ていたセラを見て。
「セラちゃんは…、特別な力…クレアシアンと同じ感じね…クレアシアンは、魔族。でも、セラちゃんは…召喚族、そして…、神族と言う…特別な種族もあるの…。この世界では、この3種族は、生まれ持った強大な力を有する種族なのよね…。」
「神族…?」
不思議そうな表情を浮べたシスティナ。
「そう、神族って言うのは…今は絶滅…と言えばいい方が悪いけど、途絶えてしまったと言われる部族があって、その部族は、古代から…神の子と言われていたわ…、この世界では、『バルキリー』と言われている翼有人族よ…、この部族は、魔族と対等に戦えると言われていたけど…」
不思議そうに聞いているシスティナを見て…。
「…アズサさんのチームにいる事はわかっている…」
「…アズサさん?」
システィナの言葉に首を傾げて見せると、「…内輪の話しよ…」と答えを濁らせた…。
「…ッチ。あれじゃ、まるで魔女じゃねぇ~か」
舌打ちをするアルベルト。
「あぁ、話は本当のようだな」
インシュアは遠い目で3人を見ながら答えた。
遠くからシスティナの修行を見ていたと言うか、気になって見ていたアルベルトらが、システィナの魔法に言葉を吐き捨てていた。
古の魔法を授けてもらったというのもおかしいが、エイアイから教えてもらった魔法を、今日試すとテレニアから聞いていたが、クレアシアンと同じような魔法を使った事に目を細めていた。
「…どうなっているんだ?この世界は…」
「…まぁ…、ここ何日かで、色々な常識が壊れて行っているからな…」
インシュアは天を仰ぎながら言葉にする。
テレニアは、エルフの神が宿る指輪を持ち、システィナは、細いロッドで魔法を放つ。
セラは、セラでどこからか分からないが、マモノを召喚する事は分かっていたが…。
その3人の姿を、どこか遠くの存在に感じ始めていた自分をいらだつように、眉間に皺を寄せて、アルベルトは見ていた。
夕刻…デルヘルム南正門。
「…中身はなんだ?」と衛兵。
「エールの空き樽です」
大柄の顔じゅう髭面の男が、ニカっとした笑みを見せたが、そのモノが開けた口から見える歯はボロボロである。
「…そうか…」
荷馬車には、樽が横に積まれてあり、その高さは2メートル以上であった。
「どこに持ってゆく」
「『カンナ』の村です」
衛兵は紙に目を通して見る。
紙には『カンナ』から来ている者の名前が記してあった。
「名前は?」
「ホロゾ」
紙に書かれてある名前は、『ホロゾ』である。
「~あぁ、エールね…、こんど安く頼むよ」
ニカっと笑みを見せる衛兵。
「任せてください」
ホロゾは再びニカっと笑った。
「行っていい!」
衛兵は門番に手を上げ、ホロゾは小さく頭を下げて、馬を進め始めた…。
南正門から荷馬車が遠のく後方部がみえている…そこには、多くの樽が積まれてあったが……。
その日の夜の事である…。
夕食を終えて雑談をしていたインシュア、チャ子、そしてケイティ。
タイロンはなにやら大工仕事をトルースと行っており、アサトは瞑想をしていた、そのアサトをニコニコ笑顔で見ているレニィ。
ケビンは、アサトの傍で瞑想にふけり、ジェンスはまだ帰ってきていなかった…、多分、バネッサの家で夜ご飯を食べているのであろう。
アリッサは、システィナと一緒に後片付けをしている。
穏やかな夜を迎えていた。
そこに、玄関をノックする音が聞こえ、その音にチャ子が反応して応対にでると、そこには、坊主頭に口髭を生やした、体の大きい男が、前掛けをつけた格好で立っていた。
「おっ、ランディ!」
インシュアが目を丸くして、「…おれは…ツケは払っているぞ!」と付け加えた。
「インシュア…」
神妙な面持ちで言葉をかけると、ランディの後ろから、長い耳にピンク色の髪をショートカットにしている、目のコロンとした兎のイィ・ドゥの女性が現れた。
「リッツ!」とチャ子。
インシュアが立ち上がり目を細めた。
チャ子の声に、中庭にいたアサトも瞑想をやめて、中庭から中を見ている。
「…おねぇ~ちゃん達…いなくなった…」
うつむくリッツの言葉に細めた目を、一層険しくしたインシュアの表情がそこにあった…。
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